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【魔族な俺ですが、人間達と仲良く暮らしても良いですか?#2】

あらすじ

 
 魔族であるレオルは、かつて魔王を討ち、同族を殺めた罪を背負って祖国を離れ、人間の都市ブラッドレインで冒険者として新たな生を歩み始める。ギルドで出会った元気な格闘家ジュラ、皮肉屋で世話焼きな魔女ミレニムと即席のパーティーを組むが、彼らの旅は次第にただの冒険では済まされない様相を見せ始める。

 初依頼であるダスクウルフ討伐では、隠された魔族としての力や仲間の過去が徐々に明かされ、さらに魔力を吸い“存在を消す”異形の怪物との戦闘を経て、彼らの絆は深まっていく。

 討伐後、ミレニムの元仲間であった獣人ハクロとの再会により、過去の因縁が浮かび上がるも、レオルの「命を守る」という強い信念によって彼を救い、四人目の仲間として迎える。

 だが、次の依頼「神のダンジョン探索」へ向かう途中、彼らは謎の術式によって異界へと転移させられる。そこに待ち受けていたのは、異常な観察者と名乗る女、そして人造の怪物たち。レオルの魔族としての本質までもが暴かれようとする中、四人は命をかけて戦いの渦へと踏み込んでいく。

 仲間を守るため、己の過去と力を受け入れながら、彼らは“ただの冒険者”ではいられない運命に巻き込まれていく。


レオル

 本作の主人公。人間の姿をしているが実は魔族。魔族の力を取り込み、魔剣に思考を転写するなど特殊な能力を持つ。かつて恋人と領民を魔王に殺され、その後魔王を討伐。自国を離れ、冒険者として第二の人生を歩み始めた。生命を何よりも大切にしており、敵であっても無闇に殺したくないという強い信念を持つ。

ジュラ

 元気で素直な格闘家の少女。龍に育てられ、「龍気法」と呼ばれる特殊な気の技術を使う。戦うことが好きで、「強さ」そのものに純粋な憧れを抱く。マイペースで空気を読まないが、周囲の本質を見抜く感性の鋭さも持つ。パーティーのムードメーカー。

ミレニム

 皮肉屋で世話好きな魔女。鑑定能力を持ち、レオルの正体を最初から見抜いていた。かつてのパーティー仲間の裏切りをギルドに告発し、孤立していたが、レオルとジュラに出会って再び仲間を得る。知識と魔力に長け、空を飛ぶこともできる。口は悪いが根は優しい。

ハクロ

 白虎の獣人で、かつては奴隷として冒険者パーティーに所属していた。主人の命令で危険な道具「引き寄せ香」を使い、結果的にレオル達を危機に晒すが、レオルに命を救われたことで深く感謝し、彼の奴隷として共に旅をすることを選ぶ。スカウトとしての技術(罠の解除や索敵)に秀でる。

ステラ

 ブラッドレインの冒険者ギルドのギルドマスター。知性と公正さを併せ持つ女性で、メンバーの内情にも配慮しつつ、冷静な判断を下す。レオル達の実力を見抜き、未知の脅威にも迅速に対応しようとする賢明な管理者。


謎の観察者(女性)

 異界にレオルたちを引きずり込んだ張本人。感情の読めない声で話す異様な存在。レオルたちを「素材」として観察・改造しようとする目的を持ち、かつて倒された“サンゴウ”という存在の代わりになる者を探している。魔族であるレオルの“内部”に強く興味を抱いている様子。


獣人ハクロ

 「引き寄せ香?」

引き寄せ香

 汚れた小さな袋に怪訝そうな顔をするレオル。
 「……本来は魔獣とかおびき出して倒すためにある道具なんだけど、……これは嵌められたかも……」
 「……私が原因だ」
 ミレニムが苦い顔をして、言葉を押し出した。
 「ダスクウルフがたくさん来たのって、この人のせいってこと?あの黒いやつも?」
 「かも……前いたパーティーの仲間だったんだけど……私が彼等の犯罪の証拠を、ギルマスに喋ったことを恨んでるんだと思う」
 「じゃあ、悪いやつだよね……ほっとく?多分死ぬけど?」
 ジュラがある意味正論を述べる。
 「ハクロは……パーティーが買い付けた獣人奴隷だったから、彼自体に悪意はないでしょうけど……」

魔法回復薬


 「……ミレニム、魔法回復薬あるか?」


 「レオル?」
 ミレニムが不思議そうに見遣る。
 「……正直、ジュラのほうが正しいのだろう。だが、これは誰かの死を見たくないだけの、俺のわがままだ」
 あまりにも多くの身近な者を亡くしたことから、今の彼は死に対する忌避感が強すぎるのだ。

 「……言っとくけど、私のはかなり高いよ?今回の報酬、ダスクウルフしか討伐報酬にならなかったら、人数分で割り算して、トントンになっちゃうけど、本当にいいの?」
 「……なかなかに厳しいな」
 レオルは、軽く息をついた。

