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「Solaria 第十二話|それでも、歌う理由」

 

「Solaria 第一話|はじまりの坂」(前編)
「Solaria 第一話|はじまりの坂」(後編)
「Solaria 第二話|衝突の先にある光」
「Solaria 特別編 |坂の上の学園」
「Solaria 第三話|バラバラのリズム」
「Solaria 第四話|届かない声」
「Solaria 第五話|ひとつのステップ」
「Solaria 第六話|スプリングフェスティバル」
「Solaria 第七話|広がる波紋」
「Solaria 第八話|名前を持つということ」
「Solaria 第九話|さくら覚醒(前編)」
「Solaria 第十話|さくら覚醒(後編)」
「Solaria 第十一話|知らなかった事実」
「Solaria|メンバー紹介」
「Solaria 星ヶ丘学園 学校案内」

夕方。

ダンス練習室。

音楽が止まる。

「——はい、今日はここまで」

あかりの声。

全員が、ふっと力を抜く。

「お疲れさま」

ゆいがタオルを配る。

「学園祭まで、あと3日か」

しおりが窓の外を見る。

校内は、少しずつ浮き足立っていた。

ポスター。

準備の音。

笑い声。

その中で。

Solariaも、確実に仕上がりに近づいていた。

——ただ一人を除いて。

ひなた。

タオルを持ったまま、動かない。

(どうする……)

あの日の話。

頭から離れない。

(伝えるべき?)

さくらの姿を見る。

笑っている。

でも。

(もし知ったら——)

その笑顔が、壊れるかもしれない。

「ひなた?」

ゆいの声。

「……大丈夫?」

「え?」

「顔、ちょっと固いよ」

やさしい指摘。

ひなたは、少しだけ笑う。

「なんでもない!」

でも。

ゆいは気づいている。

何かを抱えていること。

ただ。

今は、聞かない。


夜。

屋上。

風が強い。

街の灯りが、遠くに広がる。

ひなたは、一人で立っていた。

(どうするのが正解なんだろ)

答えは、出ない。

ただ。

一つだけ、はっきりしていることがある。

(さくらは……)

ここまで来た。

怖さを越えて。

自分の声を見つけて。

ここに立っている。

その事実。

それが、すべてだった。

「……ひなた先輩」

声。

振り向く。

さくら。

少し息を切らしている。

「探したよ」

「え、なんで?」

「なんとなく」

少し笑う。

「ここかなって思って」

ひなたも、笑う。

やっぱり、この場所。

「……ねえ」

さくらが、フェンスにもたれる。

 

「学園祭、緊張するね」

「するねー!」

ひなたが大げさに言う。

でも。

そのあと、少しだけ静かになる。

「でもさ」

ひなたが、空を見る。

「楽しみでもある」

さくらが、うなずく。

「うん」

「だって」

ひなたが振り返る。

「今のさくらなら、大丈夫でしょ」

その言葉。

さくらの目が、少しだけ揺れる。

「……どうして?」

「え?」

「なんで、そう思うの?」

少しだけ、真剣な声。

ひなたは、一瞬だけ言葉に詰まる。

(言う……?)

頭をよぎる。

あの真実。

でも——

ひなたは、ゆっくり首を振る。

「……だってさ」

笑う。

「ちゃんと、届いてるから」

「え?」

「さくらの歌」

「ちゃんと、人に届いてる」

さくらの呼吸が、少し止まる。

「それってさ」

「すごいことじゃん」

ひなたの目は、まっすぐだった。

「だから」

「もう、それでいいんだよ」

その言葉は。

優しくて。

でも。

強かった。

さくらは、ゆっくり目を閉じる。

思い出す。

あの日の声。

怖かった言葉。

でも。

今は。

(届いてる……)

それだけで。

少し、救われる。

「……うん」

小さく、頷く。

そして。

目を開ける。

「私、歌うよ」

「学園祭で」

「ちゃんと」

ひなたが、笑う。

「うん」

その瞬間。

風が、強く吹く。

まるで。

背中を押すみたいに。


学園祭前日

ダンス練習室。

「最終確認、いくわよ」

しおりの声。

 

