「天使が棺を捨てる日に」第一話
あらすじ
マクスウェルと呼ばれる猛毒の鉱石は、人類に新たなエネルギー革命と戦争を齎した。
少女フィフスはクローンである。兵器を操るための生きた消耗品として造り出され、人として扱われたことは一度もなかった。
ある日戦場で撃墜されたフィフスは、敵国の脱走兵ヨハンに救助される。フィフスは彼と接するうちに年頃の少女らしくなってゆく。次第に打ち解け共に生きたいと願うようになるが、ヨハンはマクスウェル汚染によって余命幾許もない身体であった。それを知ったフィフスは輸送中のコールドスリープ装置を奪い、ヨハンを延命させることを決意する。駄目になった臓器の代わりを手に入れ彼を蘇らせるその日まで、少女フィフスは戦い続ける。
本文
爆ぜるような音がしたはずだった。しかし聞こえるものと言えば、機体が逆さを向いているという警告音と、風を切る音だけだ。喧しい警告音に、恐れだとか、焦りだとか、何かしら感情が湧いてくればよいものを、しかし思うことは何も無い。機体が逆さなことくらい知っている。それに急速に高度を落としていることも。あらゆる操作を試みたが、私の機体は言う事を聞かない。
切り裂かれた装甲の隙間から、地表が見えた。煤けて暗く、点々と火の手が上がっている。そこから風と、そして有機物が焼ける死の臭いが、汚染された空気と共に流れ込んできた。
大地が近づいてくる。正確には私の認識は間違っていて、私が大地に近づいている。私は死ぬだろう。悔いはない。皆、他の天使たちの機体はもう遥か下の上空で、見ることは叶わない。不安など無い。皆はきっと使命をやり遂げる。私はこれまでの天使たちがそうしたように、死によって役目を終えるだけのことだ。すぐに代わりが来る。気がかりなことは、無い。
どうやら墜落の瞬間というものに、音は伴わないらしかった。激しい衝撃が身体を揺らした刹那、これが墜落によるものだと理解するより先に私は気を失った。地面に激突するような音は、しなかった。
第二話:https://note.com/sorautanote/n/n6ae521a3032c
第三話:https://note.com/sorautanote/n/na879b88f6e67
第四話:https://note.com/sorautanote/n/n3780fd552afa
第五話:https://note.com/sorautanote/n/na8cb04d27f86
第六話:https://note.com/sorautanote/n/n3baebbcd2b03
第七話:https://note.com/sorautanote/n/n74dda3558378
第八話:https://note.com/sorautanote/n/n11c3139b695c
第九話:https://note.com/sorautanote/n/n65c80f110ad8
第十話:https://note.com/sorautanote/n/n3d5e9e40dd61
第十一話:https://note.com/sorautanote/n/nfd4f329ef7cb
第十二話:https://note.com/sorautanote/n/n87b164809957
