「魔法のピル」を飲みたくない理由
日本のニュースを見て、ちょっと驚いた。肥満症治療薬「マンジャロ」などの不適切なオンライン処方や、美容目的の自由診療を制限するという記事。スリムな人が多い日本で、そんなにその手の薬が出回っているなんて。
「これを使うのはアメリカ人だけだろう」なんて勝手に思い込んでいたから、軽いショックを受けてしまった。その後、スレッズなんかでも日本のリアルな状況を目にして、日本もアメリカも大差ないトレンドの中にいるんだな、なんてしみじみ思った。
ダイエット目的というなら、私こそ使った方がいい体格である。アメリカのピラティススタジオで、若くてお洒落な子たちと並んで鏡に映る自分の姿に我ながらゾッとする。夫は料理好きで外食も大好きだから、ここで痩せるというのは至難の業。というか、そもそも人生で「私、痩せてます」という時期がほぼなかった。しかも年齢的に、これから太るか痩せるかの瀬戸際にいて、すでにしっかり「太るコース」のバイパスに入っている自覚もある。
とはいえ、自宅でゴロゴロするのが大好きな私は、1日に2、3時間ほど身体を動かせば、なんとなくバランスが保てることに最近改めて気づいた。だから、ヨガやピラティス、そしてダンスの予定を日々に組み込んで、楽しく動くようにしている。趣味でもあるから、まったく苦にならないのが救いだ。
先日は、女友達と数人でスウィングダンスに出かけた。フロアには顔馴染みのダンス仲間がたくさん。そのうちの一人の男性が誕生日だったらしく、みんなからケーキを贈られていた。でも、彼の顔は真っ青。2、3曲ほどスローテンポな曲に合わせてステップを踏んだあとは、ずっと席に座ったきりだった。おめでとう、と挨拶に行くと、「ありがとう。実は3週間ほど入院していて、退院したばかりなんだ。今日は元気にダンスするエネルギーがなくて」と力なく笑った。彼は私と同い年で、数年前まではかなりの肥満体型だった。
アメリカには肥満体型が多いと言われるけれど、私の住む街ではあまり見かけない。あるとき、彼がしばらくぶりに顔を見せて、「実は心臓麻痺で入院してたんだ。でももう大丈夫」と言ったときは、本当に仰天した。
それから知らない間に、彼はみるみると体重を落としていった。他人に比べればまだふくよかだけれど、あまりの激やせぶりに目を見張った。そして、今回の入院。 あのダイエットピルを使っていたと知って、私はゾッとした。すぐに別の知人の顔が浮かんだ。
その知人はダンスのインストラクターで、彼と同じような体型だった。そして、同じ薬を使って劇的に痩せ、SNSで自撮り写真をいっぱい投稿していた。みんなに薦めていたりもした。イキイキとしている姿を見て、少し羨ましくなった。私自身はピラティスに出会う前で、旅行やらつきあいの食事が重なり体重が増える一方の時期。薬一本でその体型になれるなら、それも悪くないんじゃないかと思ったほどだ。
だが彼は、その後みるみる体調を崩してしまった。そして入院を繰り返した末に、帰らぬ人となってしまった。
そんな哀しい出来事もあって、私はこの劇薬ピルに、どうしても恐怖を感じてしまう。同じ薬で、同じように痩せて、一人は入院し、一人は帰らぬ人となった。偶然かもしれないし、人によるのかもしれないが私は絶対に手を出さない、と心に決めている。
今朝もピラティスに行ってきた。正統派のしなやかなものではなく、アメリカのトレンディなタイプ。ブートキャンプばりの筋トレを強いられる過酷なやつだ。毎回汗だくになる。なのに、ヒーヒー言いながらも、もっとやれ、と思ってしまう自分がいる。Sだと思っていたのに、実はMだったのかもしれない、と思いながら次の予約を入れている。
体重計には乗らない主義なので、何キロ落ちたかは知らない。けれど、きつかったスカートのウエストにほんの少し余裕が出てきた。気のせいかもしれないが、楽しく続けようと思う。夫が美味しい料理を作ってくれても、一緒に外食してデザートを食べても、それはそれ。楽しく動くこと、それが今年の私のダイエット法だ。
そういえば一昨日、別のダンスに出かけたときのこと。 70歳の女友達と、32歳の男友達、そして私の3人で、ダンスイベントがあるナイトクラブにときどき行くことがある。 年齢も、性別も、国籍も、ダンスのレベルも驚くほどバラバラ。だけど、エネルギーレベルだけがぴったり同じなのだ。フロアに入った瞬間、3人はパッと散り、それぞれ次のパートナーを次々に見つけては3時間ほどぶっ続けで踊りまくる。
その32歳の彼が、会うたびに痩せていくことに気づいた。以前の彼と比べるとかなりスマートになっている。「どうやって痩せたの?」と聞くと、「ChatGPTに相談して、その通りにダイエットしたんだ」と言う。 細かい食事管理、運動量、そのアプローチや時間まで丁寧に教えてくれたらしい。それを5週間続けたら、みるみる体重が落ちたそうだ。一番効いたのはウォーキングで、自宅用の小さなトレッドミルを買い、仕事中(リモートワークだろうか)にその上を歩いているらしい。
AIに相談してダイエットコースを計画し、遂行するのはなかなか難しいかもしれない。でも、彼は大成功を成し遂げた。それを聞きながら、年上の女友達はニヤニヤして言った。「私は例のピルを飲んでるわよ。高価な割にはぜんぜん効かなくて、お医者さんもびっくりしてるけどね!
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