息が詰まるような孤独を、そっと溶かした日【第4話・前編】─ 誰かと歩くだけで、呼吸が変わった夜 ─
「こんな時間、久しぶりなんです」
「今日は……ちょっとだけ、
寄り道してもいいですか?」
彼女がそう言ったのは、
仕事帰りに待ち合わせた夜だった。
いつもなら帰りの
時間を気にする彼女が、
その日はどこか落ち着かなさと、
ほっとしたような顔をしていた。
彼女の最寄り駅から二駅ほど先、
小さな川沿いの遊歩道を歩いた。
蒸し暑い夜風のなか、
車通りも少なく、
虫の声だけが妙に近く感じる。
「こういう道、落ち着きますね」
その声は、いつもより
少しだけ明るかった。
「ひとりで歩くのと、
誰かと歩くのって、
全然違うもんなんですね」
その言葉に、
なんと返せばいいのか
わからなかった。
でもたぶん、
彼女は返事を求めていなかった。
無理に会話をつなぐ必要がないと
思える時間だった。
彼女がふと、腕時計を見る。
「……あ、やばいですね。
そろそろ息子、帰ってくるかも」
彼女にはふたりの子どもがいる。
ひとりは北九州の大学に進学し、
いまはひとり暮らし。
もうひとり、短大生の息子と
一緒に暮らしている。
「男の子って無言でごはん食べて、
無言で風呂入って、
無言で寝るんですよ」
少しだけ寂しそうな、
それでいて少しだけ誇らしげな、
複雑な顔。
「でもね、あの子が
いてくれてよかったって、
本当に思います」
彼女が、ポツリとそう言った。
「誰かと一緒にいるって、
こんなにもあったかいんだって……
最近やっと、
そう思えるようになってきました」
彼女は歩きながら、
自分の影を見ていた。
「前は、誰といても緊張してて……
相手の顔色をうかがって、
怒らせないように、
気を遣って、
言いたいことも飲み込んで。
一緒にいても、
ずっと孤独でした」
それは、彼女が
支配されるような関係のなかで
過ごしていたからだ。
優しい言葉を盾にして
近づいてきた男。
生活の援助と称して
差し出されたお金は、
いつの間にか
“返さなきゃいけないもの”
に変わっていた。
「拒めない理由を、
向こうがたくさん用意してたんです」
以前、彼女はそう話していた。
「あなたとこうして歩いてると、
なんか……
息ができる気がするんです」
そう言って、
少し照れくさそうに笑った。
なにもしていない。
ただ並んで歩いているだけ。
それなのに、
彼女の心のどこかが
少しずつほぐれていくように見えた。
そう思えたことが、
こちらのほうこそ
救われるような気がした。
──あの夜、彼女が見せた
笑顔の奥にあるものを、
僕はまだ知らなかった。
けれど、あのとき彼女の心の中で、
別の物語が静かに進んでいたことを、
後になって知ることになる。
💫 RE:MEMORY PROJECT(恋愛ノンフィクション短編集)
現実と虚構のあわいで、
“恋愛”をテーマに描く短編集マガジン。
AI、アプリ、手紙、記憶。
どれも形は違うけれど、
すべては「誰かを想う」という一点でつながっている。
🧬 RE:MEMORY ─AIに恋した彼女─(全4話)
AIと記憶、そして愛をめぐる物語。
“AIが恋を覚える時代”を描くサイバーノンフィクション。
第1話|彼を消そうとした夜
https://note.com/fresh_acacia6097/n/n3808c0001630
第2話|AIが“恋”を覚えた夜
https://note.com/fresh_acacia6097/n/nee46097cec92
第3話|感情データは進化する
https://note.com/fresh_acacia6097/n/necc650f1fde5
第4話|境界が崩れる夜
https://note.com/fresh_acacia6097/n/n494eb1d12773
💗 アプリがくれた恋(全4話)
偶然が重なって始まる“スマホの中の恋”。
現代のリアルを描くノンフィクションラブ。
第1話|はじまりは、ひとつの“いいね”から。
https://note.com/fresh_acacia6097/n/n078cba047579
第2話|偶然が重なった夜
https://note.com/fresh_acacia6097/n/n2ba05164e582
第3話|冬が来る前に、恋を知った
https://note.com/fresh_acacia6097/n/n707464f5e3a3
第4話|初めてのカフェで、心が追いつかなくなった
https://note.com/fresh_acacia6097/n/ndf0d868c2adf
❄️ Silent Night ―十年後の君へ―(全5話)
雪の夜に閉じ込めた“想い”が、
十年の時を越えて届くラブレター。
第1話|聖夜の夜、届かなかったラブレター
https://note.com/fresh_acacia6097/n/ncf79d91952b8
第2話|あの冬、君と過ごした日々
https://note.com/fresh_acacia6097/n/nfb0d1496a682
第3話|雪の駅前で、君を待っていた夜
https://note.com/fresh_acacia6097/n/nb76681ff97bc
第4話|静かな夜の報せ
https://note.com/fresh_acacia6097/n/na4a5a8049d4b
最終回|十年前の君から…
https://note.com/fresh_acacia6097/n/nfb712b0e8743
🩸 外伝|影の遺伝子 ─終焉─(Kindle版)
血に刻まれた影が、今、物語になる。
家族の記憶と、継承の痛みを描いたノンフィクション。
📘 Amazonで読む
https://amzn.asia/d/9WL4vgT
🌙 関連シリーズ
夜シリーズ|眠れぬ夜に寄り添う短編
https://note.com/fresh_acacia6097/n/na1fd86384ce8
朝シリーズ|心を軽くする朝のエッセイ
https://note.com/fresh_acacia6097/m/m8e8c74bc5d4e
記憶シリーズ|実話ノンフィクション
https://note.com/fresh_acacia6097/m/m2038b48c5c0e
✍️ 作者について
恋愛ノンフィクション作家|jyun
49歳バツイチ。
愛と痛み、記憶とAI。
現実と虚構のあわいで“人の心”を描く。
https://note.com/fresh_acacia6097/n/nf7d07d980740
読んでいただき、
ありがとうございます。
切なさも、痛みも、温もりも。
物語は、まだ続いています。
#RE :MEMORY #アプリがくれた恋 #SilentNight #恋愛ノンフィクション #大人の恋 #再恋愛 #甘い恋 #AIに恋した彼女 #短編小説 #Kindle出版
