病院幹部のための令和8年度診療報酬改定慢性期:療養病棟編 第32回
第32回 療養病床の赤字は制度のせいではない──私が最初に見る5つの数字
前回は「療養病床は本当に必要なくなるのか」というテーマで、令和8年度診療報酬改定が示した方向性についてお話ししました。
私の結論は一つです。
問われているのは療養病床の存在ではなく、その役割です。
では、その役割を果たしている病院が、すべて経営的にも安定しているのでしょうか。
残念ながら答えは「いいえ」です。
私はこれまで、療養病床を持つ病院の経営相談を受ける中で、同じ言葉を何度も聞いてきました。
「診療報酬が低いから仕方ない」
「療養病床は利益が出ない」
「慢性期だから赤字は当然だ」
もちろん、診療報酬制度の影響はあります。 物価上昇、人件費の高騰、看護師不足も経営を圧迫しています。
しかし、同じ地域で、同じような病床機能を持ちながら黒字を維持している病院もあります。
この違いは何でしょうか。
私は、制度の違いではなく、数字の見方の違いだと考えています。
■ 病床数ではなく「利益の流れ」を見る
療養病床の経営相談では、最初に病床数を聞かれることがあります。
もちろん病床数は重要です。 しかし、それだけでは経営の実態は分かりません。
100床でも黒字の病院があります。 200床でも資金繰りに苦しむ病院があります。
重要なのは、利益がどのように生まれ、どこで失われているか。
その流れを見ることです。
私は、そのために最初に5つの数字を確認します。
① 病床利用率ではなく「病床回転」
療養病床は病床利用率が高い病院が多くあります。
95%、98%、ほぼ満床。 しかし、それだけでは安心できません。
私が最初に見るのは、病床がどれだけ滞留しているか です。
平均在院日数は各病院でも把握していると思います。
中でも、
・退院支援は機能しているか
・急性期病院から紹介を受け続けているか
・入院期間が必要以上に長くなっていないか
療養病床は「長く入院する病棟」です。
しかし、“動かない病床”と“必要な療養”はまったく別物です。
病床が地域医療の流れの中で機能しているか。 ここを必ず確認します。
② 人件費率ではなく「配置の妥当性」
療養病床では人件費率が高くなる傾向があります。 これは悪いことではありません。 人が患者を支える医療だからです。
問題は、収益に見合った人員配置になっているか。
夜勤体制、介護職配置、リハビリ配置、委託業務、部署ごとの残業。 これらを分析すると、
「忙しい」のではなく、 「配置が最適化されていない」 ケースが少なくありません。
人件費を削ることが目的ではありません。 適正配置を考えることが重要です。
③ 医療区分構成ではなく「地域での役割」
療養病床では医療区分1・2・3の構成が収益へ大きく影響します。
しかし私は、単純に医療区分3を増やそうとは考えません。
重要なのは、その地域で、どの患者を受ける病院なのか。
・急性期病院から医療必要度の高い患者を受ける病院なのか
・在宅療養支援を重視する病院なのか
役割によって、目指す患者構成は変わります。
だから私は、数字だけではなく、 地域との役割を必ずセットで見ます。
④ 利益ではなく「キャッシュフロー」
ここは、多くの病院が見落とします。
決算書では黒字。
それでも資金がない。
設備更新ができない。
借入返済が苦しい。
この原因は、利益ではなく、キャッシュフローにあります。
私は次の項目を必ず確認します。
・現預金残高 ・借入返済予定 ・設備投資計画 ・運転資金の流れ
病院経営では、利益より先に資金が尽きることがあります。
だから、黒字か赤字かより、「あと何か月動けるか」。
こちらの方が重要です。
⑤ 地域から選ばれているか(紹介・逆紹介)
最後は少し変わった数字です。
私は次の数字を見ます。
・急性期病院からの紹介件数
・逆紹介の状況
・介護施設との連携件数
・在宅医療との接点
・地域包括支援センターとの関係
療養病床は、地域から患者が来なくなれば成り立ちません。
逆に、「あの病院なら安心してお願いできる」
と言われる病院は、患者も情報も集まります。
私はこれを、地域から選ばれる力と考えています。
■ 赤字の原因は、一つではありません
療養病床が赤字になったとき、
「診療報酬が低いから」だけで終わる病院があります。
しかし実際には、
・病床回転 ・人件費 ・患者構成 ・資金繰り ・地域連携
複数の原因が重なっています。
だから、一つの対策だけでは改善しません。
ここが、診療報酬対策と事業再生の違いです。
私は数字を一つずつ分解し、 利益構造そのものを見直します。
■ 最後に──数字は病院を責めるためではありません
病院経営では、数字を見ることを嫌がる院長もいます。
「現場は頑張っている」
その通りです。
私は現場を責めるために数字を見るのではありません。
数字は、病院がどこで困っているのかを教えてくれる。
だから見るのです。
療養病床の経営で本当に重要なのは、 診療報酬を嘆くことではありません。
利益構造を理解し、 改善できる数字から変えていくことです。
令和8年度改定以降、療養病床はさらに役割が明確になります。
その中で生き残る病院は、制度を待つ病院ではありません。
数字を読み、経営を変えられる病院です。
■ 次回予告
第33回 2040年、療養病床は地域インフラになる──生き残る病院が選ぶ経営戦略
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