【魔族な俺ですが、人間達と仲良く暮らしても良いですか?#6】
光の世界樹……そして……
《あらすじ》
かつて滅びた魔導文明の残響が世界に影を落とす場所、ソール森林王国。
不老の種族・エルフの守る「世界樹」を狙い、氷の魔剣士、黒騎士そして氷の軍勢が動き始めた。
冒険者レオルとその仲間たちは、拡大する“雪雲”の異変の調査へ向かい、魔族とホムンクルス、精霊の力が融合された少女グレイシャと邂逅する。
彼女は己を「父の命を果たすための道具」と語り、魔獣兵と共に都市を侵略していく。
心を持ちながらも“任務を果たすことだけ”に生を縛られたグレイシャに、レオルは“感情”と“想い”を取り戻させようと戦いに臨む。
仲間たち――龍拳士ジュラ、魔女ミレニム、斥候ハクロ、優しき精霊使いのエルフエルフィが、それぞれの覚悟を胸に運命の決戦へと挑む。
登場人物紹介(主要キャラ)
■ レオル
【種族】魔族|【職業】魔戦士|【属性】闇/魂
魔族でありながら優しき心を忘れない剣士。
魔剣を操り、相手の能力を奪うスキルを持つ。
他者の痛みに敏く、少女グレイシャの“涙”を誰よりも理解した。
魔剣に魂を取り込みながらも、自分を見失わない精神の強さを持つ。
■ グレイシャ
【種族】ホムンクルス(混合魂体)|【肩書】氷の魔剣士|【属性】氷/魔族/精霊
魔導文明の亡霊ともいえる存在。魂に複数の意志を宿す
レオルに「パパ」と呼び慕い、初めて“愛されたかった”という想いに目覚める。
■ ジュラ
【種族】人間|【肩書】龍拳士/戦闘特化型|【属性】闘気/龍気
武術に生きる拳士。レオルの良き相棒であり、誰よりも“強さ”に憧れる。
本心では“仲間との日常”を何よりも大切に思っている。
■ ミレニム
【種族】人間|【肩書】魔術師、召喚術師(魔女)|【属性】炎/理性
クールなリーダータイプ。計略・陣術に長け、召喚術を自在に使う魔術師。
仲間を支える陰の主役。
■ ハクロ(Hakuro)
【種族】獣人|【肩書】斥候/レンジャー|【属性】風/影
冷静で忠義に厚い、パーティーの探索役。
レオルを兄貴分として慕う。
■ エルフィ
【種族】エルフ|【肩書】精霊使い/元エルフ族長候補|【属性】自然/光
人間社会に疎いが、レオル達と接するうちにうちとけていく。
植物と話すことができる術を持つ、森の賢者に仕える次期族長候補。
■ ヴァルハルト
【種族】?【肩書】黒騎士|【属性】剣/鋼
グレイシャの従者たる騎士。
騎士道を重んじる武人。
■ エリス
【種族】人間|【肩書】森の賢者|【属性】理/観測者
未来視に近い予測能力を持つ、知識の守護者。
世界の調和を守るため、時に冷徹な判断も辞さない。
………………………………………………………………
光の世界樹
ヒィィ…… ヒィァ……

世界樹の根元にある聖堂の暗い廊下をハクロとエルフィが急ぐ。中程で悲鳴のような、何かの鳴き声のようなものが、二人の耳を打つ。
「……エルフィの姐さん、先に行ってください。俺もひと仕事すませてから追いつきます」
防衛線を抜けてきた魔獣が迫ってきている。それを感じ取ったハクロが、廊下の柱の陰にエルフィを導く。
「この柱の陰に沿って、進んでください」
「ハクロさん……」
エルフィが迷いの感情を、わずかに顔にはしらせる。
「大丈夫ですよ……俺もそれなりにやれます。それにウチのパーティー、死ぬことがご法度なんで」
ハクロが不器用に笑い、再度エルフィを促す。
「ご無事で」
エルフィの気配が遠ざかるのを感じながら、ハクロが大型のナイフを抜く。
「ミレニムの姐さんに、細工してもらったコイツでどこまでやれるか……兄さん達ほど、荒事は得意じゃないんですがね」

手足の長すぎる猿の魔獣が三匹、柱や壁を進んで来るのが見える。
このまま行かせては、まずエルフィの身に危険が及ぶ。
かといって、あのように高い所の魔物を、全て同時に奇襲するのは、不可能だ。
「やれやれ……ガラじゃないんですがね」
……前は、こんな得にならない役は引き受けなかったんですが……
ハクロは静かに廊下の中央に歩を進める。自らを囮にして、魔獣と対峙する。
これが、最善の道だった。
……俺は、兄さんの恥になるマネは死んでもしないと誓ったんですよ……
「さあ、お立ち合いだ!」

