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マクロレンズの世界 vol.10 トリミング

※ 7000字あります。

∫1 トリミングとは


写真において、trimming(トリミング)とは、縁を切り落とすことです。


さかのぼること、フィルム時代。
プリントは、現像を終えたネガフィルムに光を当て、
感光性をもった印画紙に投影し、焼き付けるという方法で作っていました。
トリミングは、焼き付け時に行うことのできる、投影調節の一つでした。

技術的には、当時から可能だったのですが、普及はしなかった。
フィルム時代は、撮影者と現像者が別の人だったからです。

写真家「トリミングして、絵がどうなるか、様子をみたいのだけど・・・」
現像者「どこをどう切るのか、具体的に指示してくれないとわかりません」

必要に迫られた写真家は自分で物理的にプリントを裁ち落としていました。

昭和のスターのプロマイドは、きれいにトリミングされています。
商品なら現像さんも連携を厭わなかったでしょう。

 写真家「もっと大写しにしよう、そのほうが映える」
 企画部「ハガキ大に変更してくれ、客が扱い慣れている」
 販売部「縁が広いほうがいい、売り場に並べると一枚一枚が光る」
頑張れ、現像さん。


時は流れ、デジカメ時代。
撮影者は自分でトリミングできるようになりました。
トリミングはアプリ定番の機能で、操作は簡単です。


∫2 補正のためのトリミング


トリミングは一般に、構図を補正・強化するために行います。

① 上下左右の位置の調整
 取得した原画の構図が、構想から少しずれていたとき、
 縁を切り落として、希望する位置に被写体を配置します。
 最も利用機会が多い、トリミングの基本用途です。

② 画面に占める被写体の割合の増化
 被写体を大写しにする目的で、トリミングすることがあります。
 大写しにすると、主役っぽさが増し、迫力が出ます。
 寄ると、寄った像に変質してしまうので、寄らずに撮って切ります。
 「喫茶店、恋人の距離は変わらずも、心の中では大写し」です。

③ 縦横比の調整
 表紙を飾る(装丁)、商品写真を並べる(レイアウト)など、
 写真の外に形を決める要件があるとき、写真は部品相当です。
 全体のデザインの完成を目標に、写真をトリミングします。
 原画の外形は維持しません。縦横比は置き場に合わせます。

上記の①②③は、独立ではないです。
位置を直そうと、1辺のみを切り落とすと、外形の縦横比が変わります。
縦横比を固定して、2辺を切り落とすと、その分、大写しになります。

マクロ写真でも、構図の調整は、ふつうに行います。
構図は独特でも、意向に近づける点は同じです。
各自、自分の構想に沿って撮り、トリミングで補正・強化します。



コラム: あとからトリミングの隠れた本質

写真の魅力のひとつに、遠近像と被写界があります。

絵画においても、どの位置で見ているかの要素は魅力になります。
フェルメールやハマスホイの絵は、どこで見ているかを強く感じさせます。
しかし、全ての画家が、それを精緻に表現することを志すわけではない。

写真撮影では、全員に「レンズの選択」と「位置取り」が強制されます。
さらに、そこに被写界深度の要素が加わる。

この魅力に憑りつかれた写真家は、撮影時は遠近像と被写界に集中し、
撮影時の構図(画内配置)は大体にして、後日のトリミングで繕います。
レンズ、距離、角度の3要素が作る像は固有にして修正も補完も効かない。
「結像一番、構図は二番」ということがありうる。
遠近像を鋭敏に感じている人にとっては。

何かの要素で感覚鋭敏な人が、その要素で描きたくなるのはふつうです。
世には、構図ではなく、色や明暗をメインにして、絵を描く人もいます。
4色型の動物の色世界はすごそうです。ヒト種が認識できないだけです。
紫外域を感知する知的生命体は、紫外域の絵具で精緻な絵を描くかも?
コウモリは、超音波を指標にして世界を描きたがるかも?

何を言いたいのか、わからなかったら申し訳ないです。
何か一つでも、突出した鋭敏さを授かった人は、わからないなりに
「ふーん、何か見えてるんだ?」と想像できる気がします。


∫3 クロップ(切り抜き)


crop(クロップ)は、原画から、目当ての一角を切り抜く処理です。
クロップの原義は、農業でいう「収穫」です。

クロップでは、編集者が原画の構図を考慮しません。
構図を補正・強化する目的で切り落とすのではなく、
画像の中に目当ての何かが写っていて、そこを切り抜いて利用する。 

典型的なクロップは、衛星画像や航空画像の利用です。
人工衛星に「こういう構図で撮ろう」などという構想があるはずがない。
利用者はGoogleが提供する画像を拡大し、自宅の屋根を見つけます。
ナスカの地上絵も、アフィントンの白馬も見えます(向きは変)。

