#創作大賞【小説】オネエのいる結婚相談所、嘘からはじまる家族計画①
<あらすじ>
やる気の無いオネエが、結婚相談所の職員だったらどうする?
天川貴之は、三十路過ぎのオネエであり、普段は血のつながらない双子の娘達を結婚相談所の仲人をする傍ら育てているパパでもある。
仕事と育児疲れをゲイバーで発散する毎日だが、そこに顧客である春朋香が現れてついダメ出しをしてしまう。
朋香は、同窓会で再会した初恋の相手である水戸勝彦とスピード婚約。誇らしげに事務所に挨拶に来る二人だが、朋香の婚約者が隠れゲイだと疑った貴之は、直接水戸に意見をする。
本音をなかなか言わない二人に振り回される貴之。水戸と春の婚活の行方は一体どうなる?
第一話 見えない本音
「えっと、身長は165センチ以上で年収は500万あればありがたいです。人並みの清潔感があればいいです。学歴はこだわりなくて、頑張って働かれてる方なら高卒でも。年齢は15歳上までならいけると思います。顔は普通で良いので。家事は分担してくれると嬉しいけどご飯とかお菓子は作れるから、他の家事をやってくれると良いかなって。そうですね、イケメンは気が引けるので、普通程度であれば」
個別面談中に、朋香は大学ノートに書いてきた『最低限』の婚活条件を一気に話す。話したあとは満足した表情で出されたお茶を飲み、ゆっくりと深呼吸をした。
彼女――春朋香は32歳。大手企業の営業事務員だ。地元の女子大を卒業した後は一部上場企業に就職し、そのまま十年が経過したところだという。年収は約400万円。趣味は料理で、某クッキングスタジオの講師の資格を取ったのが自慢らしい。恐らく仕事はできる方なのだろう。彼女の目の前――仲人との間に置かれたモレスキンのノートは終始均一な大きさの丁寧な文字で綴られており、各ページに今までの見合い相手の情報や反省点などが記されていた。朋香は先端にまで気を抜かない主義のようで、ネイルはきちんと整えられており、ダークトーンの茶髪は長めのボブ。婚活仕様の春色のピッタリしたニットにミドル丈のナロースカートを合わせている。見た目で言えば中の上レベルだろうか。巧みに施された薄化粧を落とした時の評価が同じかどうかは、わからないが。
だが少なくとも女友達に「かわいい子を紹介して」と言われて彼女がやってきたら、一先ずは合格点をクリアできることは誰しもが認めそうな外見ではある。立て続けに冒頭の台詞をまくしたて、自信満々に仲人を見ている朋香は
「さあ私にふさわしい男を出してごらんなさい」
とでもいったような顔で仲人を見ていた。
仲人――天川貴之はそんな彼女の姿に笑顔を見せつつも、内心辟易している。過剰な自信が鼻につくタイプだなと感じていた。とはいえ一旦は彼女の条件で検索してみるのが、彼の所属する結婚相談所のルールでもある。貴之もそのように指導されていた。言うだけならタダだ。好きにすればいい。ただし、言いたいだけ条件を付けて自分の好みの異性に出会えるのはごく一部のハイスペックな男女だけという事を、貴之は痛いほど知っていた。そして、好みの異性に会えないクライアントがどれだけ口汚く自分たちを罵るかも。
だが、彼女は高望みと突っ込まれることを恐れているのか、ひと味違う範囲の広さを見せていた。貴之の乏しい経験上でも、下手な高望みよりも範囲の広げすぎで決定打がない方が婚活は難航する亊は理解している。こだわりを追求する方が他の条件を捨てることもしやすいのだが、彼女は中庸というよりある程度のレベルを全ての面において保つということにこだわりを見せていた。
彼は彼女と一緒に検索画面の端末を操作し始める。これはなかなか手強い会員だと内心でため息をつきながら。
「ったく、やってらんねぇっつーの!!!」
仲人の仕事である個人面談を終えた後、貴之は小洒落たバーのカウンター席で濃いめのハイボールを片手にクダを巻いていた。こだわりがあるのだろう、しなやかな身体にピッタリと沿うような細身のオーダースーツを身につけている彼は、巷の基準で言えばなかなかの整った顔立ちをしていた。今どきの男子なのだろうか、肌にはしっかりとした化粧を施し、まつ毛もきっちりカールされている。髪は長めで少しだけハイライトを入れているようで、毛の流れがわかるようなスタイルだ。女子には見えないものの、中性的な容姿をしている。
「どうしたのよ。ずいぶん荒れちゃって」
マスターと呼ぶにはまだ若そうな、彫りの深いエキゾチックな美青年が尋ねる。二人揃っていると絵になるが、話している内容はいささか残念な感じである。
「謙虚なふりして高望みしやがって」
「あらん、また仕事の話? 結婚相談所って大変なのね。タカには合ってないんじゃ無いの?」
貴之は、マスターを睨む。
「こちとら、何とか頑張ってもう一年も働いてんのよ。合ってようが合ってなかろうが、やるしか無いのよ」
その表情は悲壮感にあふれている。夜の仕事しか経験したことの無い貴之が、必死に探して一年前にようやく就職できたまともな正社員のクチが今の結婚相談所だった。ゲイバーのカウンター席の隣で飲んでいた派手な女からスカウトされて入った職場だ。
最初は恋愛相談ならお手の物だとばかりに、軽い気持ちで入所したのだが、それが大きな間違いだった。今では色々LGBTQの世界も認知されてきたため、専門のパートナー選びをサポートする相談所もある。貴之の入社した結婚相談所もLGBTをサポートする組合には入っているものの、主力はいわゆる「ノンケ」とか「ノーマル」と言われる「男女が結婚をするための場所」だった。貴之が乗っていたオンナ友達の恋愛相談は結婚前提の相談というよりも、不倫やダメンズ、二股などのドロドロとした案件である。また普段は毒舌で乗っている相談も、お金をもらって受けるとなると、丁寧な聞き方や柔らかい受け答えが求められる。正直素を出せないのはしんどい。
「ノンケの出会いなんて、オカマのあんたがどうにか出来るもんなの?」
マスターが高笑いしながら言うと、貴之は唇をすぼめた。
「祐司の意地悪。アタシにだって向いてないことは分かってるわよ。毎日毎日猫かぶってさ<普通の男>のフリして頑張ってるけど、全然ダメよぉ」
祐司と呼ばれたマスターが「仕方ないわね」と言いながら、綺麗な水色のカクテルを貴之に差し出した。
「これは私から奢り、これ飲んで元気出しな」
「ありがと。意地悪って言ったの取り消すわ」
「はいはい」
呆れたように笑う祐司は、これからの愚痴の長さに覚悟を決めたようにカウンター内の椅子に腰掛けた。
つづく
