【病院幹部のための診療報酬改定完全解説】病院経営の未来を読む 第24回
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
「先生、この病院の一番の問題はどこだと思いますか。」
病院の経営相談を受けると、私は最初の面談でよくこの質問をします。
返ってくる答えはさまざまです。
「看護師が採れない。」 「診療報酬が厳しくなった。」 「物価高で利益が出ない。」
どれも間違いではありません。
しかし、事業再生の現場で私が感じてきた本当の問題は、少し違います。
決算書を経営の道具として使えていないこと。
これが、最も大きな課題であるケースが少なくありません。
院長先生が会計士になる必要はありません。 しかし、決算書を読めないまま病院経営を続けることは、計器を見ずに飛行機を操縦するようなものです。
令和8年度診療報酬改定では、DX、人材確保、地域包括医療など、多くの対応が求められています。
そのすべてに共通するのは、
「経営判断の質」が問われる時代になった
ということです。
私は利益より先に見る数字があります
病院の決算書を渡されると、多くの人は損益計算書を開きます。
「今年はいくら利益が出たか。」 「前年より改善したか。」
もちろん重要です。
しかし、私はそこから入りません。
最初に見るのは 貸借対照表 です。
現預金はいくらあるのか。 借入金はいくら残っているのか。 純資産は増えているのか。 資産と負債のバランスはどう変化しているのか。
損益計算書は「今年の成績」。 貸借対照表は「未来の体力」。
病院経営は一年で終わる事業ではありません。 十年、二十年と地域医療を支える事業です。
だから私は、「今年いくら利益が出たか」より、
「五年後も経営を続けられる体力があるか」
を見ます。
「黒字だから安心」は、一番危ない
事業再生を依頼される病院の中には、決算書上は黒字というケースがあります。
しかし、その中身を見ると事情が違います。
設備更新を先送りした結果の黒字。 補助金収入で黒字。 退職者の補充を見送ったことで人件費が下がっている黒字。
これらは、本来の経営改善とは言えません。
いわば、
「未来の投資」を削って生み出した利益 です。
数年後には、医療機器の更新、採用難、人材不足という形で必ず跳ね返ってきます。
利益だけを見ていると、その変化に気付けません。
銀行が見ている数字は、院長が見ている数字と違う
融資の相談をするとき、銀行は何を見ているでしょうか。
利益でしょうか。 もちろん利益も見ます。
しかし、それ以上に重視しているのは、
「返済できるかどうか」。
毎月、安定して返済できる現金を生み出しているか。 設備投資をしても資金繰りは維持できるか。 借入金が過大になっていないか。
銀行は「病院の未来」を見ています。
院長先生が利益だけを見ている一方で、銀行は資金の流れを見ている。
この視点の違いを理解することは、とても重要です。
決算書は「通知表」ではない
私は決算書を「通知表」と考えたことはありません。
「今年は80点だった。」 「去年より5点上がった。」
そんな見方では、経営は変わりません。
決算書は、病院の未来を考えるための設計図です。
現預金が減っている。 なぜか。
借入金が増えている。 なぜか。
未収金が増えている。 なぜか。
この「なぜ」を考えることで、初めて経営改善の方向性が見えてきます。
数字は結果です。 しかし、その背景には必ず経営判断があります。
良い病院ほど「数字に強い現場」を作っている
最近、経営が安定している病院に共通する特徴があります。
院長だけが数字を見ているのではありません。
事務長。 看護部長。 リハビリ部門。 地域連携室。
それぞれが、自分たちの数字を理解しています。
病床回転率。 平均在院日数。 紹介患者数。 退院支援件数。
こうした数字を共有し、「なぜ変化したのか」を現場で話し合っています。
数字は経営者だけのものではありません。 組織全体の共通言語になったとき、病院は大きく変わります。
全体像(財務会計)を把握した次は、どこで利益が出ているかの内訳(管理会計)を知ることが武器にります。
「勘と経験」は今でも大切です
私は、経営は数字だけで決まるとは思っていません。
地域との信頼関係。 職員との対話。 患者さんの声。
こうしたものは数字では測れません。
しかし、数字がなければ、勘や経験が正しかったかどうかを検証することもできません。
勘と経験。 そして数字。
その両方がそろって初めて、質の高い経営判断ができます。
令和8年度改定は「数字を読める病院」を選ぶ時代の始まり
今回の診療報酬改定を通して感じるのは、病院経営はますます複雑になっているということです。
DPC制度。 医療DX。 地域包括医療病棟。 高齢者救急。 賃上げ対応。
どれも一つの制度変更ではありません。 経営判断そのものです。
だからこそ、院長には診療だけでなく、経営の数字を読む力が求められます。
賃上げ対応には人件費率の推移、DX投資には当期利益と減価償却費。
もちろん、一人ですべてを担う必要はありません。
大切なのは、
数字を理解し、それを経営判断につなげられる体制を作ること。
最後に──病院を守るのは「診療報酬」ではなく「経営判断」
私はこれまで、数多くの病院再生に携わってきました。
その中で感じることがあります。
経営が厳しくなる病院は、決算書が悪いから苦しくなるのではありません。
決算書から発せられているサインを見逃してしまうから苦しくなる。
経営とは、未来を選ぶ仕事です。
決算書は過去をまとめた資料ではありません。 これから先、何を選ぶべきかを教えてくれる資料です。
令和8年度診療報酬改定は、病院に多くの変化を求めています。
しかし、本当に重要なのは制度への対応ではありません。
制度を踏まえたうえで、数字を読み、経営判断を変えられるかどうかです。
これからの病院経営で求められるのは、「診療報酬を知っている院長」ではありません。
決算書を読み、未来を判断できる院長。
まずは直近3年分の貸借対照表を並べて、現預金の推移を見ることから始めてください。
その力が、10年後、20年後も地域に必要とされる病院をつくるのだと、私は考えています。
次回予告(第24回)
「院長が知らない『管理会計』の威力──病院経営は部門別採算で変わる」
決算書は病院全体の成績を示します。しかし、本当に経営を変えるのは「病棟別」「診療科別」「部門別」の数字です。次回は、私が病院改革で最も重視している「管理会計」の考え方を、実践的な視点から解説します。
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