全員が並ぶ。

空気が、引き締まる。

音楽が流れる。

踊る。

歌う。

その中で。

さくらの声は——

もう、迷っていなかった。

ひなたが、それを見る。

(大丈夫)

(もう、言わなくていい)

そう思えた。

真実は、ある。

でも。

それ以上に大事なものが、今ここにある。

「——OK」

あかりが言う。

「いい仕上がり」

珍しく、少しだけ笑う。

「やっと、チームになってきたじゃん」

その一言。

全員の表情が、少しだけ変わる。

誇らしさ。

そして。

覚悟。


夜。

校舎。

静まり返った廊下。

掲示板。

学園祭ステージ出演者一覧。

そこに。

「スクールアイドル部(Solaria)」

その名前が、あった。

 

ひなたは、それを見上げる。

(いよいよだ)


ダンス練習室。

照明は落とされている。

窓の外は、夜。

床に座る5人。

円になるように。

中央には——

1枚の紙。

「Shining Start!」

ゆいが、静かに言う。

「最初に作った曲だね」

少しだけ、笑う。

「……ここまで来たね」

その言葉に、全員が小さく頷く。

しばらく、誰も話さない。

ただ、歌詞を見つめている。

やがて。

「これ」

ひなたが指を差す。

『坂道を駆け上がれば
広がる青い未来』

「ここ、好きなんだよね」

少し照れながら笑う。

「なんかさ」

「ほんとにそうだったなって」

「ここまで来るの、大変だったけど」

「ちゃんと上がってきた感じ」

その言葉に。

しおりが、静かに口を開く。

「私は、ここね」

『ひとりじゃ見えない景色
君となら見えるから』

目を伏せる。

「……正直」

「最初は、全部疑ってた」

「スクールアイドルも」

「ひなたのことも」

少し間。

「でも今は」

顔を上げる。

「見えてる」

「一人じゃ、絶対見えなかった景色」

静かな言葉。

でも、確かだった。

ゆいが、そっと続く。

「私は……ここかな」

『笑い合ったこの時間
全部宝物』

やさしく微笑む。

「たぶん」

「これからもずっと、そう思う」

「この時間があったから」

「音楽、続けててよかったって」

言葉の奥にある重み。

誰も、軽く受け取らない。

あかりが、腕を組んだまま言う。

「……私はここ」

『まだ知らない明日へ
走り出そう』

少しだけ笑う。

「“知らない”ってさ」

「ちょっと怖いじゃん」

「でも」

「それ以上に、ワクワクする」

視線を上げる。

「ここに来て、そう思えるようになった」

その言葉は。

あかりにとって、大きな変化だった。

そして。

最後に。

さくら。

少しだけ、迷う。

でも。

ゆっくりと指を置く。

『重なる声 空に届け』

声が、小さく震える。

「……私」

「前まで」

「“届ける”なんて、思えなかった」

少しだけ、笑う。

「出すだけで、精一杯で」

「怖くて」

「でも、今は」

顔を上げる。

「届けたいって思う」

その言葉に。

ひなたが、強く頷く。

「届くよ」

即答だった。

「絶対、届く」

全員が、さくらを見る。

さくらは、少しだけ照れて。

でも、しっかりと頷いた。

そして。

ひなたが、最後に言う。

「じゃあさ」

歌詞の一番下を指す。

『夢はここから
はじまるんだよ!』

「これ、明日だね」

全員の空気が、変わる。

静かだった空気が。

一気に、熱を帯びる。

「……うん」

「そうだね」

「いよいよだ」

立ち上がる、ひなた。

手を差し出す。

 

「いこう」

一人ずつ、手を重ねる。

しおり。

ゆい。

さくら。

あかり。

最後に。

ひなた。

 

「Solaria——」

全員で。

「いくよ!」

声が重なる。

その瞬間。

5人の想いが、ひとつになった。

第十二話 それでも、歌う理由 (終)

▶ Solaria 第十三話|
― 光のステージ ― へ続く


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