【病院幹部のための令和8年度診療報酬改定「病院選別」シリーズ】第12回
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
2026/6/24リライト
令和8年度診療報酬改定が終わり、各病院が改定対応に追われています。
賃上げ。
医療DX。
高齢者救急。
DPC改定。
地域包括医療病棟。
話題は多いものの、私が最も強い危機感を覚えているのは、
地域包括ケア病棟の立ち位置が静かに変わり始めている
という点です。
点数が下がったわけではありません。
制度が廃止されたわけでもありません。
しかし、
地域包括医療病棟の創設
高齢者救急の重視
急性期後医療の評価強化
地域医療係数の見直し
DPC標準病院群1の要件強化
これらが複合すると、
地域包括ケア病棟を取り巻く環境は確実に変わった
と言わざるを得ません。
私はここに、
病棟の“選別”の始まり
を感じています。
■地域包括ケア病棟は「成功モデル」だった
地域包括ケア病棟は制度創設以来、全国で急速に拡大しました。
2014年頃:約3万床
2023年頃:約9万床
約3倍です。
急性期病床再編の受け皿として、多くの病院が転換を進めました。
実際、
稼働率は高い
在宅復帰率も安定
経営的にも安定しやすい
という“成功モデル”でした。
しかし制度が成熟した今、
「病棟を持っているだけでは評価されない時代」
に入りつつあります。
■地域包括医療病棟という“新しい競争相手”
今回の改定で最も大きな変化は、
地域包括医療病棟の創設です。
地域包括医療病棟は、
高齢者救急
ポストアキュート
急性期後医療
在宅復帰支援
を担う病棟として位置付けられています。
つまり、
従来の地域包括ケア病棟が担っていた患者層の一部を、
地域包括医療病棟も受け持つ構造
になりました。
これにより、
「地域包括ケア病棟を持っている」
だけでは差別化にならない
という時代に突入しています。
■病棟名ではなく“機能”が評価される時代へ
今回の改定で明確になったのは、
病棟名ではなく、病棟が果たしている“機能”が評価される
ということです。
評価されるのは、
救急患者を受けているか
高齢者救急を受け止められるか
在宅復帰を支援しているか
地域連携が機能しているか
急性期後医療を担えているか
病棟転換だけで評価される時代は終わりました。
■データを見ると“病棟格差”はすでに拡大している
地域包括ケア病棟は同じ名称でも、実態は大きく異なります。
●病床稼働率
高い病院:90〜95%
低い病院:70%台
●在宅復帰率
高い病院:80%超
低い病院:60%台
●紹介患者割合
高い病院:30〜40%
低い病院:10%台
●救急受入
高い病院:年間1000件超
低い病院:年間300件未満
以前は「病棟転換すれば成果が出る」時代でした。
しかし今は、
病棟の“運営力”そのものが問われる時代
に変わっています。
■高齢者救急との接続が“生命線”になる
令和8年度改定の共通テーマは、
高齢者救急です。
救急搬送の6〜7割は高齢者。
肺炎、心不全、尿路感染症、骨折──
こうした患者の受け皿として、地域包括ケア病棟の役割は大きい。
実際、
高齢者救急を受ける病院ほど、
地域包括ケア病棟の稼働が安定している
というデータが出ています。
■そしてここが最も重要──
高齢者救急を受けられない病院は、急性期評価を維持できなくなる
今回の改定では、
DPC標準病院群1
地域医療係数
急性期総合体制加算
地域包括医療病棟
救急搬送実績
がすべてつながっています。
つまり、
高齢者救急を受けられない病院は、
急性期評価の維持が難しくなる構造
が明確に組み込まれています。
これは地域包括ケア病棟にも直結します。
なぜなら、
救急 → 地域包括ケア
救急 → 地域包括医療病棟
救急 → 在宅
という導線が評価される時代だからです。
■危険なのは「なんとなく運営している地域包括ケア病棟」
最も危険なのは、
「地域包括ケア病棟に転換したから大丈夫」
という病院です。
本来問われるべきは、
誰を受けるのか
どこから受けるのか
どこへ返すのか
救急とどうつなぐのか
在宅とどうつなぐのか
これが明確でない地域包括ケア病棟は、
今後確実に苦しくなります。
■DPC改定とも完全につながっている
今回のDPC改定は、
急性期機能の明確化を強く求めています。
救急
手術
急性期後医療
地域連携
これらが評価の中心です。
一方で地域包括ケア病棟にも、
地域での役割明確化が求められています。
つまり、
急性期も包括期も、
“曖昧な病院”が最も厳しくなる
という構造です。
■最後に──地域包括ケア病棟の価値は「病床数」ではなく「機能」で決まる
令和8年度改定で地域包括ケア病棟の点数が大きく変わったわけではありません。
しかし私は、
地域包括ケア病棟を取り巻く競争環境は大きく変わった
と感じています。
地域包括医療病棟の創設
高齢者救急の増加
地域連携の重要性向上
DPC標準病院群1の要件強化
これらによって、
病棟を持つ価値 → 病棟を機能させる価値
へと評価軸が完全に移りました。
数年後に振り返ったとき、
地域包括ケア病棟の成否を分けたのは病床数ではなく、
「高齢者救急・在宅復帰・地域連携をどこまで一体運営できたか」
だったのかもしれません。
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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定
「病院選別」シリーズ
第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
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第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
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第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
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