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管理優先型採用から革新は生まれるのか――有用性選抜構造と技術停滞の関係


序:日本の主流採用構造から革新は生れるのか

 前稿「能力を測っているのか、それとも「管理しやすさ」を選んでいるのか」では、日本の主流採用構造が「能力そのもの」を測っているというよりも、「組織にとっての有用性」、すなわち予測可能性・同調性・管理容易性を強く評価する装置になっている可能性を指摘した。
 では、次の問いに進もう。

 こうした採用構造の職場から、技術革新や先進的な商品・サービスが持続的に生まれると考えることは妥当だろうか。

第1章 安定最適化組織の強みと限界

 まず確認すべきは、日本において主流の管理優先型の採用が「悪」だという話ではない、という点である。
 予測可能性や同調性を重視する組織は、

* 大規模オペレーションの安定運用
* 品質の均質化
* 事故やトラブルの回避
* 既存業務の再現性確保

において強い。
 つまり、それは「安定最適化モデル」として合理的である。問題は、その構造がそのまま「革新創出モデル」としても機能するかどうかである。

第2章 革新が要求する条件

 技術革新や先進的な商品・サービスは、一般に次の条件を必要とする。

* 既存前提を疑う姿勢
* 失敗を許容する文化
* 異論や摩擦を排除しない環境
* 分野横断的思考
* 長期投資と時間的余裕

革新は、秩序の延長線上で静かに生まれるものではない。多くの場合、既存の前提や慣行を揺さぶる形で現れる。ここで、前稿で整理した「通過しにくい人」の特性を思い出してほしい。

* 非線形な経歴
* 抽象度の高い思考
* 既存枠組みを問い直す姿勢
* 組織前提への疑問

これらは、革新に必要な資質と重なる。しかし、それらは管理優先型採用と相性が悪い。

第3章 構造的矛盾

 管理優先型採用が強く評価するのは、波風を立てない・既存構造に適応できる・扱いやすいという特性である。
 他方、革新はしばしば、波風を立てる・既存構造を揺さぶる・扱いにくい人から生まれる。両者には、明らかな構造的緊張がある。従って、管理を最適化する構造から、前提破壊型の革新が自然発生的に大量に生まれると期待するのは、論理的には無理がある。

第4章 なぜ過去には革新が可能だったのか

 このように言うと、「日本企業はかつて革新を起こしてきたではないか」という反論があるだろう。確かに高度成長期には、終身雇用前提の心理的安定、若年大量採用と長期育成、現場主導の改善活動、技術者への長期投資が存在していた。採用は管理型であっても、内部に時間と余裕があった。
 では、現在はどうか。短期成果圧力、非正規化、研究投資の縮減、人員余裕の欠如、この環境で管理優先型採用を続ければ、革新確率がさらに下がるのは自然である。

第5章 革新を阻むのは「能力不足」か

 生産性低迷や技術停滞が語られるとき、しばしば言われるのは、人材育成不足・努力不足・チャレンジ精神の欠如である。
 しかし、もし採用構造そのものが、前提を疑う人材・構造を再設計できる人材・統合的思考者を通過しにくくしているとすれば、問題は個人の努力ではない。評価装置が、革新適性を十分に測っていない可能性を、まず検討すべきではないだろうか。

第6章 有用性選抜の帰結

 管理優先型の有用性選抜は、組織の安定には寄与する。
 しかし、その延長線上で起きるのは、構造維持の最適化・手続きの洗練・既存業務の効率化であって、前提破壊型の技術革新・産業構造転換・新市場創出とは性質が異なる。
 この違いを無視したまま、「革新が起きないのは努力不足だ」と言うことは、構造の責任を個人に転嫁している可能性がある。このような構造的問題の個人化という日本でおなじみの現象は、問題の本質を見誤らせるだけでなく、誰の得にもならない対処へと導いてしまう。

結論

 管理優先・同調優先・予測可能性優先の採用構造から、高度な技術革新や先進的商品・サービスが自然に、持続的に生まれると考えることは、構造的には無理がある。これは個人の優劣の問題ではない。
 問題は、何を測る装置を社会が採用しているのかである。
 採用が「能力選抜」ではなく、「組織有用性選抜」に偏っているなら、革新が生まれにくいことは、偶然ではない。構造的必然である。
 従って、問いはこうなる。

 私たちは、組織を安定させたいのか。
 それとも、社会を前進させたいのか。

その選択は、採用という最初の入口で、すでに始まっているのではないだろうか。

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