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マクロレンズの世界 vol.3 陰影


Rosa cv.(バラ園芸種)  撮影地:谷津バラ園  ⒸJulikis_Seto, 2023
Prunus persica cv.(ハナモモ)  ⒸJulikis_Seto, 2016
Prunus mume cv.(ウメ園芸種)  ⒸJulikis_Seto, 2009
Calendula arvensis(ヒメキンセンカ)  ⒸJulikis_Seto, 2010
Kerria japonica(ヤマブキ)  ⒸJulikis_Seto, 2010
Hydrangea macrophylla cv.(アジサイ園芸種)  ⒸJulikis_Seto, 2011
Philadelphus 'Belle Etoile'(バイカウツギ 'ベルエトワール')  ⒸJulikis_Seto, 2010
Oenothera speciosa(ヒルザキツキミソウ)  ⒸJulikis_Seto, 2010
A sprout of  legume(マメ科植物の芽生え)  撮影地:国営昭和記念公園 ⒸJulikis_Seto, 2010



マクロ撮影 中級

1)カメラを花の高さに近づける

花の撮影で、高さを合わせると、独特の効果が生まれます。

 ①「あなたを壊しません」という尊重の心で、対象に接する感覚
 ②  自分が小人になって世界を眺める感覚(インスタレーション効果)

マクロレンズで写した被写体は、大きい/小さいがよくわかりません。
「サイズ不詳」の造形物に対して、日常生活の認識が外挿されます。

マクロレンズでは、ミクロの世界が日常風の「遠近」で展開します。
構造物に入り込んだ、小人の眼で見た世界です。

ますむらひろしの「アタゴオル物語」は巨大植物の世界に見えますが、
もしかすると、登場人物のほうが妖精かもしれませんよ。

視覚認識を揺さぶるという点で、マクロ写真は単純な拡大ではないです。
高さを近づけると、これらの効果を強く反映させることができます。

ここでひとつ問題が。

花には「花芯」という強力なターゲットがあります。
そもそも花は虫寄せに特化した器官であって、花芯はその的(マト)です。
上向きの花を高さ合わせで撮ると、花芯が見えないという不満が湧きます。
そこで、高さが近めで、花芯も見える、斜め上が好んで選択されます。

花は咲きたい高さで咲き、撮影者はそれに合わせます。
必要に応じ、ファインダーを覗かない、画面撮影も使います。

ナチュラリストたちは、花芯そっちのけで裏側を狙うかもしれません。
センス・オブ・ワンダーにおいて、定型構図などどうでもよいことです。
「この植物のここがいい」という偏愛を大事にします。


2)暗いときは暗く撮る

暗いときは暗く撮ります。

一般に、暗い状況で、露出をマイナス補正せずに撮ると、
彩度が低いのに不自然に明るい、白く霞んだような写真になります。

実際、どれぐらい暗いのか、現地で意識に上らせることは難しい。
ヒトの視覚は自動で補正がかかっています。

後日、画像を確認したとき、白くて不自然だったという経験を通して、
暗いときに露出を下げることを習慣化します。

暗めになるシーンは、具体的には以下があります。
 ・建物の日陰
 ・山の斜面の日陰側
 ・林床、樹下
 ・曇天
 ・未明/黄昏時

やっと確保できた休日が、曇天のこともあるでしょう。
印象派の絵画ような、光あふれる写真は撮れそうにありません。

しかし、強光がない状況は、感度曲線が鋭敏な領域全体を使って、
明暗のグラディエーションを展開するチャンスだったりします。

まぐれでレンブラント。

中級になると、そういうラックもあったりします。

Eucomis comosa(パイナップルリリー)
曇天で露出のマイナス補正を忘れると、低コントラストで白っぽく写る。
白く霞ませた絵が欲しかったとして、後日、画像処理でそれを作るのは簡単です。
原データは、感度曲線における階調が鋭敏な範囲で取得したほうがよいです。



写真解説

① バラ(バラ科)
 出版社との打ち合せを終え、バラ園に到着すると、閉園30分前でした。
 「あと30分ですが、いいですか」と守衛さんに念を押されて入場します。
 ベストな時期に1枚撮れれば、それで十分な気がします。

② ハナモモ(バラ科)
 僕は幾何学図形に惹かれるのか、モモの花を撮ってきませんでした。
 ある日、園芸家の婦人から、くしゅくしゅの花の魅力を力説されました。
 そういわれれば、かわいいかも(タジタジ)
 以来、くしゅくしゅ系の花も撮影対象に加えています。
 美学名は、「くしゃくしゃ」ではなく「くしゅくしゅ」です。
 服飾に起源を持つオノマトペらしいです。
 僕が撮るより、「くしゅくしゅ推し」のご婦人の手で撮ったほうが、
 魅力的に映るのではないかと想像しています。

