「Solaria 第十三話|光のステージ」

「Solaria 第一話|はじまりの坂」(前編)
「Solaria 第一話|はじまりの坂」(後編)
「Solaria 第二話|衝突の先にある光」
「Solaria 特別編 |坂の上の学園」
「Solaria 第三話|バラバラのリズム」
「Solaria 第四話|届かない声」
「Solaria 第五話|ひとつのステップ」
「Solaria 第六話|スプリングフェスティバル」
「Solaria 第七話|広がる波紋」
「Solaria 第八話|名前を持つということ」
「Solaria 第九話|さくら覚醒(前編)」
「Solaria 第十話|さくら覚醒(後編)」
「Solaria 第十一話|知らなかった事実」
「Solaria 第十二話|それでも、歌う理由」
「Solaria|メンバー紹介」
「Solaria 星ヶ丘学園 学校案内」
ざわめきが、波のように広がっていた。
星ヶ丘学園、大講堂。
満席。
立ち見すら出ている観客席。
舞台の幕の向こうで、5人は並んでいた。
誰も、言葉を発しない。
ただ、呼吸だけが重なる。
「……ここまで来たね」
静かに呟いたのは、ゆいだった。
柔らかい声。
けれど、その奥にある震えを、誰もが感じ取っていた。
「……うん」
さくらが、小さく頷く。
その手は、わずかに震えている。
けれど——
もう、逃げていない。
しおりが、前を見たまま言う。
「失敗は許されないわよ」
その言葉に、空気が張り詰める。
一瞬。
「……でも」
少しだけ、間を置いて。
「成功する必要もない」
ひなたが、目を丸くする。
しおりは続けた。
「やるべきことは一つだけ」
「——今の私たちを、全部出すこと」
静寂。
その言葉が、全員の中に落ちていく。
あかりが、ふっと笑った。
「やっと言ったわね、それ」
ひなたが、笑う。
「いいね、それ。最高じゃん」
ゆいが、そっと言った。
「大丈夫。きっと届くよ」
さくらは、胸に手を当てた。
心臓の音が、はっきりと聞こえる。
でも――
怖くない。
「……歌いたい」
小さく、でも確かに。
その瞬間。
——アナウンスが響く。
「次は——スクールアイドル部」
「Solariaの皆さんです!」
空気が、一瞬で張り詰める。
そのとき。
客席。
少し後ろの席。
一人の男子。
その隣に、女子生徒。
「……来たね」
小さく呟く。
男子は、何も言わない。
ただ。
ステージを、見つめている。
強く。
強く。
舞台袖。
「……いくよ」
ひなたが、手を差し出す。
重なる手。
5人。
「Solaria——
「スタート!」

光。
ステージに飛び出す。
歓声。
一気に、視界が開ける。
(……っ)
さくらの呼吸が、一瞬止まる。
でも。
その瞬間。
——思い出す。
『重なる声 空に届け』
昨日の言葉。
ひなたの声。
(……大丈夫)
一歩、前へ。
音楽が、始まる。
イントロ。
体が、自然に動く。
あかりのターン。
炎のようにスカートが広がる。
ひなたが跳ぶ。
光が、弾ける。
しおりの動きは、寸分の狂いもない。
ゆいの表情が、すべてを包む。
そして——
さくら。
「——!!」
声が、突き抜ける。
天井まで。
その先まで。
『Shining Start!
輝くよ 今この瞬間』
客席が、ざわめく。
♪ 夢はここから――
さくらは、笑っていた。
怖くない。
誰の言葉も、もう――
届かない。
「わたしは、歌う」
「……あの子」
「すごい……」
その声は。
確かに、届いていた。
男子の目が、見開かれる。
(……変わってない)
いや。
違う。
(あのときより——)
もっと、強い。
もっと、まっすぐだ。
歌が進む。
『ひとりじゃ見えない景色
君となら見えるから』
5人のフォーメーションが、揃う。
光が、重なる。
オレンジ。
ネイビー。
ピンク。
レッド。
ゴールド。
ひとつの光になる。
その中心に
さくらがいる。
(……すごいな)
男子の手が、震える。
(なんで、あの日、あんなこと……)
あの日の自分。
後悔が、胸を締めつける。
でも。
もう、逃げない。
『重なる声 空に届け』
その瞬間。
5人の声が、完全に重なる。
空間が、震える。
観客の心を、貫く。
女子生徒が、思わず涙ぐむ。
「……すごいね」
小さく呟いたのは、一人の女子生徒だった。
星ヶ丘学園・高等部1年。
さくらの同級生。
その隣に座る男子は、何も答えない。
ただ、ステージを見つめている。
「……あの子だよ」
彼女が、そっと指さす。
「小鳥遊さくら」
その名前が、静かに落ちた瞬間。
男子の肩が、わずかに揺れた。
ステージでは、ちょうど歌い出しのメロディが流れている。
♪ 春風がページめくる——
「……変わったね」
彼女が言う。
「同じクラスにいると、あんまり気づかないけど」
「こんな顔、してたんだね」
隣で。
男子は、歯を食いしばる。
そして——
小さく、呟く。
「……ごめん」
その声は、誰にも届かない。
でも。
確かに、そこにあった。

