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【病院幹部のための診療報酬改定完全解説】病院経営の未来を読む 第26回

第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由


病院には予算書がある。しかし、経営に使える予算はほとんど存在しない。

病院の経営支援に入ると、私はかなり早い段階で予算書を見せていただきます。

立派な資料が出てきます。
医業収益。 人件費。 材料費。 設備投資。 経常利益。
数字はきれいに並んでいます。

では、次にこう聞きます。
「先月、予算と実績はどこがズレましたか。」
ここで話が止まることがあります。

さらに聞きます。
「なぜズレたのでしょうか。」

患者数なのか。 単価なのか。 病床稼働なのか。 人員配置なのか。 手術件数なのか。 材料費なのか。

この質問に答えられない。

私は、ここに病院経営の大きな問題があると感じています。
予算書はある。 しかし、予算経営はしていない。

事業再生の現場では、この違いが数年後の経営を大きく分けます。

多くの病院で「予算」が行事になっている

予算編成は毎年行う。 各部門から数字を集める。 事務部門がまとめる。 理事会で承認する。
ここまでは問題ありません。

問題は、その後です。
4月が終わる。 5月が終わる。 上半期が終わる。
そして年度末が近づく。

そこで初めて、
「今年は利益が厳しそうだ」
という話になる。

では、何のための予算だったのでしょうか。

予算とは、年度末の利益を当てるための資料ではありません。
経営のズレを早く見つけるための道具です。
ここを間違えると、毎年同じ失敗を繰り返します。

「前年比」で経営している病院の危うさ

病院経営では今も「前年実績」が非常に強い。

今年の収益は前年並み。
人件費は前年比3%増。
材料費は前年実績を基準。
設備投資は昨年を参考。

もちろん、前年実績は重要です。
ただし、それだけでは経営になりません。

前年の病床稼働率が低かった。 その数字を基準に予算を作れば、低稼働を前提にした計画になります。

前年の人員配置に無駄があった。 その人件費を基準にすれば、非効率まで翌年へ引き継ぎます。

前年の赤字診療科を放置した。 その実績を横に伸ばせば、赤字構造まで予算化してしまう。

つまり、
前年実績を基準にするだけでは、過去の問題を翌年へコピーすることがある。

私はここが怖いと思っています。

私が見るのは「予算」より「差異」です

外部CFOとして経営を見るとき、重要なのは予算額そのものではありません。
見るのは、予算と実績の差(予実差異)です。

例えば、医業収益が予算より月1,000万円少なかったとします。
問題は、「1,000万円足りませんでした」ではありません。

なぜ足りなかったのか。ここを分解します。

入院患者数が少なかったのか。
一人当たり単価が低かったのか。
病床が回らなかったのか。
手術件数が減ったのか。
救急受入が落ちたのか。
紹介患者が減ったのか。

分解した結果、例えば、
単価が下がった原因が、実はDPCのコーディング漏れだった
紹介が減った原因が、近隣クリニックへの挨拶回りの不足だった
とか。

同じ1,000万円の未達でも、原因によって打ち手はまったく違います。
だから私は、単純な予算実績比較だけでは足りないと考えています。

数字の差を、現場の行動まで落とす。
そこまでやって初めて、予算は経営の道具になります。

年間予算だけでは、もう遅い

年度予算を一度作り、そのまま一年間使い続ける病院は少なくありません。

しかし、現実は予算通りに進みません。

医師が退職する。
看護師が採れない。
病棟を一部閉鎖する。
救急搬送が減る。
材料費が上がる。
診療報酬が変わる。
予想外の設備更新が起きる。

それでも4月に作った予算を翌年3月まで使い続ける。
私は、これには無理があると思っています。

必要なのは、フォーキャスト(最新情報で作る着地予測)です。

9月時点で、
「このまま行けば年度末はどうなるか」
を予測する。
10月以降の感染症流行予測や、冬場の救急増加をどうフォーキャストに織り込むかもポイントになります。

利益はいくらか。
現金はいくら残るか。
賞与は払えるか。
設備投資は可能か。
借入返済に無理はないか。

予算は4月の約束。
フォーキャストは今日の現実。

経営者が見るべきなのは、両方です。

フォーキャストの作成は事務部門の負担増を懸念する声もあるかもしれません。ITツールや既存の医事会計システムのデータをどう活用すれば、手作業を増やさずに済むかも検討が必要です。
まずは主要な3項目(収益・人件費・材料費)だけでも毎月更新する、といった、スモールスタートから始めるのもいいでしょう。

赤字になってから会議を開いても遅い

事業再生で難しいのは、赤字そのものではありません。
時間を失っていることです。

4月から収益未達。 5月も未達。 6月も未達。
しかし、「もう少し様子を見よう」となる。

上半期が終わる。
ようやく対策会議を開く。
そこから原因分析を始める。

これでは、すでに半年を失っています。

病院は、明日から人員を半分にはできません。
病棟機能もすぐには変えられない。
医師採用には時間がかかる。
地域連携も一月では変わりません。

だから早期発見が重要です。
本当に必要なのは、「このまま行くと何が起きるか」を議論する会議です。

予算は現場を縛るものではない

「病院は一般企業ではない」
「患者数は予測できない」
「医療を数字で管理すべきではない」

その通りだと思う部分もあります。

医療には不確実性があります。 地域医療には採算だけで判断できない役割もある。

私は、赤字部門をすべて切ればいいとは考えていません。
むしろ逆です。

地域に必要な不採算部門を守るためにこそ、予算管理が必要です。

救急を維持したい。
小児医療を守りたい。
不採算地域でも医療を続けたい。

ならば、その赤字をどこで支えるのか。
いくらまでなら支えられるのか。
何年間続けられるのか。

そこを数字で考えなければ、最後は病院全体が弱ります。

予算とは、医療を縛る道具ではありません。
守るべき医療を守るための道具です。

私が事業再生で変えるのは「会議」です

病院再生というと、

人員削減。
病棟再編。
不採算部門の整理。
借入金の見直し。

こうした施策を想像されるかもしれません。
もちろん必要な場合もあります。

ただ、私がかなり重視するのは経営会議の変え方です。

分厚い資料を読む会議。 各部門が報告する会議。 「頑張ります」で終わる会議。

これでは経営は変わりません。

必要なのは、
どこがズレたか。
なぜズレたか。
誰が動くか。
いつまでに動くか。
来月どう確認するか。

ここまで決める会議です。
数字を見るだけでは足りない。 数字から行動を変える。

この仕組みが必要です。

最後に──予算がない病院は「未来」がない

病院に予算書がないことより危険なのは、
予算書はあるのに、経営判断に使われていないことです。

毎年、同じように予算を作る。 毎年、同じように未達になる。 毎年、年度末に原因を説明する。 そして翌年、また同じ予算を作る。

これでは病院は変わりません。

経営が悪化する病院には、突然何かが起きるわけではありません。

小さな未達。
小さな人件費超過。
小さな患者減。
小さな資金流出。

それを見過ごした結果、数年後に大きな問題になります。

予算とは未来を当てるものではありません。
未来が外れ始めた瞬間に気づくためのものです。

そして、そのズレを早く修正する。
私は、それが経営だと思っています。

必要なのは、数字を経営判断へ変える仕組みです。

病院経営に本当に必要なのは、精緻な予算書ではありません。
毎月、未来を修正できる経営体制です。

その仕組みを持つ病院と持たない病院。
これから数年、その差は想像以上に大きくなるのではないか。

私はそう見ています。

次回 第27回「その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由」



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