20 証明 【クリスマス連続ショートショート】
「もういいと思います」
田中さんとピーナッツの投げつけ合いをしていたラジオの小人が言った。
「小人長の様子を見に行っても」
「行こう」
野崎さんがラジオの小人をつまみあげて頭の上にのせた、
「早く。今すぐ」
「そんなに怖いの?」
コートを着ながらラジオの小人に聞く。
「そりゃあ、もう。仕事を邪魔されると人が変わるんですよ。獲物を捕まえるホッキョクグマみたいな形相になります。びっくりするんだから。声出ちゃいますよ」
野崎さんの家の玄関を出ると、外は吹雪いていた。
「さむ!」
野崎さんが叫ぶ。
「長袖、着ろよ」
田中さんがぼやいた。
二階の店に続く外階段にも雪が積もっている。野崎さんが悲鳴をあげた。
「うおおう。待て待て。入り口開いてんじゃん」
腕を真っ赤にしながら階段をよじのぼる。私と田中さんも続いた。
「ひえええ。びっくりしたぁ! 小人長!!」
野崎さんの頭の上でラジオの小人が大声をあげる。店の中は雪が入り込んでいて、机の一つに長い巻き紙みたいなものが置かれていた。紙の上にねずみが一匹倒れていた。白くて小さなねずみだ。
「ねずみに、された?」
田中さんが机の上のねずみを人差し指でつついた。
「乱暴にしないでください!」
ラジオの小人が野崎さんの頭の上から飛び降りて、ねずみのところまで走る。
「ごめん。お悔やみ申し上げます」
「寝てるだけです!」
「これ、大丈夫なの?」
眠りこけるねずみを見ながら聞く。
「大丈夫です。お日様に干せば戻ります」
「布団……?」
雪まみれの玄関をようやく閉めた野崎さんが言った。
「そんな、へたれた布団の戻し方みたいなもんなの?」
「温めれば、もとに戻るんです」
ラジオの小人がねずみのおでこをさわる。
「冷た。北極ねずみは、ヒトの悲しみが固まってできた怪物だから。他の生き物も冷やしてねずみにしてしまうけど」
今度はねずみを立たせて、抱きしめはじめた。
「ひいいい。冷たい。ニンゲンの悲しさなんて、日向ぼっこしたり、誰かに抱きしめてもらったりすれば、不思議とどっかいっちゃうでしょ。それとおんなじで。無理だ」
ラジオの小人がねずみを抱きしめていた手を離した。ごと、と音がしてねずみが机の上に崩れ落ちた。
「冷たすぎる」
「今すごい音がしたけど」
相当痛そうに見えた。でもまだねずみは眠っていた。
「秘密です」
ラジオの小人が私に向かってきっぱりと言った。
「とにかく、小津絵さん見つけ出して日向にほせば元にもどるわけだな?」
野崎さんがラジオの小人を捕まえて言う。
「どうやって見つける気ですか?」
すぐに探しに行きかねない様子にたずねてみる。
「知らん。愛? 愛の力?」
「服、着替えてから行けよ?」
田中さんが心配そうに言う。ラジオの小人がため息をついた。
「もし見つけたとしても、この吹雪で、どうやってお日様に干すんです?」
「あ」
声が出た。思いついた。
「伝票に。伝票に書こう。『お日様に干せますように』って」
「小人のおもちゃ工場で太陽作らせる気ですか!」
ラジオの小人が怒って言う。
「なんでも叶うっていうから」
「叶いますよ。上手く書けばね。でも、小人長いないならもう無理です」
「『上手く書く』って何?」
「書類ですよ」
ラジオの小人がねずみの乗っている紙を指した。
「これです。途中で切れてる。北極ねずみに襲われたんです」
見ると、確かに何か字が書いてある。
「なんの書類?」
「証明書です。伝票の注文主が『いい子』であることの証明書」
「証明? 注文するのそんな厳しいの?」
「当たり前でしょう。魔法を使うんだから。ちゃんと筋道通すんです。無節操に使われたら迷惑でしょ」
「今、俺に言った?」
田中さんが声をあげた。
「いえ別に。あなたは他人のために使ってましたから。それで十分です。ただの本の注文でしたし。書くのそんなに難しくないです。でも、『太陽』なんて。どれだけいい子ならいいんですか。宇宙でも救ったって書けばいいんですか」
「あなたが書くの?」
「そうですよ。小人長いないんだもの」
ラジオの小人が顔を伏せた。
「ニンゲンの願いごとなんて本当はみんなおんなじなんです。要するに『幸せになりたい』って書いてある。でもそのために何が必要なのかわかっている人はほとんどいないんです。そこを読み取って、考えて、本当にその子が幸せになる贈り物になるように申請するのが書類です。良い子に、何を、どう届けたらいいか。うまくすれば、大きな魔法が使えます。小人の腕の見せ所です」
ラジオの小人の声がだんだん泣きそうになってくる。
「……でも、僕、下手なんです。書類書くの……」
「じゃ、じゃあ、こうしよう」
泣きそうなラジオの小人に必死で話しかける。
「北極ねずみを慰めよう。悲しんでるからこんな天気なんでしょ?」
小人が顔をあげた。
「それは……そうです」
「どうやって慰める気だ。そもそもどこにいるか分かるの?」
田中さんが口を挟んだ。ラジオの小人がまた泣きそうな顔になる。
「北極ねずみって、勇人君だろ? 勇人君の行きそうなところ……」
野崎さんが剥き出しの腕を組んだ。
「化石、見に行くの好きじゃなかった?」
「化石?」
覚えがある。野崎さんと同時に言った。
「セントラルタワーズ」
ショートショート No.533
このお話は12月1日から25日まで毎日更新される
お話のアドベントカレンダーです。

連続ショートショート サンタクロースとねずみの王さま
目次
1st week お天気配送業
12月1日 小さなねずみのはなし(その1)
12月2日 おかしなラジオ(お天気配送業 柊屋提供)
12月3日 父親
12月4日 名刺
2nd week 思い出採掘業
12月5日 おかしなラジオ(思い出採掘業 佐々木のこづち提供)
12月6日 ササキノキッチン
12月7日 化石
12月8日 小さなねずみのはなし(その2)
12月9日 失踪
12月10日 手紙
12月11日 着信
3rd week ヒーロー呼び出し業
12月12日 おかしなラジオ(ヒーロー呼び出し業 ノザキ電機提供)
12月13日 録音
12月14日 小人
12月15日 小さななずみのはなし(その3)
12月16日 北極ねずみ
12月17日 敗北
12月18日 「すまない」
4th week サンタクロース代理業
12月19日 おかしなラジオ(サンタクロース代理業 聖ニコラウス商会提供)
12月20日 証明
12月21日 双子の塔
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