マクロレンズの世界 vol.6 アーティファクト









アーティファクトの基礎知識
1)アーティファクトとは
「アーティファクト」とは、「人為性の何か」のことです。
自然科学では、測定データに入り込んだ「何か」を、
自然の本質か、そうでないかを、分けて判断する必要があります。
世界で最も有名なアーティファクトは、
パークス天文台の電波望遠鏡が検出した異常信号かもしれません。
ノイズというと些細なものを想像しますが、これは特大スパイクでした。
測定機器のクセもアーティファクトです。
歪みがあっても、データを取得したければ測定するしかありません。
測定者は歪みを承知でデータを取得します。
論文の考察の段になって「これは機器に起因する歪みです」と言明します。
カメラには、光学関係のアーティファクトがあります。
そして、そのアーティファクトは、驚くほど市民権を得ています。
なんといったらよいのか、カメラっぽさとして親しまれている。
たとえていえば、愛すべき道具が微笑んだときにできる、エクボみたいな。
今回は、写真に現れる、代表的なアーティファクトを紹介します。
2)カメラの光学アーティファクト
[ 画角系 ]
・ 画角
装着するレンズによって、視野に入る範囲の広さが変わります。
・フレーム
四角でない世界を、四角く切り取って絵にします。
カメラはレンズこそ円形ですが、フィルムや素子の並びが四角なので、
写真は四角形です。
[ ボケ系 ]
・ ボケ、アンフォーカス(写真1、写真2)
ピントが合っていない部分がぼけて写ります。
奥側より手前側のほうが、ボケの勾配がきついです。
・ 玉ボケ(写真3)
肉眼で光点に見えるものが、アンフォーカスで薄い白玉に写ります。
マクロレンズだけでなく、標準レンズで開放寄りにしたときも出ます。
丸っこくてかわいらしい。ぼーっとしていてファンタジック。
愛されるアーティファクトです。
きつく絞ると、丸ではなく、そのカメラの羽の形で写ります。

・ 虹ボケ(写真4)
太陽光が水滴で分光し、虹ボケが現れることがあります。
好発条件は、朝露+マクロレンズで接写、です。
めったに出ない、幻のアーティファクトかもしれません。

・ 前ボケ(写真5)
レンズ至近に何かがあると、その色が漂うボカシになります。
花畑の写真に花色のボカシを漂わせるのに使われます。
マクロレンズはピント合わせに苦労する一方、前ボケ作りは楽勝です。
[ 眩光(げんこう)系 ]
・ ハレーション、フレア(写真6)
光源に視野を近づけると、その近傍が白あるいは呈色で霞みます。
逆光の表現に使われます。
ハレーションは、日本語では光暈、光源から円盤状に広がる光輝の意、
フレアは、太陽フレアやフレアスカートと同じく、広がりを指します。
カメラの開発者は、カメラの機構を踏まえて細かな区別をするようです。
写真家にとっては、光源付近で光が広がった、その写りだけが問題で、
散乱がどの部品(レンズ内部/鏡胴/本体)で発生したかを調べ、
散乱の経緯を表す専門用語を使って表現すべき、とする動きはないです。
なお、円盤でなく、星型に広がる場合は、光条といいます。
肉眼で見たとき、点であるはずの光源が星型に見える現象があって、
その見え方を模した特殊フィルターを装着すると光点が星型になります。
・ ゴースト(写真7)
光源から伸びる線上に、光の像が複数並ぶアーティファクトです。
アニメやゲームで、光源の符丁として描かれることがあります。

撮影生活を続けていると、白い像が写る機会があります。
走行中の車の反射光や、たまたま目前を通過した何かです。
ゴーストという呼称は、こちらのほうが合う気もします。

1万年の時を経て、今、魔界の扉が開こうとしている・・・。
「あ、これ面倒なやつ。下山の最終バスが4時なんです。じゃあっ」
[ 収差系 ]
・ 収差
レンズは、その集光特性に由来する、固有の歪みを持ちます。
写真7、右の柱が右に、左の柱が左に傾いています。
マクロレンズの歪みには、辺縁、遠近、2つの要素が絡みます。
最近の製品は接写の特化を減らしていて、ここまで歪むことはないです。
スナップも撮れるようになった一方、特殊効果は少なめになっています。