クロップが普及した背景には、画像の高解像度化があります。
コンデジ草創期、データサイズは20KB/枚しかありませんでした。
2025年現在は、標準画質でも10MB/枚はあるでしょう。
標準画質以上は、クロップしてなお、鑑賞に耐えられる画質です。

静岡県 牧之原 気象レーダー
雨の日も晴れの日も、茶畑の中で観測を続ける。
影ぼうしが凛々しい。
気象レーダーは僕の趣味。


1) アート目的で画像の一部分を切り抜く

画像を眺めていて美しい部分を発見した、という状況があります。
マクロ撮影者は、もともと部分に着眼する目を持っていますので、
マクロ写真の中の、さらに部分に着眼するのは自然な流れです。
高画質で記録した人は、部分を切り取って絵にすることができます。

切り抜いてプレゼントに添えるカードを作る。

原画像の1/4以下で切り抜くと、当初の構図は吹き飛びます。
「撮影時に企図した構図はどうなってもいいのか?」
じつは、マクロ撮影家は、全体が眼中にないことがよくあります。
「あそこが撮りたい、他に何が写り込もうと関係ない、トテチテター」
「10枚撮って1枚だけピントが合った! 早速、切り出そう」です。

『まどろみ』 ⒸJulikis_Seto, 2011
上記の原画像。
上方に柵があって、柵越しに散乱光が入ったところを撮りたい(着眼が細かい)
柵下の花の上端を狙って、ひたすらシャッターを押す。どれかは写っているはず。
下端はどうなるかわからないので、入れとけ状態。
全体像は、残念とか、そういうレベルですらない。

マクロレンズでは、積極的にボケを使うことが可能です。

マクロレンズの遠方側のボケは、丸ボケと同じ光学現象で、
ファンタジックな味わいです。
近位のダミーにピントを合わせ、遠方を切り抜いて作品とします。

『追憶』 ⒸJulikis_Seto, 2010

質感と色感は、しばしばコンフリクトするので、
色で絵を作りたい人は、質感の減量を試してみるとよいかと。

2007年製造のE-510で、画素数はぎりぎり。
本来、画質は高いほどいいはずなのに、
粗さが愛すべきマチエールに感じられてどうしようもない。
ノスタルジーなのか、本質なのか。

マクロレンズで撮り続けていると、さまざまなボケが入手できます。

そこには、
・自分が絵を描くときは試さない、発想外の色/色の組み合わせ
・発想外のグラディエーション配置
があります。

拡大して、視界いっぱいに眺めると、さまざまな反応が出ます。
 ① 感じる(心地よい、冷たい、硬い、美しい、浮遊する、etc.)
 ② 印象(華やか、知的、透明、謎めいた、古代風、元気感、etc.)
 ③ 想起する(似てる、思い出す、etc.)

完成された作品でなくても鑑賞(感覚・印象・想起)は楽しんでよいです。
グラディエーションにはトゲがないので、どれだけ見ても痛くありません。

審美の結果を、創作に生かすこともできるかもしれません。
そのまま、背景に使えそうな絵がでることもあります。
僕は背景の美が大好きです。
[mixi] 絵画のゆくえ2016 FACE受賞作家展|裕紀

見ていると自分が、色の組み合わせと揺らぎの美を詳しく知らないことに気づく。
自分用に作ったアルバムなのに、なぜかいいねが1票入っている。
色が好きな人が、他にもいるのか。


2) 拡大して観察

マクロレンズでできる拡大倍率は、虫メガネより少し上です。
デジカメをルーペにして、細部の観察ができます。

自然は、大きくみても、小さくみても、美しい。
画素が許す限り、拡大観察をして楽しみましょう。

毛が円形に平開し、6角配置が出現する。
全体ではサッカーボールみたいに5角の部分も混じる。
上記の原画像
科学写真では、ボケの抑制に努める。
寄れば寄るほど、被写界深度が狭くなるので、故意に引いて撮って、観察するときに拡大する。
白い細毛や白いしべの観察では、アンダーがおすすめ。
目に見えない細部の白飛びを防ぎ、立体的に写ることを期待する。


∫4 異物の消去


トリミングは、周辺の異物を排除する目的でも使われてきました。

スタッフや通行人が写り込んでしまったとき、
トリミングを使って掃き出すことはあるでしょう。
構図がベストでなくなっても、写り込みが残るよりはマシです。
もちろん、常に消せばいいというものではないですが・・・。
 スタッフがいっぱい写っていて、ロケ感を楽しめるMV(HOT LIMIT)


