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「Solaria 第十一話|知らなかった事実」

 

「Solaria 第一話|はじまりの坂」(前編)
「Solaria 第一話|はじまりの坂」(後編)
「Solaria 第二話|衝突の先にある光」
「Solaria 特別編 |坂の上の学園」
「Solaria 第三話|バラバラのリズム」
「Solaria 第四話|届かない声」
「Solaria 第五話|ひとつのステップ」
「Solaria 第六話|スプリングフェスティバル」
「Solaria 第七話|広がる波紋」
「Solaria 第八話|名前を持つということ」
「Solaria 第九話|さくら覚醒(前編)」
「Solaria 第十話|さくら覚醒(後編)」
「Solaria|メンバー紹介」
「Solaria 星ヶ丘学園 学校案内」


昼休み。

高等部校舎・カフェテリア。

ざわめき。

笑い声。

その中で。

ひなたは、ひとり席に座っていた。

(さくら、すごかったな……)

昨日の歌を思い出す。

胸の奥が、じんわり熱くなる。

「……天野先輩?」

声。

顔を上げる。

そこに立っていたのは——

見覚えのない女子生徒。

高等部の制服。

そして、胸元のリボン。

赤。

(……1年生?)

ひなたは一瞬で判断する。

星ヶ丘学園の学年カラー。

1年=赤
2年=緑
3年=青

「えっと……誰?」

「あ、すみません」

少し緊張した様子で頭を下げる。

「私、高校1年の……」

一瞬、言葉を選ぶ。

「小鳥遊さんと同じクラスの者です」

ひなたの表情が変わる。

「さくらのクラス?」

「はい」

ざわめきが、少し遠のく。

「ちょっと……いいですか?」

その声には、どこか慎重さがあった。

ひなたは、ゆっくり立ち上がる。

ただ事じゃない。

そう感じていた。

(さくらに、何かあった?)

胸の奥に、わずかな不安が走る。

そして——

二人は校舎裏へと向かう。


校舎裏。

人の少ない場所。

風が、少し冷たい。

「……それで?」

ひなたが促す。

女子生徒は、少しだけ迷ってから口を開いた。

「これ……見てください」

差し出されたのは——

古い、卒業アルバム。

「え?」

開かれるページ。

小学校のクラス写真。

そこに。

 

「……さくら」

幼い、さくらの姿。

無邪気な笑顔。

「この子……小鳥遊さんですよね」

「うん……そうだけど」

「私の彼氏が」

その一言で、空気が変わる。

「同じクラスにいたらしくて」

ひなたの眉が、わずかに動く。

「昨日、彼の部屋でこれ見てたら」

少し、言いにくそうに。

「小鳥遊さんの話になって……」

風が、止まった気がした。

「……なんて言ってたの?」

ひなたの声が、少し低くなる。

女子生徒は、ゆっくりと口を開く。

「小学校3年生のときに」

「クラスのレクリェーションで小鳥遊さんが、みんなの前で歌ったことがあったって」

ひなたの心臓が、強く鳴る。

 

(それって……)

「そのとき」

「彼が友達同士で……」

少し、言葉を選ぶ。

「小鳥遊さんに……変なこと言ったらしいんです」

「“似てない”とか」

「“なんか違う”って」

 

ひなたの拳が、ぎゅっと握られる。

(……やっぱり)

さくらのトラウマ。

その原因。

でも。

女子生徒の言葉は、そこで終わらなかった。

「でも」

顔を上げる。

「本当は、違ったって」

ひなたが、息を止める。

「……え?」

「彼が…」

「言ってました」

「“すごかった”って」

「“めちゃくちゃ上手くて”」

「“声も綺麗で”」

ひなたの目が、揺れる。

「でも……」

女子生徒は、少しだけ苦笑する。

「当時、その……」

「小鳥遊さんの事が好きだったらしくて」

「素直に言えなかったって」

沈黙。

風の音だけが響く。

「……最低ですよね」

小さく呟くひなた。

「自分でも、そう言ってました」

ひなたは、何も言えない。

ただ。

胸の中で、何かが大きく動く。

「……あの」

女子生徒が続ける。

「この話、小鳥遊さんに……」

「……言わない方がいいと思って」

ひなたを見る。

「だから、先輩に」

その視線は、まっすぐだった。

「どうするかは、お任せします」

それだけ言って。

小さく頭を下げる。

そして、去っていった。

ひなたは、その場に立ち尽くす。

 

(……なんだよ、それ)

頭の中が、整理できない。

(そんなの……)

(そんなのって……)

悔しさ。

怒り。

でも。

同時に。

少しだけ、理解もしてしまう。

(言えないことって……あるよね)

自分も、知っているから。

でも。

それで。

一人の人生が、変わってしまった。

(さくらは……)

どれだけ、苦しんできたのか。

胸が、締めつけられる。


放課後。

ダンス練習室。

いつもの光景。

笑い合う声。

さくらの笑顔。

(……言う?)

ひなたは、見つめる。

(言えば……)

救われるかもしれない。

(でも……)

また、傷つくかもしれない。

(どうすればいい……)

「ひなた先輩?」

声。

さくら。

「どうしたの?」

いつも通りの、優しい声。

ひなたは、一瞬言葉を失う。

「……なんでもない!」

笑う。

いつものように。

でも。

胸の中は、嵐だった。


その日の夕方。

学園祭のポスターが、校内に貼られ始める。

「星ヶ丘学園 学園祭」

「ステージ出演者募集」

その紙を、見上げる。

ひなた。

(ここで……)

(全部、繋がる)

過去も。

今も。

未来も。

そのとき。

ふと。

遠くの校門に目がいく。

そこに。

見覚えのない制服姿の男子生徒。

その隣に。

――昼の女子生徒。

一瞬だけ、目が合う。

男子は、すぐに視線を逸らす。

でも。

小さく、呟いた。

「……来る」

聞こえた気がした。

何を、とは言わない。

でも。

きっと。

この先のステージに。

来る。

ひなたは、静かに息を吐く。

(……どうする)

選択の時が、近づいていた。

第十一話 知らなかった事実 (終)

▶ Solaria 第十二話|
― それでも、歌う理由 ― へ続く


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