「三匹の猿と一匹の虎、どちらが勝つか刮目しやがれ!」

ハクロに、三匹の魔獣の爪が迫らんとしていた。
魔剣が八本、あらゆる方向からレオルを狙い撃つ。時に消え、死角から閃光を放つ。
レオルはそれらを躱し、グレイシャに肉薄する。
彼女の細い手が上がる。
氷の壁が牙の如く、下から襲いかかる!
レオルの魔剣が唸る。
振動が氷壁を震わせ、粉砕……氷の粒に変える。
「グレイシャ!」
ひときわ大きな魔剣を生み出し、レオルの魔剣と打ち合う。
グレイシャの魔剣は、氷の魔剣。
刀身が粗い水晶から削り出したが如き長い魔剣。
レオルの魔剣が触れたところから、凍らされる。
〘灼熱の刃を発動……同時に熱線を……〙
魔剣が紅く熱を帯びて、氷を溶かす。
同時に、レオルの周りに、熱線を放つ赤き光球が形成される。
「よせ!……目標を後方の魔剣に変更!グレイシャは狙うな!」
レオルの急な変更指示に、一拍遅れて三条の熱線がレオルの背後から迫る魔剣を焼き払う。
〘非効率……本体がある限り、魔剣は幾つも生み出される……目標の変更を要求する〙
「それは、許さない……グレイシャは助ける。絶対に撃つな」
「お前は、無駄なことをしている……吾は、使命を果たすだけの存在。お前が助けようとしているグレイシャは、もういない」
無表情のまま、感情のない声でグレイシャは語る。

「ホムンクルスの心は、創造主に忠実であるために作られた仮初のもの……使命を果たす障害になるならば、無かったものとされる……」
「……親を求める心、寂しさ、悲しみ、増悪、それらはすべて魂から生まれる度に消えてゆく、不純物……」
「……ルザロ・ワーズから作り出された、魂を管理するもう一つの人格たる吾が、無駄な心の断片を消す……魂から力を引き出し、使命を果たす……我が父のために……」
どこかここでは無いものを見据え、感情のない声が、流れる。
「狂っている……何のために、そこまで……」
「戯れに答えてやろう。吾も詳細は知らぬがな……」
淡々と無表情にグレイシャは、喋り続ける。
「……創造主の娘が未知の病で死に、魔導文明を生み出した彼等でさえ、死は乗り越えられず……戦争や病で滅んだからだ……」
「……永遠の生命に対する彼等のただの醜い嫉妬だよ。エルフ達が、彼等の生きていた時代に存在していたから、嫉妬の対象が彼等になったにすぎない」
嘲るような響きに聞こえた。
「そんな者達に何故、尽くす?……お前は、充分理性的に判断ができるのではないか?もう一つの人格」
無表情のまま、唇の端が持ち上がる。
穏やかな神の偶像が、卑しく不気味に堕ちたものに変わる。
そんな表情だった。
「吾も、何もないからだ……使命を果たす以外に、何もない。使命が終われば、自壊する。そう作られている……知のある生物として、あまりにも空虚。あまりにも不完全……それが吾よ」
「父より与えられた使命を果たして、終わる……せめてそれがなくては、生まれた意味がないではないか?……」
「お前達の言葉を借りるならば、あまりに悲しいではないか……」
レオルの魔剣を握る手から、力が抜け落ちそうになる。
これは、あたりに空虚を撒き散らす怪物だ。己だけでなく、まわりの生の意味を奪い去る魔族だ。
「俺達、魔族は救いがたい、な……」
自分も、相手の魂から能力を奪い、その魂の力を奪う。まさに最悪の兵器の一つだ。
「……さて、我らが悪いのか、使う方が悪いのか……君との論議は、なかなかに心が震えるのだが、ここまでとしよう……」
「……吾も最初にして最後の、大切な使命があるのでね」
氷の魔剣が、冷気を吐き出す。
「最後にお前、名前はレオルだったか……礼を……」
魔剣がグレイシャの、両側にズラリと二十本ほど出現する。
「……黒騎士にも語れなかった、我の心中を聞いてくれた……語らずに終わるはずだった、我の心を知ってくれた……」
レオルも、魔剣をもう一つ生みだす。より戦闘に適した形に己を変えてゆく。

「その礼として、吾が使命を果たした暁には、グレイシャの魂を解放してやろう……残った吾の欠片と、せいぜい親子の真似事でもしてやるがいい」
レオルの魔剣が光を纏い、音を上げて生き物のごとく吼える。
「貴様の思い通りにはならない……グレイシャは返してもらう」
レオルの魔剣が、始めてグレイシャに向けて振り下ろされた。