③ ウメ(バラ科)
 梅の花では、「咲く」以外に、「ほころぶ」という表現も使われます。
 英語には存在しない表現で、なんとも英訳しようがありません。
 loosen? relax? unravel?
 言葉を尽くして解説したとして、語感までは伝えられそうにないです。
 梅の花は、ほっこりほころぶものでして。
 
 英訳といえば、「詫び寂び」をどう訳すかの話題はよく出ますね。
 SF「ニューロマンサー」に出てくるAIの名前である「winter mute」や、
 「empty」を推す手もあったのですが、wabi sabiに落ち着いたようです。
 音楽界において、「サウダーデ」や「ブルー・ノート」はそのままです。
 歴史背景を知った上で使用すれば、他国の奏者が口にしても大丈夫です。
 詫び寂びは「諸行無常」「盛者必衰」「冬の静寂」「無飾」を含みます。
 単純な「万物は流転する」とは質が違う。
 消えてしまう、無くなってしまう、寂しい、寄る辺ないあたりが近い。
 ヴァニタスとも違う。
 ヴァニタスは、上から目線で「死を忘れるなかれ」とエグく戒める。
 詫び寂びで寂しく虚しいのは自分で、そこに儚さや切なさの美がある。
 僕の手元には「翻訳できない世界のことば」という絵本があります。
 あ、まずい、言語クラスタ向けの記事を書いているのではなかった。

④ ヒメキンセンカ(キク科)
 時は流れ、詩人は忍びの者になりました。
 本種の選抜種は「冬知らず」という名で販売されています。
 響きがよく、ヒメキンセンカという標準和名をかすませそうな勢いです。

⑤ ヤマブキ(バラ科)
 花びらも雄しべも花粉も全部、ヤマブキ色(=カロテノイド色)です。
 のっぺり感を回避しようとして、あれこれ撮ります。
 想像以上に、しべが愛らしかった。

⑥ アジサイ(アジサイ科)
 梅雨がなかったら、日本の夏はもっと過酷だったと言われています。
 暗くて構いませんので、ダムにたっぷりの水をお願いします。>雨雲さん

⑦ バイカウツギ ベルエトワール(アジサイ科)
 フランス語で、ベルは美しいの意、エトワールは星の意です。
 ありがたい品種名ですが、本種で特筆すべきは、形ではなく香りです。
 花を見つけたら是非、香りを嗅いでください。
 フルーティで、甘くて、レモン感、ハニー感があるとてもよい香りです。

⑧ ヒルザキツキミソウ(アカバナ科)
 むかし、むかし。通信が写真を扱えるようになる前の時代。
 「トゲナシトゲトゲ」について語った記事がバズりました。
 その記事をきっかけに、トゲトゲは多くの人が知るところになりました。
 生物学者「なにゆえトゲハムシが?! めっちゃ地味やん?!」
 筆力が突出した人の手にかかると、こんな番狂わせも起きます。
 そんなこんなで、昼咲き月見草です。

⑨ マメ科植物の芽生え
 撮影しているとよく、「何を撮っているのですか」と尋ねられます。
 「芽です・・・」「樹皮です・・・」「苔です・・・」
 尋ねた人は後ずさりしながら消えていきます。ヒロシです・・・。


[マクロレンズの世界 シリーズ目次]
親しむ編
 マクロレンズの世界 vol.1 細部
 マクロレンズの世界 vol.2 集合と配列
 マクロレンズの世界 vol.3 陰影
 マクロレンズの世界 vol.4 光
 マクロレンズの世界 vol.5 ワンダー
 マクロレンズの世界 vol.6 アーティファクト
 マクロレンズの世界 vol.7 色
 マクロレンズの世界 vol.8 アート
 マクロレンズの世界 vol.9 アーカイブ
 マクロレンズの世界 vol.10 トリミング
学ぶ編
 マクロレンズの世界 vol.11 視覚認識(1/2)基礎 -視覚認識の3段階
 マクロレンズの世界 vol.11 視覚認識(2/2)個人差
 マクロレンズの世界 vol.12 作画工程(1/3)基礎 -アートの通学路
 マクロレンズの世界 vol.12 作画工程(2/3)マクロ撮影
 マクロレンズの世界 vol.12 作画工程(3/3)レタッチ
 マクロレンズの世界 vol.13 作例(1)覗くように
 マクロレンズの世界 vol.13 作例(2)抽象