デジタル時代、異物の位置が周辺でなくても消せるようになりました。

消去の可否は、状況によって異なります。

イラスト相当の写真が望まれているとき、
支柱やワイヤーなど、異物を消さないまま納品すると、
「なぜ消さない? 手抜きか?」と怒られそうです。

異物どころか、背景のすべてを無効にするのもよくあることです。
商品写真には影ぼうしがありません。
コラージュ用の切り抜きにも、クロップという表現が使われます。

科学論文の投稿では、写真の加工は禁じ手です。
写真に目立つ異物が写り込んでいても、そのままにして、
「この染みは埃(アーティファクト、コンタミ)です」と説明します。
許される操作は直線的な切り落としのみ。
画像本質に手をつければ、データ改竄とされ、科学者生命を失います。

写真誌では、雑誌ごとに方針が異なりそうです。
アート系/自然科学系/報道系、それぞれ、編集部の方針に従います。

フクジュソウ(植栽) ⒸJulikis_Seto, 2010
園芸において栽培環境は人工で、園芸誌であれば載せられる。
野生のフクジュソウは、落ち葉や枯れ枝に囲まれて咲くので、その様子を写す。
周囲の落ち葉も立派な情報。環境情報を消すなんてとんでもない。
上記の原画像
えー、フクジュソウの花は、パラボラ型で、一説によると・・・
何、写り込みが気になって解説が耳に入らない?


∫5 アートワーク

1)装丁

CDのジャケットや書籍の装丁に、写真を使用することがあります。

ジャケットは、正方形。
書籍は、四六判やA6判。
写真に多い規格(3:2や、4:3)とは、縦横比が異なります。

満足のいくデザインに仕上げるため、
写真のトリミングが必要になることが多いです。

シンセサイザー音楽、黎明期の名盤、
ヴァンゲリスの「ALBEDO 0.39」(1976年)
コラージュ写真が題字をふわりと掲げる。
余白のホワイトと写真の暗色のコントラストが美しい。
僕はジャケットを持っていない。くうぅ。
当時、オーディオマニア以外は、カセットテープで音楽を買うものでして。
カツオドリなのに、カモメの愛称で親しまれている、
チック・コリアの「return to forever」(1972年)
曲も名盤なら、ジャケットも名版。
僕は復刻ジャケットを買った。
LPジャケットの中にCDが入っているという謎の企画商品。
飾ると日焼けしてしまうので、飾りたいけど飾れない。
かつて通った表参道の「月光茶房」には、ジャケットを飾るスペースがあったっけ・・・。


ECMのジャケットには、画集もあります。
刊行直後、僕が購入したときは6000円ぐらいでしたが、
現在の相場は5万円前後。お、おぅ。


同人音楽レーベル「Diverse System」は、音楽ゲームに起源をもちます。
メディアが配信に変わった現在も、イメージ画は1:1を維持しています。
イメージ画が並ぶ様子は壮観です。

現在のnoteは個人プレーが中心ですが、
異なる創作分野でコラボができたら、すばらしいでしょうね。
小説や音楽に画像がついたり、絵や写真に短編や詩がついたり。
専門外の分野との接触には気概が要るので、難しいかな。
デザインは、感受/創意、敬意/自尊、全てが必要になる高度な仕事です。


2)被写体合わせのトリミング

かつて僕は、Michael Kennaの写真集を通販で購入しました。

想像より大きかった。
さらに、あれっと思いました。
「縦横比、こうなんだ?」
通販では到着まで、現品の大きさや外形がわかっていないことが多いです。

工業規格は「大体」です。
ヒトの視界の形や、持ちやすさで決めた大体。
汎用性が高くなるように設計されています。

アーティストは、工業規格とは別に、被写体および感性に合うように、
作品の外形を決めることができます。

先日、ケンナの写真展に行ったところ、被写体合わせのトリミングでした。
プリントは、白い台紙に張られ、額装されており、
写真の外形も作品の一要素になっていました。

心の中から、どうするのがよいか、声が聞こえているのであれば、
工業規格を崩してトリミングしても問題ありません。
決められた枠の中で構図を詰めるのもアリなら、
被写体を主役にして、枠に沿ってもらうのもアリ。

