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【病院幹部のための診療報酬改定完全解説】病院経営の未来を読む 第22回

第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている


病院が本当に危なくなるのは、「赤字になった日」ではありません。

事業再生の相談を受けるたびに、私は同じことを感じます。

「もっと早く相談していただければ、打てる手はもっとありました。」

経営者は何もしてこなかったわけではありません。 診療報酬改定に対応し、人材確保に奔走し、金融機関とも向き合ってきたはずです。

それでも、相談に来られる頃には選択肢が限られている。

なぜか。

それは、病院経営には

「数字が悪くなってから現れる問題」と
「数字が悪くなる前から始まっている問題」

の二種類があるからです。

そして、事業再生の現場で多いのは後者です。

決算書で赤字が確定したときには、 実は数年前から危険信号が静かに出ていた。

そのケースを何度も見てきました。

「利益」は最後に悪くなる数字

経営会議で最も注目されるのは利益です。

しかし、利益は 経営の“結果” であって、 “事件”が起きるのはもっと前です。

紹介患者が少しずつ減っている。 病床回転率が落ちている。 看護師の退職が増えている。 時間外勤務が増えている。

こうした小さな変化が積み重なり、 数年後に利益として表面化します。

だから私は、利益より先に「前兆」を探します。

私が最初に探す「五つの危険信号」

事業再生の現場では、必ず確認する数字があります。

そしてこの五つは、 病院が崩れていく順番 でもあります。

① 紹介患者数の減少(最初のサイン)

紹介は急には止まりません。 静かに減ります。

紹介患者が減る病院は、 地域からの信頼が少しずつ低下している可能性があります。

ここに気付けるかどうかで、未来は大きく変わります。

② 病床回転率の低下(流れが止まる)

病床稼働率が高くても安心できません。

退院が遅れ、病床が回らなくなると、 新しい患者を受け入れられなくなります。

令和8年度改定が入退院支援や地域連携を重視したのは、 まさにこの「流れ」を改善するためです。

③ 人件費率の上昇(構造が歪む)

人件費率が高いこと自体は問題ではありません。

問題なのは、

人件費の伸びに対して付加価値が増えていない状態 です。

採用した。 しかし回転率は変わらない。 診療報酬も増えない。

この状態は、構造が歪み始めているサインです。

④ キャッシュフローの悪化(病院が止まる)

病院は利益では倒れません。 資金が尽きたときに止まります。

医療機器更新の先送り。 賞与支給後の資金不足。 借入金返済の負担増。

キャッシュフローは、利益よりも早く病院の体力を教えてくれます。

なぜ利益が出ているのにキャッシュがなくなるのか、その詳細は次回お伝えします。

⑤ 現場の空気(数字より早い危険信号)

私は必ず現場を歩きます。

看護部長の表情。 事務長の声のトーン。 医師の会話。 地域連携室の雰囲気。ナースステーションの掲示物が古いまま。挨拶の有無。清掃の行き届き具合。

経営会議では「問題ありません」と言われても、 現場には数字より早く危険信号が出ます。

これは事業再生の現場で身についた感覚です。

令和8年度改定が求めているのは「早く変わる病院」

今回の改定を読み込むほどに感じるのは、

国が評価しているのは、困ってから動く病院ではなく、先に変わる病院だということ。

医療DX。 高齢者救急。 地域包括医療病棟。 入退院支援。 DPC制度。

どの制度にも共通するのは「変化への対応力」です。

改定で求められるスピード感が上がったため、数字が悪くなってからでは、新しい施設基準を満たすための投資や体制変更が間に合わなくなる。

制度が変わってから動く病院ではなく、 制度の方向性を読み、先に準備している病院が評価される。

これは事業再生と同じ構造です。

「まだ黒字だから大丈夫」が一番危ない

事業再生の現場で、私が最も危険だと感じる言葉があります。

「まだ黒字だから大丈夫です。」

黒字は安心材料です。 しかし、その黒字が持続可能かどうかは別の話です。

補助金による黒字。 一時的な診療報酬増による黒字。 設備投資を止めて生まれた黒字。

これらは“本物の黒字”ではありません。

重要なのは、

来年も利益を生み出せる構造になっているか。

ここです。

病院再生とは、未来を取り戻す仕事

事業再生というと、 リストラや縮小のイメージが強いかもしれません。

しかし私はそう考えていません。

事業再生とは、

地域に必要な病院として、もう一度未来を描ける状態をつくること。

そのためには、危険信号を早く見つけ、早く動くことが何より重要です。

最後に──数字は「過去」ではなく「未来」を教えてくれる

紹介患者数の変化。 病床回転率の低下。 人件費率の上昇。 キャッシュフローの悪化。

これらは単なる経営指標ではありません。

病院が発しているメッセージです。

令和8年度改定は、病院に変化を求めています。

その変化に対応できるかどうかは、 制度をどれだけ理解しているかではなく、

自院の数字をどれだけ深く読み解けるか。

病院経営で本当に大切なのは、赤字になってから対策を考えることではありません。

赤字になる前に動くこと。

そして経営とは、未来の患者と職員を守るための意思決定です。

次回予告(第23回)

「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営

決算書では黒字。それでも資金繰りに苦しむ病院は少なくありません。 次回は、利益では見えない「病院経営の本当の体力」を、キャッシュフローという視点から読み解きます。


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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定

「病院選別」シリーズ

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第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由

病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む

第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている
第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営 
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
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第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件


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