「Solaria 2nd Stage 第十五話|その先のステージへ ③」

「Solaria 2nd Stage 番外編|はじまりの音」
「Solaria 2nd Stage 第一話|星降る約束」
「Solaria 2nd Stage 第二話|ぎこちない光」
「Solaria 2nd Stage 第三話|はじまりの朝」
「Solaria 2nd Stage 第四話|揺れるスタートライン」
「Solaria 2nd Stage 第五話|見えない距離」
「Solaria 2nd Stage 第六話|すれ違うリズム」
「Solaria 2nd Stage 第七話|雨に溶ける声」
「Solaria 2nd Stage 第八話|雨の再会」
「Solaria 2nd Stage 第九話|重なりはじめる音」
「Solaria 2nd Stage 第十話|東京南地区予選」
「Solaria 2nd Stage 第十一話|覚醒」
「Solaria 2nd Stage 第十二話|君がいるから」
「Solaria 2nd Stage 第十三話|その先のステージへ①」
「Solaria 2nd Stage |顧問紹介」
「Solaria 2nd Stage 第十四話|その先のステージへ②」
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「第十五話 | その先のステージへ ③」

たたたたた……
静まり返った廊下に、軽やかな足音が響く。
曲がり角を勢いよく曲がり、そのまま一直線に駆けていく小さな影。
——やがて、その足音は止まった。
ダンス練習室の前。
「あっ……」
息を切らしながら、扉の前で立ち止まる。
中から、音が聞こえていた。
歌声。
リズム。
床を踏みしめる足音。
(……練習してる)
手を伸ばしかけて——止まる。
ほんの少しだけ、躊躇い。

そのまま、そっと扉に近づいた。
聞こえてきたのは——
「心の羅針盤」
クリスマスコンサートのアンコールで披露された、あの曲。
あの時は、突然のアンコール。
勢いと熱で押し切った、未完成のままの一曲。
でも今は違う。
歌が整理され、曲もさらにアレンジされている。
動きが、揃っている。
フォーメーションが、流れるように組み上がっていく。
(すごい……)
思わず、息を呑む。

その中心に立っていたのは——あかり。
強い視線。
ぶれない軸。
情熱そのものが形になったようなパフォーマンス。
(あかりさんが……センター)
胸が、少し高鳴る。
知っているはずの景色なのに、どこか違って見えた。
そのまま、動けなくなる。
ただ、聴き入る。
見入る。
——やがて。
音が止まった。
静寂が戻る。
「あ……」
我に返る。
今なら——
意を決して、軽くノックする。
コン、コン。
「……どうぞ」
中から声。
ゆっくりと、扉を開けた。

「あっ、あゆみちゃん!」
最初に気づいたのは、さくらだった。
ぱっと顔を輝かせる。
「えっ、ほんとだ!」
ひなたも振り返る。
「どうしたの?」
続けて声をかけたのは——しおり。
その姿を見た瞬間、あゆみは言葉を失った。
「……っ」
目の前に立つ姉は、昨日までとは違っていた。
落ち着いた茶色のブレザー。
ネクタイ。
少しだけ大人びた雰囲気。
「うわぁ……」
思わず、声が漏れる。
「お姉ちゃん……すごく似合ってる」
目を丸くして、見つめる。
しおりは一瞬だけ驚いたように瞬きをして——
「……ありがとう」
ほんの少しだけ、柔らかく微笑んだ。
「あ、あの……!」
あゆみが、慌てて前に出る。
持っていたバスケットを、机の上に置いた。
「みなさん、お腹空いてるかなって思って……サンドイッチ、作ってきました」
「えっ、ほんと!?」
一番に反応したのは、あかり。
すぐにバスケットに近づく。

