【小説】8月某日の夢 第1話
<あらすじ>
高校生になり遠くの街へ引っ越した高坂夏芽は、疎遠になってしまった親友の伊勢田紬貴に自分の思いを伝えられなかったことを今でも後悔していた。
8月も近づき、紬貴との出会いを思い返す夏芽。帰りの電車の中で紬貴の通う高校の文化祭に行こうか迷うも、疲れていた夏芽は結論を出す前に寝てしまった。
聞き覚えのある声に目を覚ました夏芽。
目の前にいたのは、中学生の頃の紬貴だった。
場所は中学校の教室。時間は夕暮れ時。
間違いない、夏芽は紬貴と出会った日に戻っていた。
今年から、晴れて私は高校生になった。
第1志望の高校に見事合格。少し遠くの町の、駅前の住宅街に引っ越した。
駅から電車に乗って約10分。桜の咲き誇る道を歩いて、数年前に開校したばかりだという新しい校舎を目に焼き付けた。初めての環境に緊張して、ついついお母さんの後ろにピッタリとくっついた入学式は、今でもよく覚えている。
周りは全員知らない人。緊張の糸が張り詰めるなか、勇気を出してたくさんの人に声をかけた。私と同じ趣味の人、私も知らない世界をたくさん知っている人、いろいろな人に出会った。
その時の努力が身を結び、今の私にはたくさんの友達がいる。
だから、今の生活にこれといった不満はない。
高校の授業は難しいけれど、友達と学食でご飯を食べたり、帰りにカラオケで歌ったりして……今までとは一味違う生活がとても楽しい。
高校生になってから、より一層自分らしく過ごせている。そんな気がするほど、今の毎日はとても充実している。
だけど、それでも時々こんなことを思う。
「あーあ、”あの日”に戻れたら良いのになぁ……」
今は夏の駆け出し。とはいえ、すでに暑い。
そして、そろそろ文化祭の準備も活発的になってくる頃。委員会での仕事も増えてきたし、部活が終わる時間も遅くなってきた。
今日も、夕暮れの日が沈む頃に帰りの電車に乗り込んだ。
「あー……今日も疲れた〜」
全く文化部もラクじゃない。
ずっと憧れだった軽音部に入ったけど、ひっきりなしの練習を通しても上達しなくて、悔しい。1オクターブ上のキーボードに指が伸びていかない。滑舌良く、大きな声で歌うことができない。
中学校の頃と同じく、美術部に入った方が良かったのかな。
私は何気なくスマホの画面をタップした。すると、画面に現れたのはSNSからの大量の通知。
どうやら中学校の頃の同級生たちが、早くも自分の文化祭の宣伝をしているようだった。
『今年は、7月27日から文化祭やりま〜す。誰か来てー』
『これから練習なのに、楽譜無くしてワロタ』
『ごめん。その楽譜、俺が持ってる』
『いや、なんで持ってるんだよw』
『演劇の台本と間違えてたわww』
『草』
『私の学校は、8月24日に一般公開です。』
『俺んとこは、8月1日から』
『文化祭のアーチ制作中……』
『どの高校も、楽しみにしてる〜!!』
『みんなの文化祭、行きたかった〜!でも、僕の高校も27日からなんだよね……』
ちなみに、私は8月26日から。学校によって開催日はかなりバラバラだ。
…………確か8月1日は、紬貴くんの高校も文化祭だったはず。
どうしよう、行こうかな。ちょうど夏休みだし、部活も文化祭の準備もないはず。少し遠いけど、電車に乗れば良いし……
私は迷ってしまった。
伊勢田紬貴。
彼は、中学生の時に出会って仲良くなった大親友。
……いや、大親友、なんて呼んで良いのかな。
出会ったのも、ちょうど夏の初めだった。紬貴くんの方から声をかけてきて、緊張したけどたくさん話してみたら、思いの外気が合った。
あの頃は楽しかったし、本当に幸せだった。
たった半年にも満たないわずかな時間だったけど。
本当に。本当に幸せだった。
私は、今でも彼とは友達だと思っていたい。
でも、実際はどうなんだろう。
紬貴くんは、今でも私のことを友達だと思ってくれているのだろうか。
あんなに酷いことをした私を。あんなに酷いことを言った私を。
あれからほとんど口も聞かなくなってしまった私を。
私はずっとあの時のことを後悔していた。
そして、自分の思いを最後まで言えずに、中学校を卒業してしまったことも。
もし、今たった1つだけ願いが叶うなら。
”あの日”に戻りたい。
彼と出会った、あの夏に戻りたい。
もう1回、やり直したい。
もし”あの日”に戻れるなら、彼ともっと話したい。ずっと一緒にいたい。
やり直せなかったとしても、あの日の幸せにもう1回出会えるのなら、それで構わない。構わないから、
あの日に戻りたい。あの幸せだった夏に帰りたい。
そんなことを考え始めてから、だいぶ時間が経った気がした。
だけど、実際はほんの数分。私が降りる駅までは、あと2駅。
この各駅停車の電車では、2駅はあっという間。それは分かっていた。
だけど、ふいに私は眠くなってきてしまった。きっと日々の高校生活や部活の疲れが出たんだろう。
でも、寝たら駄目。乗り過ごすかもしれないから起きていよう。
そう思ったものの、気がついた時、私は目を閉じてしまっていた。
「………………高坂さん?」
第2話
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