ラスト。
『夢はここから
はじまるんだよ!』
最後のポーズ。
静寂。
音が、止まる。
一瞬の無音。
そして——
「うおおおおおおおおおお!!!」
歓声。
拍手。
スタンディング。
会場が、揺れる。
止まらない。

さくらの目に、涙が浮かぶ。
でも。
今度は——
怖くない。
ひなたが、笑う。
「ほらね」
小さく、口の動きで伝える。
さくらは、笑い返す。
誰もが、わかっていた。
今、何かが生まれた。
■ 舞台裏
幕が降りる。
その瞬間。
「……っ」
さくらの目から、涙がこぼれた。

ひなたが、笑いながら言う。
「やば……最高だった」
あかりが、息を切らしながら。
「……認める」
「楽しかった」
しおりが、小さく笑う。
「ええ。悪くなかったわ」
ゆいが、そっと言う。
「届いたね」
さくらは、涙を拭きながら。
「……うん」
「届いた」
ステージの上。
まだ消えない光。
その中心に——
5人の影。
こうして。
Solariaは、“本物”になった。
そのとき。
スタッフが声をかける。
「今のステージ、すごく良かったよ」
「あとで、関係者通路の方に来てくれる?」
5人が顔を見合わせる。
関係者通路。
人の少ない場所。
そこに。
あの女子生徒。
そして——
男子。

■ フラッシュバック(男子視点)
——小学校の教室。
「ねえ、小鳥遊、歌ってよ!」
笑い声。
無邪気な期待。
そして。
歌い終えたあと。
「……なんか、違うな」
「似てないよな」
自分の声。
あの時の、さくらの顔。
一瞬だけ、止まった笑顔。
そして——
「……そっか」
小さく、笑った。
あの顔が、ずっと。
離れない。
■ 現在
「……違うんだ」
男子が、初めて口を開いた。
彼女が、少し驚いたように見る。
「……え?」
空気が、変わる。
ひなたが、一歩前に出る。
でも。
その前に。
男子が、口を開いた。
「……小鳥遊」
声が、震えている。
「……覚えてるか、わかんないけど」
さくらは、何も言えない。
ただ、見つめる。
「小3のとき」
「……レクで歌ったよな」
その瞬間。
時間が、止まる。
「俺」
「変なこと言った」
拳を握る。
「……あれ」
「実は違うんだ」
息を吸う。
「……あの時、わかってた」
「小鳥遊…めちゃくちゃ上手くて」
「……悔しくて」
「なんか……ムカついて」
言葉が詰まる。
「だから、あんな言い方した」
涙が、こぼれそうになる。
「……本当の気持ち」
「言えなかった」
「恥ずかしくて」
「……ごめん」
深く、頭を下げる。
静寂。
誰も、動けない。
さくらの手が、震える。
思い出す。
あの日。
言葉。
痛み。
そして——
今。
さくらは、ゆっくり口を開く。
「……私」
声が、震える。
「ずっと、怖かった」
「でも」
顔を上げる。
「今日、歌った」
涙が、こぼれる。
「ちゃんと、届いたから」
一歩、前に出る。
「……もう、大丈夫」
その言葉は。
過去を、越えた証だった。
男子が、顔を上げる。
涙でぐしゃぐしゃになっている。
「……ありがとう」
小さく、呟く。
その様子を。
少し離れた場所で。
しおりとゆいが、見ていた。
「……よかったね」
ゆいが、静かに言う。
しおりは、腕を組んだまま。
でも。
少しだけ、微笑んでいた。

外。
夕焼け。
オレンジ色の空。
5人が、並んで歩く。
誰も、何も言わない。
でも。
全部、伝わっている。
「ねえ」
ひなたが、空を見る。
「ここからだね」
さくらが、頷く。
「うん」
あかりが笑う。
「もっと上、いけるでしょ」
しおりが静かに言う。
「当然でしょ」
ゆいが、やわらかくまとめる。
「行こう」
その一歩は。
もう、迷っていなかった。
光の中へ。
第十三話 光のステージ (終)
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― その先の光へ ― へ続く
