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【病院幹部のための令和8年度診療報酬改定「病院選別」シリーズ】第1回

第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い

2026/6/26リライト

令和8年度診療報酬改定から数か月。 院長先生や事務長のお話を聞いていると、改定直後とは明らかに違う空気を感じます。

当初は「どの加算が変わったのか」「施設基準をどう取るか」といった“点数の話”が中心でした。しかし、最近はもっと生々しい声が聞こえてきます。

「思ったほど収益が伸びていない」 「救急は増えたのに利益につながらない」 「人件費の上昇を吸収できない」

一方で、同じ地域でも「今回の改定は追い風になった」と語る病院もある。 この差はどこから生まれたのか。現場を歩くほど、その“温度差”がはっきりしてきました。

■「勝ち組病院」は“加算を多く取った病院”ではない

誤解されがちですが、今回の改定で成果を上げた病院は、加算を“たくさん取った”病院ではありません。

実際に訪問した病院の中で、明らかに手応えを感じているところには、次のような共通点があります。

  • 高齢者救急を積極的に受け入れている → ある中規模病院では、75歳以上の救急搬送受入数が前年比18%増。それに伴い地域連携加算の算定件数も伸びていました。

  • 地域包括ケア病棟・回復期病棟など、自院の役割が明確 → 「うちは急性期の“出口”を担う」と明言し、在宅復帰率を月次で追っている病院は強い。

  • 医療DXを“導入”ではなく“業務改善”につなげている → 看護記録の入力時間が1人あたり平均17分短縮された例も。

  • 入退院支援・地域連携が機能している → 入院前情報の取得率が90%を超える病院は、平均在院日数が確実に短い。

つまり、「施設基準を満たすこと」が目的ではなく、「制度が評価したい医療」を実践している病院が勝ち残っているのです。

■「淘汰される病院」の共通点

逆に、経営が苦しくなっている病院にも、はっきりとした共通点があります。

  • 急性期を名乗っているが救急実績が伸びない

  • 病床はあるが看護師不足で稼働できない

  • 地域との役割分担が曖昧

  • 入退院支援が弱く、平均在院日数が延びている

  • DPCデータを経営に活かせていない

どれも単体では致命傷ではありません。 しかし、複数が重なると“改定の恩恵を受けにくい構造”が完成してしまう

実際、ある病院では救急搬送受入数が前年比▲12%、平均在院日数が+0.8日。 この2つだけで年間数千万円規模の差が生まれます。

■現場で感じた「勝ち組・負け組」を分けるチェックリスト

病院を回る中で、「ここは伸びる」「ここは危ない」と直感的に分かれるポイントがあります。 院長・事務長がまず確認すべき項目を、あえてシンプルにまとめるとこうなります。

【病院の“現在地”チェックリスト】

  • 救急搬送の受入率は昨年より上がっているか

  • 地域包括ケア病棟・回復期病棟の役割が職員全体に共有されているか

  • 在宅復帰率・紹介率・逆紹介率を毎月追えているか

  • 入退院支援部門が“形式”ではなく“機能”しているか

  • 看護師の応募数が減っていないか(多くの病院で前年比▲20〜30%)

  • DPCデータを経営会議で活用しているか

  • 医療DXの導入効果を“時間”や“件数”で測れているか

3つ以上「No」がある病院は、今回の改定の波に乗り切れていない可能性があります。

■厚労省が本当に評価したかったこと

改定資料を読み込み、現場の声を聞き、病院を歩いて感じたのは、 今回の改定は“点数の足し引き”ではなく“病院の役割の再定義”だったということです。

評価の軸は一貫しています。

  • 高齢者救急への対応

  • 地域包括ケア病棟の機能強化

  • 回復期リハのアウトカム評価

  • 入退院支援の充実

  • 医療DXの推進

  • データ提出と実績評価の強化

一見バラバラに見えて、実はすべてが 「地域で必要とされる病院を評価する」 という一本の線でつながっています。

■2040年を見据えた改定だった

今回の改定を単年度の制度変更として捉えると、本質を見誤ります。

背景には、2040年に向けた構造変化があります。

  • 生産年齢人口の減少

  • 高齢者人口のピーク

  • 医療従事者不足

  • 医療費の適正化

これらを踏まえれば、 「すべての病院が同じ機能を持つ時代」は終わりつつある

国が求めているのは、 病院ごとの“役割の選択”と“集中”です。

■院長が今すぐ確認すべき3つのこと

改定後の今だからこそ、院長が確認すべきポイントは次の3つに尽きます。

  1. 自院は地域からどのような患者を求められているのか

  2. 評価される実績(救急、在宅復帰、地域連携など)が数字として出ているか

  3. 人材不足を前提とした運営体制へ転換できているか

この3つが揃っている病院は、改定の波を追い風にできます。

■最後に──“次の10年”を見据えた病院だけが生き残る

令和8年度診療報酬改定は、単なる点数表の変更ではありませんでした。 私自身、現場を歩くほど「病院の存在意義そのものを問い直す改定だった」と感じています。

勝ち組と呼ばれる病院は、特別な設備や規模を持つわけではありません。 政策の方向性を読み、自院の役割を明確にし、実績を積み上げている病院です。

逆に、これまでの成功体験に頼り続ける病院は、人口構造の変化とともに確実に苦しくなる。

診療報酬改定は2年ごとに行われますが、政策の流れは10年単位で動いています。 院長・理事長に求められるのは、 「次の改定への対応」ではなく、「次の10年に地域から必要とされる病院像」を描くことです。

その視点で今回の改定を読み直すと、 令和8年度改定は“勝ち組を決めた改定”ではなく、 「これから評価され続ける病院の条件」を示した改定だったのではないでしょうか。


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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定

「病院選別」シリーズ

第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由

病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む

第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている
第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営 
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件


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