【病院幹部のための令和8年度診療報酬改定「病院選別」シリーズ】第2回
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
2026/6/26リライト
令和8年度診療報酬改定で、まず多くの院長・事務長が確認したのは「初診料・再診料はどうなったのか」だったと思います。
基本診療料は、病院経営の“土台”です。 だからこそ、改定直後は、
「初診料が上がるなら、少しは楽になるのでは」 「再診料の見直しは追い風になるかもしれない」
そんな期待が、現場に確かにありました。
しかし、改定から数か月。 病院を回っていると、むしろ逆の声を聞くことが増えています。
「確かに基本診療料は上がった。でも経営は前より厳しい。」
この“違和感”の正体を、現場の数字と空気感から整理してみます。
■基本診療料は「経営改善策」ではなかった
初診料・再診料の引き上げだけを見ると、プラス改定に見えます。 しかし、改定全体を読み込むと、今回の見直しは
「医療提供体制を維持するための最低限の補正」
という性格が強いと感じます。
実際、病院を取り巻くコストは診療報酬とは関係なく上がり続けています。
看護師・コメディカルの賃金上昇(多くの病院で前年比+3〜7%)
医療材料費の高騰
委託費の増加
光熱費の高止まり
医療機器更新費の上昇
ある中規模病院では、 人件費だけで年間1.2億円の増加が発生していました。
初診料・再診料の増収分では、とても吸収しきれません。
■「増収」と「増益」はまったく別物
最近、院長・事務長と話していて最も多い相談がこれです。
「収入は前年並みなのに、利益が残らない。」
理由はシンプルで、 収入の増加よりも、コストの増加の方が大きいからです。
特に深刻なのは人材確保です。
看護師の応募数が前年比▲20〜30%
採用単価は上昇
既存スタッフの待遇改善が必須
ある病院では、看護師の夜勤手当を月1万円引き上げざるを得ず、 年間で約4,000万円のコスト増になっていました。
つまり今回の改定は、
「収入を増やす改定」ではなく「医療提供体制を維持するための改定」
と捉える方が現実に近いのです。
■病院間の格差はむしろ広がった
今回の改定を現場で見ていて強く感じるのは、
“基本診療料だけでは差がつかない時代になった”
ということです。
成果を出している病院は、次の領域で確実に実績を積んでいます。
高齢者救急の受け入れ
地域包括ケア病棟・回復期のアウトカム
入退院支援の強化
地域連携の実績
医療DXによる業務効率化
データ提出・実績評価
逆に、基本診療料だけに依存している病院は、 コスト増の波をまともに受けてしまう。
改定資料を読み込むと、厚労省のメッセージは明確です。
「基本診療料は土台。その上に“病院機能”を積み上げてください」
という方向性です。
■外来の価値が変わり始めた
もう一つ、現場で強く感じる変化があります。
外来は“数”ではなく“役割”で評価される時代になった。
以前は、患者数が多ければ外来収益は安定しました。 しかし今は、
紹介受診
逆紹介
地域連携
かかりつけ機能
外来から入院につながる導線
こうした“質”が重視されるようになっています。
初診料・再診料の見直しも、この流れの中に位置づける必要があります。
■経営者が見るべき数字は変わった
病院経営が安定している病院ほど、 初診料・再診料の数点の増減ではなく、 “診療全体の構造”を見ています。
現場でよく使われている指標を挙げると──
【外来経営のチェックリスト】
外来患者1人あたりの収益
紹介率・逆紹介率
外来から入院につながる割合
外来診療にかかる人件費
地域連携の実績
外来の待ち時間・回転率
医師ごとの外来生産性
これらを毎月追っている病院は、 基本診療料の変動に左右されにくい経営体質になっています。
■「基本診療料が上がったから安心」は最も危険
個人的に、現場で最も危険だと感じるのはこの考え方です。
確かに、基本診療料の見直しは前向きな材料です。 しかし、それだけで経営課題が解決するわけではありません。
人口減少
高齢化
人材不足
物価上昇
医療需要の変化
これらは今後も続きます。
だからこそ、 診療報酬に依存しない経営改善が求められています。
業務効率化
役割分担の明確化
地域連携の強化
DXによる生産性向上
データに基づく経営判断
こうした取り組みを進めている病院ほど、 今回の改定を“追い風”に変えています。
■最後に──今回の改定が静かに示した現実
令和8年度診療報酬改定で初診料・再診料が見直されたことは、 確かに前向きなニュースでした。
しかし、それは病院経営を根本から改善する“特効薬”ではありません。
今回の改定が示したのは、
「基本診療料だけでは病院は支えられない時代に入った」
という静かな現実です。
院長・理事長が見るべきものは、 初診料・再診料の数点の増減ではなく、 その背後にある政策の方向性です。
そして、これからの病院経営で問われるのは、
「どれだけ点数が上がったか」ではなく、 「その診療報酬を生かせる仕組みを持っているか」
です。
数年後に振り返ったとき、 今回の初診料・再診料の見直しは、 単なる点数改定ではなく、
“病院経営の構造転換を促すシグナル”
として記憶されるのかもしれません。
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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定
「病院選別」シリーズ
第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由
病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む
第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている
第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件
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