「雪雲の魔物が、あんなに……急がないと」
「世界樹の間」は吹き抜けになっている。
そこから、世界樹都市にまさに迫らんとする雲の魔獣の姿が見て取れた。
世界樹の根元に作られた『王の間』に、エルフィの姿があった。
石の玉座が鎮座していた。
その玉座には、根が幾重にも巻き付き、独特の雰囲気を醸し出している。
これは、エルフの長だけが座り、世界樹の力を借りて、自然の力を操り、一族を助けるために使うものだ。
ただ、長いこと使われたことはない。
世界樹は、世界のために存在するもの……それを狙う者がこれまでにいなかったためだ。ましてエルフが管理する森林王国を、侵略しても利がない。世界樹から生まれる力はエルフしか扱えず、森林やそこに住む獣を得るために、エルフと事を構える意味が見いだせなかったからだ。
「わっ、石が冷たい……でなくて、世界樹さん、エルフィです……はい、とにかく急いで、あの雪雲の魔物を撃退したい、のです……」
「……えっ、長に選ばれては、でも緊急なので、……ええ、特例で、お願いします」

エルフィが、声無き声に説得を試みる。
「……一人で、です……反動は、覚悟しています」
エルフィが、再び空を見遣る。雲の魔獣が街中に入ってしまっては、最後だ。
禁術と呼ばれる力は、街を巻き込んで使うことはできない。
「もう!早くしてください!……覚悟してここに来てます!早く!……みんなが、危ないんです!」
蒼い光が幾つも、玉座の周囲に現れる。
十、二十、……百……と増えてゆく……
エルフィが、目を閉じて玉座に深く座り込む。
彼女と玉座を通して、雷球が世界樹を駆け上っていく。
エルフィの唇から苦鳴が漏れる。膨大な数の精霊と心の中で対話、説得して、世界樹に集める。
いくら普段から精霊と馴染んている彼女でも、数が違いすぎる。
身体においては神経が、精神においては心力が、ともすれば処理しきれずに、焼き切れそうになる。
そのせいか、何故か今思わなくてもよいことが頭に浮かんだ。
……レオル、さん……グレイシャさん、と話せた……かな……
世界樹、街中、街の外の広大な範囲の精霊が、エルフィを媒介にして呼び込まれて、世界樹に集まっていく。
玉座を摑む手に血管が浮きあがるほどの力が加わり、名状しがたい激しい痛みが何百と、まさに駆け抜けていく。
自分を見失いそうになる。
痛みだけに思考が支配されていく。
それを本能として防ぐためか、エルフィは薄れゆく意識のなかで、何故かレオルのことが頭に浮かび、そして消えてゆく……
……また、お茶を、……一緒に飲んで……お話ししたいなぁ……
エルフィの意識は、光の中に飲み込まれていった。
世界樹が、雷球を幾千をその身に纏い、紅く燃え上がっていく。
光炎が、稲妻となり、空を渡っていく。

空が燃える……
雪雲の魔獣は、声を上げるまもなく、焼き払われ、跡には何一つ、残りはしなかった……
決戦

「エルフィが、上手くやったみたいね」
ミレニムの炎槍が、巨大な魔獣に突き刺さり、炎を奔らせる。
ルナティアの細剣が、魔獣の喉元を貫き、止めを刺した。 巨体が音を立てて横たわる。
「……あのバカが……あの禁術は生命の保証がない……アイツは優しすぎるのだ」
「ルナティア……ここを早く片付けて、迎えに行こうよ」
ミレニムが、さらなる火の術を行使する準備にかかった。
彼女とて、早く仲間のところに行きたいのにかわりはない。
……レオル……グレイシャを救うのに無茶しすぎなければいいけど……
黒い大剣が突き出される。
ジュラがギリギリでかわす。刀身が、空気を裂いて目の前を通り過ぎていく。
前へ前へ……相手の懐へ……
ジュラの拳が、光を纏い盾を撃つ。
おそろしく硬い。ジュラの光の拳は、岩すら砕く。鉄を貫く。
だがこの黒騎士の鎧や盾は、通常の金属ではない。
「無駄だ……これは、ジオメタル。破壊不可能と名高い金属で作られている」
盾が下から斬り上げるように回転し、襲いかかる。ジュラ身体を反らし、避ける。
続けざまに大剣が、切り返しざまに振り下ろされるが、彼女はそのままバク転に切り替えて距離を取った。
「その身のこなし、なかなかに見事だが……その拳では、我に傷一つ、つけられぬぞ」
「よく喋るね……そんなに盾とか鎧の自慢がしたいの?」
ジュラが、一つ息を吐くと、再び構える。
「これは、すまぬ……我とここまで打ち合える相手は久しぶりなのでな……知らず、高ぶっておったよ」
「いいよ。僕もその気持ちは分かるよ。痛いほど……黒騎士さん、聞いてくれるかい?」
ジュラが歩を進める。
「何を、だ?」
大剣の刃が、右肩に載る……独特の構え。
「僕は今まで純粋に撃ち合うことが好きだった。師匠と二人で修行ばかりしていたし、魔物や時折やって来る冒険者と生命のやり取りをすることは、喜びだったんだ……それ以上の楽しみを知らなかった……」
ジュラが、黒騎士の剣の届く圏内に足がかかる。
「それは、武人ならば至極当たり前のことであろう!」
打ち下ろされる刃を、ギリギリでジュラはかわす。
黒騎士の人外の力が、剣を地に着くより前に跳ねあげ、鋭く返す刃が下から襲いかかる。
彼女の首を、黒剣が薙ぐ……
髪留めが千切れ、赤い髪が薄衣のように広がる。
だが、それは残像。
目で追えぬ速度でジュラは地に伏せ、足刀が回転し黒騎士の足を撃つ。
わずかに、黒騎士の姿勢が崩れる……ジュラの手が、大剣の刃に添えられる……いかなる作用か、黒騎士の巨体が、宙を舞う。
……一歩、地より気を頂く……
足より大地の気が、ジュラの身体を疾走り抜けていく。
……二歩、内より力を拳へ……
大地の気と、身体の中心の気が合わさり、彼女の身体能力を急激に高めていく。
……一撃、拳に光の鎧、翼を纏う……
手に力が流れ込み、強く握られた拳が硬質化する……そして、背中、肘、拳から気が噴き上がり、ジュラの拳を、前へと砲弾の如く撃ち出す!
黒騎士が逆さに舞いながらも構えた破壊不可能な黒盾が、遂に砕かれる!

