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【病院幹部のための令和8年度診療報酬改定「病院選別」シリーズ】第9回

第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営

2026/6/24リライト

先日、ある院長先生と話していたとき、こんな言葉が印象に残りました。

「うちはまだ紙カルテが結構残っているけど、何とか回っているよ。」

確かに、その病院は今も回っています。
職員も慣れた手つきで紙を扱い、患者さんから大きな不満が出ているわけでもない。

しかし私は、その言葉を聞きながら別のことを考えていました。

問題は“今、回っているか”ではない。
“3年後も同じように回るのか”である。

令和8年度診療報酬改定を境に、病院経営におけるDXは
「あると便利」から「ないと困る」へ
確実にフェーズが変わりました。

今回の改定は、医療DX加算がどうこうという話ではありません。
もっと深いところで、
紙運営そのものが制度対応・人材確保・経営分析の面で限界を迎えつつある
という現実を突きつけています。


■これは「DX加算の話」ではない

多くの病院が誤解しがちなのは、今回の改定を
「DX加算を取るための改定」
と捉えてしまうことです。

しかし、厚労省が本当に評価したいのはDXそのものではありません。

“DXを前提にした病院運営ができるかどうか”
です。

オンライン資格確認、電子処方箋、電子カルテ情報共有、標準型電子カルテ──
これらは単なる個別施策にすぎません。

本質は、

「データを扱える病院を増やしたい」
「紙では制度運営が立ち行かなくなる」

という国の危機感です。


■紙運営の病院で起きている“見えない損失”

紙運営の病院ほど、損失が見えにくいという特徴があります。

例えば、次のような業務。

  • 会議資料作成

  • 診療データ集計

  • 施設基準管理

  • DPC分析

  • 診療報酬改定対応

  • 監査資料準備

一つひとつは小さな作業です。
しかし積み上がると、事務部門の時間を確実に奪っていきます。

ある事務長はこう話していました。

「月末月初は資料作成だけで数日終わる。」

これは決して珍しい話ではありません。

しかし、もしその時間を
経営改善・地域連携・採用戦略
に使えたらどうでしょうか。

紙運営の病院は、
“見えないコスト”を毎日払い続けている
と言えます。


■DPC改定はDXの必要性を一気に加速させた

今回のDPC改定は象徴的でした。

  • 標準病院群1・2への再編

  • 機能評価係数Ⅱの重要性向上

  • 地域医療係数の見直し

これらに対応するには、
データ分析が必須です。

必要な数字は膨大です。

  • 救急搬送件数

  • 紹介率・逆紹介率

  • 在院日数

  • 診療科別収益

  • 病床稼働率

  • 重症度・医療資源投入量

紙中心の運営では、
データ取得そのものに時間がかかり、改善が後手に回る
という構造的な問題が生まれます。

つまり今回のDPC改定は、
DXを進めた病院ほど有利になる制度設計
になっているのです。


■看護師不足とDXは“同じ問題”である

令和8年度改定を読み解くと、
看護配置、高齢者救急、地域包括医療病棟、回復期リハ──
ほぼすべてのテーマに共通する背景があります。

それは、

人材不足です。

  • 看護師が採用できない

  • 事務職員も集まらない

  • 診療情報管理士も不足する

この状況で、紙中心の運営を続けることは現実的ではありません。

DXはIT投資ではなく、
人材不足対策そのものです。

ここを理解できるかどうかで、
病院の未来は大きく変わります。


■勝ち組病院は「電子カルテ導入」で終わらない

経営が安定している病院を見ると、共通点があります。

電子カルテを入れていることではありません。
それは今や当たり前です。

違うのは、

データを経営に使っているかどうかです。

  • 病床稼働率の予測

  • DPC分析

  • 救急搬送分析

  • 地域連携分析

  • 採用分析

こうした“経営の意思決定”にデータを使っています。

つまり、
DXをシステム導入で終わらせていない
ということです。


■取り残される病院の共通点

一方で、苦戦している病院には明確な共通点があります。

それは、

「今までできていたから大丈夫」

という考え方です。

しかし、

  • 人材不足

  • 制度変更

  • データ提出強化

が進む中で、
“今までのやり方”が通用する時代は終わりつつある
と感じます。

DXの遅れよりも怖いのは、
変化への対応の遅れです。


■厚労省が本当にやりたいこと

今回の改定資料を読み込むと、国が求めているのは

「電子化」ではなく「データに基づく医療提供体制」
であることが分かります。

  • DPC

  • 地域包括医療病棟

  • 医療DX

  • 高齢者救急

すべての改定項目が、
データ活用を前提に設計されています。

紙運営では、この流れに対応できません。


■院長が今すぐ確認すべき3つのこと

私なら、経営会議で次の3つを必ず確認します。

① 紙でしか管理していない業務は何か

まず現状把握。

② DPCデータを経営に使えているか

係数改善のための分析ができているか。

③ 事務職員の時間は何に使われているか

付加価値業務へ移せる余地があるか。

この3つを見直すだけで、
病院の“未来の体力”は大きく変わります。


■最後に──令和8年度改定は「紙運営の限界」を示した改定だった

今回の改定を「DX加算の改定」と捉えると、本質を見誤ります。

令和8年度改定が示したのは、

紙運営では制度対応・人材確保・経営改善が追いつかなくなる未来
です。

  • 人手で補う

  • 紙で管理する

  • 経験で判断する

こうした運営モデルは、確実に限界を迎えつつあります。

もちろん、DXを導入すればすべて解決するわけではありません。
しかし、DXを進めなければ解決できない課題は確実に増えています。

病院経営において重要なのは、

「電子カルテを入れたか」ではなく
「データを経営に活用できる仕組みを持っているか」

です。

数年後に振り返ったとき、令和8年度改定は
“紙運営の限界が明確になった改定”
として語られるのではないでしょうか。



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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定

「病院選別」シリーズ

第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由

病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む

第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている
第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営 
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件



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