「ナイスタイミング!もうお腹ペコペコだったんだよね~!」
「さすが、しおりの妹さんね」
ゆいが、目を細める。
「出来た後輩だわ」
「えっと……」
あゆみが少し照れる。
ひなたが、にこっと笑った。
「あゆみちゃんって、この春から中等部2年生だよね?」
「はい!」
元気よく答える。
そのまま自然に、全員で机を囲む形になる。
ささやかなランチタイム。
他愛もない会話。
笑い声。
でも——
どこか温かい空気。
(やっぱり……いいな)
あゆみは、そっと思った。
「……ねえ」
食後。
机の上の紙コップを片付けながら、ゆいがふと口を開く。
「歌詞、ほんとにこれでよかったの?」
「あっ」
ひなたが小さく反応する。
あかりは一瞬だけ視線を止めた。
机の上には、「心の羅針盤」の歌詞ノート。
何度も書き直された跡。
消した線。
書き足された言葉。
その一冊に、積み重ねた時間が滲んでいた。

「……うん」
あかりの静かな声。
しおりが、そのノートへ視線を落とす。
「すごく、まっすぐな歌詞ね」
「……そう?」
「ええ」
少しだけ間。

あかりは窓の外を見る。
冬の夕暮れ。
薄く滲んだ空。
そのまま、小さく笑った。
「届けたい相手がいるから」
一瞬だけ、空気が静かになる。
でも——
誰も、その先は聞かなかった。
「せっかくだし——見てもらおうか」
「うん」
あかりも頷く。
「さっきのやつ」
「えっ……?」
あゆみが顔を上げる。
「“心の羅針盤”」
ひなたが笑う。
「ちゃんと完成させたんだ」
音楽が流れる。
再び始まるパフォーマンス。
さっきよりも、もっと鮮明に。
もっと、強く。
あゆみは、最初——
ただ、見ていた。
(すごい……)
目が潤む。
胸が熱くなる。
でも——
2番に入った、その瞬間。

「……あれ?」
表情が、変わった。
わずかな違和感。
ほんの小さなズレ。
あゆみの表情の変化を——
しおりは見逃さなかった。
(……今、何か気づいた?)
曲が終わる。
静かな余韻。
「どうだった?」
ひなたが尋ねる。
あゆみは、少し迷う。
でも——
しおりが、一歩前に出た。
「あゆみ」
静かな声。
「今、感じたことを言ってみて」
「えっ……?」
他のメンバーが一斉にしおりを見る。
「……いいから」
その一言に、空気が引き締まる。
「あの……」
あゆみが、小さく口を開く。
「実は……フォーメーションのことで……」
「フォーメーション?」
あかりが反応する。
ホワイトボード。
ペンを手に取るあゆみ。
最初は、ゆっくりと。
でも——次第に迷いが消えていく。

「Aパートで、ここにさくらさんとひなたさんが入って——」
線が引かれる。
「ここで、あかりさんが少し外に開いて……」
動きが繋がる。
「サビでは、この位置から円を描くように——」
全体が、ひとつの形になる。
誰も、口を挟まない。
ただ——見ている。
食い入るように。
「……すごい」
ぽつりと、あかりが呟く。
「それ、どこで覚えたの?」
「えっと……」
あゆみが少し照れながら言う。
「小さい頃から、海外のダンスグループの動画をたくさん見てて……」
「自然と……見えるようになって」
沈黙。
でもそれは——
驚きと理解が混ざった、良い沈黙だった。
しおりが、ゆっくりと前に出る。
「あゆみ」
まっすぐに見つめる。
「その力——」
ひと呼吸…

「本選まで、貸してくれない?」
「……え?」
戸惑うあゆみ。
「で、でも……私なんかが……」
「“なんか”じゃない」
あかりが即座に言う。
「むしろ今の私たちに、一番足りてないピース」
「ステージに立つだけが、アイドルじゃないよ」
ゆいが優しく続ける。
「一緒に戦ってほしい!」
ひなたが、一歩前に出る。
まっすぐな目で。
あゆみは、少しだけ俯く。
考える。
でも——
その時間は、長くなかった。
ゆっくりと顔を上げる。
「……はい!」
その瞬間。
空気が、変わった。
しおりが、静かに頷く。
「決まりね」

——この日。
Solariaに、新しい“力”が加わった。
まだステージには立たない。
でも——
その存在は、確実に中心へと近づいていく。
そしてそれは。
まだ誰も知らない。
この小さな一歩が——
やがて大きな運命を動かすことを。
第十五話 その先のステージへ ③ (終)
▶ Solaria 2nd Stage 第十六話|
― その先のステージへ ④ ― へ続く