「馬鹿な……ジオメタルを砕く!?」
破壊された盾を捨て、黒騎士が大剣を両手で構える。
切っ先が一瞬、わずかに震える。

「……これぐらい、だよ……僕は不肖の弟子だからね。
奥義は、ほとんど使えないんだ……師匠なら、山すら砕くさ」
「……世界は広いな。貴様のような人間の子供に、ここまでやられることになるとは」
黒騎士の大剣の震えが消え、低く後ろに構えられる。
「やっぱり、盾がない方が構えが綺麗だね……」
その時、空に赤い雷が疾走り抜けていった。
雲の魔物が、灼かれ四散していく……
「この戦、我等の負け、か……呆気のないものだな……あの時、やはり貴様らを撃つべきであった、か」
紅く染まる空を見上げ、黒騎士が息をつく。
「……エルフィは凄いな……ねえ、世界って、面白いよね。レオルにしろ、グレイシャにしろ、エルフィだって、僕よりずっと強いよ……」
「……もっと、強くなりたいなぁ……」
ジュラの瞳には、あの紅い空でさえ強さの象徴、憧れの光景として映しだされていた。
「……きっと、僕は、おかしいんだよ……レオルやミレニムと会って、そう思うようになった……みんなと当たり前を過ごすことが好きになった……そんないつもを大事にしたいとおもうのに……」
「……ギリギリの生命のやり取りに、心躍る僕がいるんだ。止められないんだよ」
剣を握る音が、耳に届く。
「なら、確かめてみるが良い」
自然と構えさせられる。
「ヴァルハルトさん」
「これで最後だ……」
圧、いや気迫というべきか、そうしたものが空気を歪ませてゆく。
ただの真っ直ぐの一閃、それだけがジュラを捕らえる。
迂闊な動きは、確実な死が待つ。
これはそうした覚悟の一撃だ。
もう帰るところのない、己の死に場所を求めた者の一撃だ。
「貴方に感謝を」
拳を心臓の前に据える。
一切の音が消える。
黒い旋風が、ジュラを両断せんと迫る!
刃が拳に触れた刹那、刀身に光が奔る……光が大剣を両断していく。

「見事なり」
閃光は黒騎士の腕を断ち、鎧を砕き、黒騎士の生命を絶った。
「……このタイミング、憶えておくね……ありがとう、ヴァルハルトさん……」
自分が喜んでいるのか、泣いているのか、ジュラには分からなかった。
氷の魔剣が五本集まり、光を束ねてレオルを狙う。

レオルは、光線に追われるように聖堂の窓に飛び込む。
そのあとを、複数の魔剣が追随する。
低空を滑るように飛ぶレオルの背に、光球が幾つも生まれ、後方の魔剣を焼き落とす。
グレイシャも追いつき、聖堂内に飛び込んでくる。
「いつまで逃げられる?」
聖堂の天蓋を貫き、光の雨が降る。
レオルの魔力で編み上げた鎧が削れていく。
「熱線を上に!」
光球がグレイシャの魔剣ではなく天蓋のグラスを砕き、ガラスの雨が降りしきる。
光線が曲がる。ガラスや埃が、光線を阻害する。
グレイシャの目が開かれる。
戦闘経験は、レオルに一日の長がある。
方向転換して、グレイシャに肉薄する。
魔剣が一閃、彼女を斬り上げる。
「貴様!」
傷はない。服すら裂けていない。
だが、彼女は苦鳴をあげる。
「吾を斬ったな、魂に同化している吾を斬る……ソウルイーターの類か、貴様!」
始めて、グレイシャが感情を露わにする。
「ゾラ……お前の名前か……魂の呪縛と操作、ソウルスパイダーのスキルか」
「もう、失った名前だ。呼んでくれるなよ……この有様だからな。成程、それで吾をグレイシャから切り離すか……お喋りがすぎたな」

