迷子の駐車場は、世界共通
ひどいドタバタをやらかしてしまった。忘れないうちに、この不可解な時間の記録を残しておこうと思う。
夕方、アフリカから戻る夫を迎えに空港へ。 行きは早朝UBERを使ってくれたので、帰りくらいは私が……と書きたいところ。だが正直に言えば、頼まれたから「しぶしぶ」重い腰を上げただけ。
ところが、その日の私は朝から「ひとり時間」を特にフルスロットルで楽しみすぎていたらしい。脳内をすっかり「お休みモード」になっていた。
時間になって家を出て、空港の駐車場に車を止める。いつものように階と列が記載してある標識の写真を撮ろうとした瞬間。スマホのバッテリーが、ぷつりと息絶えた。
この時点で車に戻って充電器を取り出すか、エレベーター脇にある位置確認の案内紙を取ればよかったのだ。でも、その時の私は「すぐ会えるでしょ」と謎の自信でエレベーターに乗り込んだ。 「6階の8列」 その数字だけを、頼りない脳内に書き留めて。
到着ロビーに着いて掲示板を見ると、夫の便名が思い出せない。 出発都市で調べると候補が3つもあって、どれもまだ到着してない。 今のうちに充電器を取りに行こう。
そう決めてふたたび6階に行った。
でも!
あるはずの場所に、私の愛車がいない。 右へ行っても、左へ行っても、ない。 ちょっとしたパニック。自分の記憶が、砂のように指の間からこぼれていく感じ。4階、8階と彷徨ってみるが、影も形もない。 あれ……?おかしいな。
ロビーに戻ると、すでに全便が到着して、荷物受け取り中の表示。 すぐにカルーセルへ向かえば合流できたはずなのに、なぜか私はそうしなかった。 便名が分からないのに人混みの中を動いてもすれ違うだけ、と思った。それでギフトショップへ走り、充電器を買い、店員さんに頑丈な箱をこじ開けてもらい、ロビーの椅子に座ってじっと充電を待った。
まるで時間の感覚がなかった。スマホが息を吹き返すと、かなりの時間が経っていた。すぐに夫に電話をかけた。 夫は、私の位置確認アイコンが海の上の橋の上で固まったまま動かないので、事故に巻き込まれたと恐怖におののいていたらしい。 心配のメッセージがたくさん届いていた。 本当に気の毒。猛烈に反省。
やっと合流できたのもつかの間、私は浮かない顔のまま「車が見当たらないの」と白状した。 夫は遠いアフリカからの長旅でヨレヨレ。 眠れぬフライトを終えたばかりの、限界ギリギリ。 その上、私を心配して長く待たされた。可哀想すぎる。重い荷物を引きずりながら、文句ひとつ言わずに一緒に歩き回ってくれた。 それでも見つからないので「もう、君はここで待ってて」と言い、一人で6階を隅々まで歩き、7階、8階……。
ようやく見つかった車は、「8階の6列」にいた。 6階の8列じゃなかった。夫の底知れぬ辛抱強さには、もう脱帽するしかない。
20年ほど前のことを思い出した。 3歳の息子を連れて成田に里帰りしたとき。 今は亡き父が車で迎えに来てくれたのだけど、父も全く同じように「止めた場所」を忘れてしまったことがあったっけ。
あの時、私は重いスーツケースを抱え、ストローラーの息子を連れて、父と一緒に広い駐車場をさまよった。 当時の私は、今の夫のように辛抱強かっただろうか。 「迎えに来てくれたんだから、怒っちゃダメよね」 そう自分に言い聞かせながら歩いた、あの少し切なくて、でも確かな体温のあった記憶。時を経て、今度は私が「やらかす側」になり、それを誰かが根気強く支えてくれる。 人生って、そうやってお互いさまのバトンを回しているのかもしれない。
そんなわけで、私たちは無事に帰宅。
夜、ふとスレッズを覗いてみたら、ちょうど同じ時間帯に「イオンの駐車場で愛車を見失い、絶望の淵を彷徨っている」という方の投稿が流れてきて、思わず吹き出してしまった。
コメント欄を覗くと、「私も!」「イオンの迷宮に囚われた仲間がここにも!」と、まるで聖地巡礼のような賑わい。そうか、みんな迷っているんだ。広大な駐車場の海で、自分の車を探してウロウロしている仲間がこんなにいたなんて。
そう思うと、なんだかさっきまでの大失態も「人類共通の愛嬌」のように思えてきて、心がふっと軽くなった。もしかしたら、最近「きづき」の静けさに慣れすぎて、「焦点」が現実に合ってなかったのかもしれない。もちろん、それは単なる言い訳なのだけれど。
夫に迷惑をかけちゃったけれど、それすら笑顔で受け入れてくれたことに、ただただ感謝。 ドタバタの果てに私がたどり着いたのは、やっぱり「喜び」と「安心」のある場所だった。
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