公募の写真展では、会場に淡々と作品を並べることが先決なので、
主催が指定した規格に従うしかないですが、
自分で楽しむときは、その限りではないです。


3)今、そこにあるアートワーク


「アートワークは専門家の世界のこと、自分には関係ない」って?
それはどうでしょう。

noteのサムネイルは、
  1.91  :  1
です。
画像の下に、横書きで表題が入るレイアウトです。

記事を作成する際、全員、問答無用で1.91:1のトリミングを迫られます。
文筆一本でやってきた人も、にわかデザイナーにならざるを得ない。

記事が並ぶ様子を眺めると、各自の工夫が見えてきます。

やるなあと思ったのは、イラストの「お題アルパカ」です。
横長をうまく生かしていて、noteらしい。

苦戦しているのが、以下2種類。
 ・漫画(コマ割りがある)
 ・書籍(プロが縦長でデザインをキメている)
どうすればいいんだ・・・。

僕は、平素、愛機の4:3で絵を構想しています。
noteに来て、完成品を切ることに納得いかず、悶々としたことが。
そうかと思うと、4:3では絵にならなかった写真が、敗者復活したり。
長いうちには、いろいろあります。


マクロ勢、その他皆さまの、トリミングライフの充実をお祈りしています。

ではでは(^^)/


付録 [ よくある縦横比と用途 ]

1:1 タイル、コースター、押しボタンなど
 工芸品感がある。
 平面空間に置くと、マトの効果が得られる。

1.333(4:3) コンデジ規格、スライド標準規格
 物撮り写真で対象物の収まりがよい。

1.414  A4規格(210 × 297mm)、A5, A6も同様
 そのまま文庫や事務用品を装飾できる。
 ルート2は、何度、半分に折っても比が変わらない白銀比。

1.433(3:4.3) L判プリント(89 × 127mm)
 古典的な写真プリントのサイズ。
 プリントが前提でなくなった昨今、A4や1.4(7:5)で近似されている。

1.48 官製はがき(100 × 148mm)
 そのまま絵ハガキにできる(縦横とも)。
 郵送可能なハガキの範囲は、90~107 × 140~154mmで幅がある。

1.5(3:2) 一眼カメラ全般の工業規格
 ヒトの視野に近く、在場感がある絵になる。
 風景に向く。

1.6(8:5) PCのデスクトップ画面
 デスクトップ型PCのモニタに画像を表示するときのサイズ。
 風景の場合、ややパノラマ感が強調される。
 黄金比(1.61803・・・)の近似値。

1.777(16:9) デジタル放送、YouTube、スライドワイド規格
 見慣れた動画のサイズ。
 2名が会話するドラマのシーンに合う。

1.91  noteのサムネイル規格
 横書きされた表題の上部を飾る。
 基本サイズは、1280 × 670 px。
 推奨サイズは、1920 × 1006 px。

2.0付近  掛け軸の一部、屏風6曲一双
 畳(2.0)や襖(1.93)の比に近く、和室によく調和する。
 田中一村の『アダンの海辺』は、2.09付近。
 掛け軸は巻物の一種であり、作品の多くはもっと縦/横に長い。
 屏風1双は、2.12付近だが、折った状態で飾るため、
 鑑賞上も2.12と言えるかはなんともいえない。

2.222(20:9) スマホ規格
 その場で投稿することは、審美をさておき、即時の強みがある。

2.35 劇場映画
 ホールの客席の幅をフォローする。
 臨場感を高める目的では、フレームの両端を見えにくくする形もアリ。

3.0付近
 ファッション・カタログで一般的。
 アルフォンス・ミュシャの『ジスモンダ』は、2.919。

・上記以上
 リボン状の画像は、ヘッダやフッタとして使われる。
 noteのクリエイターページのヘッダは、5.926。


トップ画像:『月を想う』 ⒸJulikis_Seto, 2010
写真・文 瀬戸 裕紀



[マクロレンズの世界 シリーズ目次]
親しむ編
 マクロレンズの世界 vol.1 細部
 マクロレンズの世界 vol.2 集合と配列
 マクロレンズの世界 vol.3 陰影
 マクロレンズの世界 vol.4 光
 マクロレンズの世界 vol.5 ワンダー
 マクロレンズの世界 vol.6 アーティファクト
 マクロレンズの世界 vol.7 色
 マクロレンズの世界 vol.8 アート
 マクロレンズの世界 vol.9 アーカイブ
 マクロレンズの世界 vol.10 トリミング
学ぶ編
 マクロレンズの世界 vol.11 視覚認識(1/2)基礎 -視覚認識の3段階
 マクロレンズの世界 vol.11 視覚認識(2/2)個人差
 マクロレンズの世界 vol.12 作画工程(1/3)基礎 -アートの通学路
 マクロレンズの世界 vol.12 作画工程(2/3)マクロ撮影
 マクロレンズの世界 vol.12 作画工程(3/3)レタッチ
 マクロレンズの世界 vol.13 作例(1)覗くように
 マクロレンズの世界 vol.13 作例(2)抽象