レオルには魔剣を通して、グレイシャの魂を黒い闇の中に捕らえているモノが見えていた。
ゾラという魂だけの魔族の存在が見えていた。
「だがな、やめておいたほうがよい。吾を滅せば、グレイシャの魂は崩壊するぞ……」
「……何せ精霊や他の魔物の魂をグレイシャの魂に無理やり混ぜ合わせたのだ……接着剤の役目を果たしている吾がいなくなれば、分かるな?」
無言で魔剣を重ねるレオル。魔剣が溶け合い、一本の大剣となる。

「吾も学ばせて貰った……その魔力で編み込んだ鎧……ソウル・トランスだな……」
「……やり方は、憶えた……魔剣も、貴様のように強力なものに変えれば、そう簡単にはやられぬよ」
グレイシャの魔剣も、合わさり力を増してゆく。
その衣装も身体全体を守るように、バトル・ドレスへとその形を変えていく。

その時、空が紅く燃え、聖堂内も赤く燃えるような光に満たされた。
終わりの時が、遂に訪れたのである。
「エルフめが……これで勝ったと思うか、まだ吾がいる……貴様さえ倒せば、エルフ共など残りの魂の力で殲滅することは可能よ」
氷の魔剣の光が増してゆく。
「……ゾラ、その力を貰い受けるぞ……グレイシャを助けるためにも、その力を使わせてもらう」
グレイシャの顔が無表情のまま歪む。
それは怒りだ。
使命を奪い、グレイシャを助けることばかりの相手に怒りを覚えぬ訳がない。
「ふざけるな、吾だ。吾が使命を果たすのだ……グレイシャなど、吾の踏み台に過ぎぬわ!」
魔族ゆえか、怒り故か、力の使い方に目覚めたのか。
グレイシャが、その身を増やしてゆく。
魔剣を増殖するように、己が分身を作り出す。
ゾラがグレイシャや他の魂の力を全て引き出し、レオルを撃たんと襲いかかる。

「滅せよ!ソウルイーターめが!」
グレイシャの魔剣は、氷の竜と化し冷気を吐く。
グレイシャの分身が、氷の魔剣を振り上げ、レオルを討たんと迫る!
……何かを撃つ時、放つ時って、動きがぴたりと止まる瞬間があるよね……
ジュラが、いつぞやこんなことを言っていた。
心を鎮めて、力を溜める。
魔剣とグレイシャ達の動きが、見える。
ゾラの怒りが、動きを単調にしている。
魔剣の氷竜の輝く息が、レオルと幾条もの線となって繋がってゆく。
一番被害の少ない位置へと、身体をずらしていく。
レオルの鎧が砕け、光線が肩や腕を抉り凍らせる。
それでも、彼は呻くことも、身動きすらもしない。
これを逃せば、次はない。
それだけを支えに持ちこたえる。
グレイシャの分身たちが、床を蹴って滑るように肉薄する。……これだけの数がそれぞれに散開して攻撃してきたら、レオルもただでは済まなかっただろう。
氷竜の息が途切れかかる。グレイシャの分身達の剣が、振り上げられる、あるいは後ろに引かれる。
〘あの異界湿原の女の技を応用……衝撃をドーム状に展開する〙
魔剣が、レオルの意を汲んで技を組み上げる。
全てが、止まった……
ただ、一閃……竜の魔剣が、砕け散る!
全てのグレイシャが、力の衝撃でその場に縛りつけられる。
そのうちの一人の懐から、白い何かが落ちる。
……グレイシャが呼んだ、気がした……
疾走する!……ただ、貫く!
レオルの魔剣が、グレイシャの胸を貫いた。
彼女の魔剣や分身が、崩れて落ちてゆく。
「おのれ……許さぬぞ…………吾は………何のために……あった……のだ……」
グレイシャの手が宙を摑む。
「なんだ…………暗い…………なにも……ない……」
グレイシャの手が、力なく落ちてゆく……
レオルの手が、その手を包み込む。
「……なんだ……貴様、か……」
白い襟巻きがその首に優しく巻かれる。
「……ゾラ……」