このぐらい歪んでくれないと「高画素で撮って拡大するのとどう違う?」になってしまう。
・近景のインスタレーション効果(写真8)
マクロレンズで寄って撮ると、実際にはわずかな奥行きしかないものが、
日常生活の奥行き感、立体感で写ります。
コロボックルやアリエッティの目で見た、臨場感のある絵になります。
原理は、フェルメールの絵画でそこで見ている気分になるのと同じです。
・遠景のジオラマ効果
マクロレンズで遠景を撮ると、距離感の圧縮で、ジオラマ風になります。
高層ビルから見下ろした街が模型に見えます。
電車はプラレール、船舶はオモチャの船のように写ります。
[ 偏光/分光系 ] (写真9)
偏光板でない、ただの防塵用フィルターを付けていても、
被写体が持っている偏光や分光の性質が強調されて写ることがあります。
キク科の冠毛が虹色になったり、雲が彩雲のように色を帯びたりします。
複層構造(コート含む)が関係していそうですが、詳細は不明です。
[ その他 ]
名称がない、さまざまなアーティファクトがあります。
特定の機種、レンズ、フィルターにしか現れないものもあるでしょう。
美しいか否かに関わらず、楽しみで「変」を写すのもよいものです。

黄色い丸は太陽ではなく、夕日が金属に反射したもの。つまり玉ボケのお化け。
色ずれが面白い。
エレウテリネは、16時に咲き、19時に萎む。
アーティファクト(人為性の何か)を、アート(人為作品)にする。
まともに考えると混乱します。
ここは、頭を空っぽにして、
「きれいだから/面白いから、それでいいや」で収めるのが一番です。
写真解説
① クヌギ(ブナ科)
いよいよのとき、僕の胸に去来するのは、おそらく安曇野の自然です。
すべてが愛おしい。
ドングリも、透き通った水も、空も、遠くに見える山々も、全部。
② ナガミヒナゲシ(ケシ科)
花壇があります。
見る
座る
⇒ 撮る
真珠のネックレスを見つけました。
③ クサノオウ(ケシ科)
アート系の人は、なんと、玉ボケを意図的に配置するそうです。
僕の写真に出ている玉ボケは、意図して配置したものではありません。
ただし、背景の整理が作為なので、半分は意図、半分は偶発、です。
④ スギナ(トクサ科)
山あいのペンションに泊まったら、朝食前に朝露を撮りに行きましょう。
草むらを歩くときは忍び足で。
⑤ オオイヌノフグリ(オオバコ科)
陽があたる場所で堅固そうに生えていることが多いですが、
草むらにいるときはたおやかな草姿です。
この花はどう撮ってもかわいいです。
⑥ マロニエ(ムクロジ科)
おぉっ?!と思ったそのとき、手元に愛機があるか、ないか。
備えあれば、地団駄なし。
葉の影がモザイクになっているのが楽しいです。
⑦ ヒルザキヤコウボク(ナス科)
撮影地は東京都庭園美術館です。
香りの弱いヒルザキヤコウボクは、上品な朝香宮邸に合う気がします。
⑧ ニワゼキショウ(アヤメ科)
庭には二把、ニワゼキショウがある。
おいといて \(・_\)(/_・)/
Sisyrinchium属の花は、たぶん、アヤメ科で最小です。
ニワ! ゼキ! ショウ!では、花容と音が合わない。
ここは「ししりん」と呼びたい(ぉぃ)
⑨ クモの糸
理化学研究所に、クモの糸を研究しているチームがあります。
カイコやクモは、糸玉をお腹の中に抱えているわけではなく、
高分子のモヤモヤが引き延ばされるとき、配列が揃って糸になります。
写真に写っている周期性は、吐出動作の名残りでしょうか。
巣作り中のクモ「うんしょっ、うんしょっ」
[マクロレンズの世界 シリーズ目次]
親しむ編
マクロレンズの世界 vol.1 細部
マクロレンズの世界 vol.2 集合と配列
マクロレンズの世界 vol.3 陰影
マクロレンズの世界 vol.4 光
マクロレンズの世界 vol.5 ワンダー
マクロレンズの世界 vol.6 アーティファクト
マクロレンズの世界 vol.7 色
マクロレンズの世界 vol.8 アート
マクロレンズの世界 vol.9 アーカイブ
マクロレンズの世界 vol.10 トリミング
学ぶ編
マクロレンズの世界 vol.11 視覚認識(1/2)基礎 -視覚認識の3段階
マクロレンズの世界 vol.11 視覚認識(2/2)個人差
マクロレンズの世界 vol.12 作画工程(1/3)基礎 -アートの通学路
マクロレンズの世界 vol.12 作画工程(2/3)マクロ撮影
マクロレンズの世界 vol.12 作画工程(3/3)レタッチ
マクロレンズの世界 vol.13 作例(1)覗くように
マクロレンズの世界 vol.13 作例(2)抽象