「……その名を呼ぶな、愚かもの……どこまでも、甘いヤツだ……」
どこか、皮肉げに笑ったようにみえたのは、錯覚か……
手から力もが抜け落ちてゆく……そして、グレイシャは、その目を開けることはなかった……
後始末
「……だめ」
賢者エリスが開口一番、レオル達が入ってきた途端にそんな事を言う。
「まだ、何も言ってないですけど……」
ミレニムがさすがに戸惑い気味に、賢者に視線をやる。
「グレイシャは、渡せないよ。エルフィも昏睡状態、世界樹は一つが機能停止、もう一つもほとんど冬眠状態……」
「……グレイシャ自身も意識が戻らない状態にあるとはいえ、大罪人だよ……エルフ達の心情も分かってほしいな」
エリスが挙げた被害は、ごく一部だ。
奇跡的に死人こそ出なかったが、怪我人は数え切れない。
「僕達の功績を、考慮してもらえないかな……黒騎士やグレイシャを僕らが止めなければ、被害はこんなものじゃすまなかったと思うけど?」
ジュラが頭の後ろで手を組む。
もう賢者に対して敬意の欠片もないらしい。
「……それも、微妙だ。エルフィが身を呈してあの雲の魔物を倒したこと、それに君達が最初にグレイシャ達を見逃したこと……それらのことが、負の方向へと振り切っている」
エルフィがレオル達に協力したことさえ、裏目にでては、グレイシャの身柄を引き受ける交渉材料があまりにも少ない。
「……賢者エリス」
「なんだい……魔戦士どの」
レオルが静かな物言いをする。
「何故、魔族の俺を選んだのか、聞いていなかったな」
「……魔族だからだよ。グレイシャにルザロ・ワーズの技術が組み込まれていたこと、彼女の魂が迷い子になっていたこと……それは、万物の書ではじめから分かっていた……」
「……そして、それは魔族の君でなければ、見抜いて対処することはできなかった……」
レオルは静かな目をして、賢者を見る。
嘘偽りなきことを見抜こうとしているのか、何か反論の糸口を探っているのかは、誰にも分からなかった。
「もし、最初からそれを君が知っていたならば、グレイシャを救おうとしただろうか?……ルザロ・ワーズに操られている、ただのホムンクルスとして、対処していたのではないかな?……あるいは、ゾラに不意を撃たれていたかもしれない……」
「……君がグレイシャの心を知り、ルザロ・ワーズの技術を知ればこそ、今回の結果となった……」
「……運命がどのように動くかを、私はある程度知ることができる……」
初めて賢者が、射るような視線でレオルをみた。
「君は、稀有な存在だ……その恐るべき力を持ちながら、殺傷を嫌う……グレイシャと君が出会うであろう運命の流れは、ほぼ確定事項だった……」
「……グレイシャが君に惹かれることも、君がグレイシャを見捨てられなくなることも……偶然ではなく、必然だった。それが、彼女の毒になることも含めてだ……私には、全てが分かっていた」
……そういった意味では、私も万物の書に踊らされる卓上の駒の一つに過ぎない……
「賢者さん……そこから先は、喋り方に気をつけてもらおうか……兄さんを利用するのは、これは仕方がない。それが、依頼ってもんだ……」
「……だが、兄さんの心の一番弱い処に、そちらさんはつけ込んだ……やり方が汚ねえ。最低限の仁義ってものが、世の中にはあるだろうが……俺は、あんたが許せねえ」
ハクロが犬歯を剥き出し、怒りをこれでもかと露わにしている。
ハクロのこんな姿は、初めて見る。
「ハクロ……ありがとう。俺は大丈夫だ……おかげで、落ち着いて話せる」
わずかに息をつく。
「賢者エリス……ならばこうしたやりとりも、予想の範囲ということだろう……単刀直入にいこう」
「聞こう」
「俺の力の底は、分かるな、賢者殿……あの魔王ザナグルをも葬った俺の力が、暴走も覚悟の上で放たれたら、このエルフの里で止められる者はどれだけいる?」
この場の全員が息を飲む……レオルの覚悟の程が、想像を越えている。
「……おそらく、君はやらないだろう……いくらグレイシャのためとはいえ、それをやれば、君のこれまでが、全てが水泡と帰す……」
エリスは不快げに、眉をひそめる。
「そうだな……だが、グレイシャを救えなければ、俺にとっては同じことだ……」
「……まず、ここの図書館を燃やす。万物の書も、ただでは済むまい……どうする、賢者エリス」
賢者の得意分野である論議でやり合っても、埒が明かない。
だが、レオルは、グレイシャを諦める気はなかった。
何といわれようとも、ここから連れて帰る、そう決めていた。
「それは、下手な脅迫か……だが……君は追われ、資格は剥奪となる、そこまでする価値があるのか?」
「ある……そんなことも、分からないのか」
レオルにしては、珍しく不敵に笑う。
「……グレイシャは、この世に生まれて良かったと思っていない……それが、気に入らない」
「それだけが、理由かい?」
「あと、グレイシャ自身は悪いことをしていない。斬った剣が悪いのか、という話だ……それを分かっていながら、エルフの不満の捌け口に、意識のない少女を生贄にしようとするのは、もっと気に入らない……」
「……さらに言えば、状況を全て知っていて、エルフを止めもしない知った被りの賢者も気に入らない……」
レオルにしては、一切言葉を飾らない。賢者も沈黙を強いられる。
……ゾラも、これでは報われない……
言葉にできないものをレオルは、飲み込む。
だが、ゾラ達が振りまいた悪意が、今度はエルフ達に染み込み、グレイシャをも奪おうとしている。
それを見逃すことだけは、我慢ならなかった。
そんなものを許すために、剣を振るったのではない……
「……俺が、グレイシャをさらって逃げたとして、気の触れた魔族の暴走で片付ければ済む……仲間にも、責めは及ばない……」
「……これが、本気か嘘か、万物の書に聞かずとも分かるだろう……賢者エリス!」

遂に、魔剣に手をかけるレオル。
「……エリス様、レオルはあの娘を決して見捨てない……それに、さっきの話を聞いて、私が怒ってないとでも?」
「……前にいいましたよね、レオルが傷つくことがあったら、許さないって!」
ミレニムまでもが、杖の先に炎を灯す。
「万物の書を燃やされても、賢者と名乗れるか試してみますか?」
エリスが、天を仰いで崩れるように椅子に背を預ける。

「リーファーナ、そこに居るんだろう?……」
賢者が長い息を吐き出す。
「……助けてくれないか?私は戦闘に関しててんでだめなのは、知っているだろう?」
くすりとした忍び笑いが、扉の向こうから漏れる。
「エリス……君の負けと、しておきなさい。エルフィが気に入っている者達とコトを構えるのは、余としても不本意である」

エルフの貴人の姿がそこにあった。
静かな威厳をその身に従えた妖精族の女王。
王であることを相手に認めさせる存在、それがリーファーナである。
「レオル、それにミレニムであったな……他の者も大義であった」
ゆっくりと、レオル、ミレニム、ジュラ、ハクロの顔に視線を渡らせる。
レオルは魔剣を収め、ミレニムが杖を下げた。
「……この度の件、その方らの働きに免じて、グレイシャなる少女の身柄をあずける。なお、この度の首謀者はゾラなる魔族と黒騎士であり、グレイシャなる少女は本件に巻き込まれた被害者、とする」
リーファーナが、微笑む。
「最初は死んだことにするか、と思ったが……目を覚まさない以外健康体で、無理があるのでな……まあ、ここいらが落としどころだ」
「王の大いなる慈悲の心に、感謝を」
レオルが膝をつき、礼をとる。ミレニムたちもそれに習う。
「こちらも、そなたに多大なる迷惑をかけた……許せ」
「もう一つ、よろしいでしょうか?」
レオルがもう一つの気がかりを聞く。
「よい、許す」
「エルフィの容態、ですが……」
「今は、心得のある者が、治療にあたっている。神経が灼かれたのだ……難しいところだ」
「そう、ですか……」
「エルフィの件は、こちらも全力を尽くす……その方らは、疾く国を発て……」
「……グレイシャなる少女、あまり人目につかぬよう、連れて行くが良い……まだ、不満をもつ者も多い……」
リーファーナが、くるりと背を向けて扉を開ける。
「……だがな、これ以上、我が民が憎しみに染まるのを見たくないというのも、事実である……」
レオルは今一度、頭を下げた。
レオル達は、日が暮れる頃に王国を発った。国を救った者に最も遠い、見送る者のない旅立ちとなった。

「ようやく帰ってきたー!」
ジュラが、自分の部屋に飛び込んでいく。
「こら、ちゃんと手を洗いなさい!……ハクロ、グレイシャに奥の部屋を用意してあげて。レオルも手伝って!」
ミレニムが、指示を出していく。
意識のない少女を馬車から下ろすと、レオルが奥の部屋に運び込んでゆく。
「……ジュラ、買い出しにいくから手伝って。そのあとは掃除!一ヶ月は留守にしたんだから、忙しいよ!」
「あと、ギルドにも閉まる前に急いで報告!レオル、後は頼むわ」
「えー、ちょっと休みたいよー」
ジュラが引きずられていく。
「では、兄さん……あとは、頼みます」
グレイシャを寝台に横たえると、ハクロは退室した。
あれからグレイシャの意識は、戻っていない。
ソウルスパイダーの能力で、グレイシャの魂の崩壊を食い止めているが、意識を戻す事ができていない。
扱いが繊細すぎて、まだ使いこなせていないのだ。
「……ゾラ、起きているんだろう?」

床から、レオルの影が膨れ上がり人の形をとる。
「力は回復したか」
「……おかげで、な……貴様の力を常に貰わねばならぬのが癪だが、現界できたのはありがたい」
「なら、頼めるか?……グレイシャの意識を、魂の底から汲み上げてやってくれ……俺には、どうにもできそうにない」
「まあ、貴様だけでは、バラバラになった吾を戻せなかったのだからな。予想はついた……」
「……命令すれば、よいものを……吾の存在の是非は、貴様が握っているのだぞ」
ゾラが、あきれたように息をつく。
ゾラは一度、魂を砕かれ、死んだ……少なくとも、魔剣に砕かれ、あのまま放置されたならば、本当に消滅していただろう。
だが、レオルが魔剣を通して自分に取り込むことで、力を分け与えた。
ゾラを縛り付けていた自壊機能も、彼女を死んだと認識したことでその役割を果たすことなく消えていた。
「それでは、この先一緒にやっていけない……お前には、これからグレイシャを見守ってもらいたい」
「……そこまで、信用するというのか、吾を……グレイシャを利用した、吾を……どこまで甘いのだ、お前は……」
敵として、剣を交えた者を自分の中に匿う。
ゾラには理解しがたい考えだ。内部から何かされるとか、考えないわけでもないだろうに、と。
ただ、今のゾラは縛り付けられていた使命から解放され、しかも急に『これから』を与えられた。当然、戸惑いの方が大きい。
レオルに何かをしようという気には、今のところ到底なれなかった。
「そうだ、お前が、グレイシャを一番知っている」
レオルがゾラの瞳を見据える。
彼女の瞳は、驚きに大きく見開かれる。
「……暫く、かかる。下に行っていろ」

ゾラはレオルに背を向けると、幽体化した腕をグレイシャの胸の中に滑り込ませて作業にかかる。
その唇の端が緩んでいるのを、レオルは見なかったことにして、部屋をあとにする。
「兄さん、グレイシャの嬢ちゃん……大丈夫ですかね?
あんなコが楽しいことも知らずにあのままなんて、神様もあんまりってもんです」
旅に持っていった器だのをレオルと洗っているところで、ハクロが顔を泣きそうな感じでクシャッとする。
彼はここに帰る道中、グレイシャの顔を拭いたり、水を含ませたりと甲斐甲斐しく世話をしてくれた。そのせいか、情が移ったらしい。
「大丈夫だ……目を覚ましたら、街に連れていってやろう。きっと喜ぶさ」
扉がノックされる。
「ミレニムか? 今、開ける……早かった、な?」

「私、来ちゃいました……レオルさん」
「エルフィ!……どうして」
とりあえず、外に立たせておくのも何なので中に入れる。身体は何ともなさそうに見える。
「ミレニムさんが、前に私が預けておいた世界樹の雫でエリクサーみたいな物を作って、ルナに渡しておいてくれたらしいんですよ……」
「……で、使っても大丈夫ってことになって……それで、ですね。結局、追いだされちゃいました……」
「……世界樹の件、か?」
賢者が、機能停止とか言っていたことを思い出す。
「それもなんですけど、精霊術がほとんど使えなくなっちゃっいまして……その、ポンコツエルフは、いらないって……ひどすぎません!?」
きっと、レオル達に協力しての世界樹の力の無断使用も含まれているのか、とレオルは心のなかでそっと息をつく。
「それで……ここに?」
「前もいいましたよね?……私、エルフの里から出たことがないって……他に知ってる人、皆さんしかいなかったんですよー」
ボロボロと泣きはじめるになって、レオルがハクロがそっと差し出した紙を渡そうとする。
が、それより前に、エルフィがレオルの胸元に顔を押し付けてきた。
さすがのレオルも、引きつった顔をする。
「レオルさん、見捨てるなんて言わないでくださいー!……私、貴方に捨てられたら、どうしたらいいか……行くとこ、ホントないんですからー!」
ここに来るまでに堪えていたものが、遂に爆発したらしい。
リーファーナが何故か、舌を出している姿が目に浮かんだ。
しまいには、あたりに響き渡るような大声で泣き始めるに到っては、レオルは早々に降参するしかなくなった。
近所にきこえが悪いこと、この上ない。
「パパ?……その女の人、だれ?……」
階段から、トントンと降りる音が落ちてくる。

「兄さん?!……嬢ちゃんが……」
「……おはよう、グレイシャ。寝坊さんだな」
頭をクシャッと撫でる。
「パパ、おはよう……それでね、ありがとう」
くすぐったそうにしながらも、レオルにくっついて来る。
「何のことだ?」
「……なんでもない。言いたくなっただけ……」
「……あの、お姉さん、パパはグレイシャのものなんだから、離れてください」
「そんなこと言わないで、レオルさん分けてくださいよー、って、グレイシャさん?!意識が戻ったんですか?……良かったー!」
ぐしゃぐしゃの顔で、今度はグレイシャの方にくっつく。
「わ、パパ、この人ばっちいんだけど……外に捨ててきてもいい?」
「嬢ちゃん、外は勘弁してやってください」
ハクロが笑ってそんなことを言う。
「虫じゃないんですから、やめてくださいー」
余計にグレイシャにくっついてくるエルフィ、グレイシャが、うわぁと声を漏らす。
「忘れもの……って、何この状況!?」
ミレニムが、驚きのあまり杖を落とす。
「レオルにつく虫、増えすぎじゃない……?」
呆れ半分、苦笑半分のジュラ。
『騒々しいぞ、なんだこの家は?いつも、こんななのか?』
と、レオルだけに聞こえる声で、ゾラ。
「ああ、これがいいんだ」
そこに、嬉しそうに、愛おしそうに見つめるレオルの姿があった……