 「ブラッドレインのギルドマスター、ステラです」

ギルドマスター ステラ

 「ダスクウルフの討伐お疲れ様でした。また、未知の魔獣の報告も、ミレニムさんから受けております。それを討伐した件も、勿論承知しております……また、問題のパーティーがミレニムさんのパーティーを危機に陥れた件、ギルドとしても厳正に対処させていただきます……その所属メンバーであるハクロ氏が、証言してくださることで、彼等の拘束に繋がりました」
 聡明……それがステラの第一印象だ。ミレニムが、ソファの端に腰を載せて、緊張しまくり恐縮しまくりの顔をしている。
 「あ、そっか……レオル、そこまで考えてあのハクロっての助けたんだ。僕は捨ててこう、って……むう!」
 ミレニムが、全力でジュラの口を塞ぐ。
 ステラが柔らかな微笑を深める。
 「人の生命は、大切ですからー!」

ミレニム

 ミレニムの必死のごまかしも、あまり功を奏してはいない。
 「ハクロ氏は、奴隷の立場。言いなりになるしかないことは、情状酌量の余地がありますが、貴方たちの生命を危険に晒したことに変わりありません」
 レオルはそれを静かに聞いていた。
 「ですので、貴方達次第です。彼を強制労働させてその賠償金をうけとるのも、彼を普通の奴隷として商館に戻すのも」
 ミレニムは、彼の方を見てその重い口を開く。
 「……思うところが、私にもないわけではないけど、ハクロの件はレオルに任せるわ。貴方が助けたのだから、貴方が決めるべきよ」
 一匙ほどの沈黙のあと、レオルは居住まいを正してステラに向き合った。

レオル

 「マスター・ステラ」
 「はい」
 ギルドマスターが静かに応じる。
 「貴方は相当の知識と判断力をお持ちの方であるとお見受けする。その上で教えて欲しい……ハクロなる奴隷を、どうすべきか。正直、賠償金は考えていない。そんなために助けたわけでもない。これは、ただの俺のエゴだ」
 「……エゴとは、どのようなことか伺っても?」
 ステラも膝に手を置いて、レオルに向き合う。
 「俺は、自分の生まれた国で王が自国の民を犠牲にする行いに叛逆して、何十人もの同族を殺めた……また、自分の任されていた領地の民や部下、大切にしていた者を死なせてしまったどうしようもない奴だ……」
 「だからこそ、生命がどんなに脆く失われやすいものかを知って、怖くなった……正直、誰であれ死ぬところをみたくない、という俺の傲慢なんだ」
 「だから、ハクロ氏を扱いかねているのですね、貴方の国には、奴隷はいなかったのですか?」
 「ああ、そうだな……だから、よくわからないんだ。どうすべきか。おそらく彼を単純に解放するということは、彼の今後のためにもよくないのだろうと思う」
 ステラはおとがいに指をあてて、静かに思考に沈む。
 「ねえ、ミレニム……なんか、すごくいたたまれないんだけど、どうしてかな?」
 ジュラが少しソワソワしだした。
 「……私なんか、もっとよ。逃げ出したいぐらい……話がすごく重たいんですけど……それに、ポーションを売りつけた自分が、凄いひどいやつみたいじゃない」
 「うん、あれはない」
 ミレニムの口から、ぐっという声が漏れる。
 「……だって、しょうがないじゃない。自分たちを危険な目に合わせたヤツに、高い魔法薬をあげるお人好しなんていないわよ」

 ヒソヒソ話す二人に構わず、ステラはレオルをみつめて提案する。
 「彼の希望でもあるのですが、貴方の奴隷としてしてしばらく働かせてはどうでしょうか?獣人のスカウトは優秀ですし、それが彼の罰になります……罰によって罪をすすぐことで、彼は本当に解放されると、私は考えます。それに、彼は貴方に深い恩義を感じているようです」
 レオルは深く頭を下げて感謝の意を示す。
 「マスター・ステラ、感謝します。そのように手続きをお願いできますでしょうか」
 「賜わりました」
 ステラがベルを鳴らすと、事務員が扉を開けて入って来る。
 彼女がそばに来た事務員に指示与えると、彼は頷いて戻って行った。
 「……ミレニムさんは、良い仲間を得ましたね。ギルドとしても、優秀な貴方が今後どうしていくのか、とても心配していました」
 「あ、ありがとうございます……彼等は私にはもったいないないぐらいの実力者です……なんで、冒険者をやろうとしているのか、わからないぐらい」
 ジュラが手を挙げる
 「僕は修行のため!お師匠に言われたから!」
 レオルが、一つ息をつく。
 「俺は、まあ当面の生活費を稼ぐためだ……知り合いに、勧められた……これぐらいしか、できないだろうと」
 ステラが微笑む。
 「まあ、何だか冒険者の評価が低いような意見もあるようですね」
 「ギルマス、なんか怒ってません?」
 ミレニムがソファの上でも、距離を取ろうとお尻を移動させる。
 「いいえ、まさか……で、もう一つの件ですが、黒い魔物、再生するときに回りの樹木が、ただ消えていったとか」
 魔女が頷く。
 「……存在確率のエネルギーを吸い上げていたのでしょうか?」
 「聞き慣れない単語だな」
 ステラは、自分のなかから何かを引き出すように机を見つめている。
 「……知り合いの賢者がそんなことを喋っていたことを、急に思い出したのです……この世にあるものは存在することそれ自体が偶然にすぎず、そのものが存在する可能性のサイコロを振り当てて、初めてこの世に現界できるのだと」
 「なんか難しい話だね……僕達の存在はそんなに軽いってこと?」
 ジュラが腕組みして頭をひねっている。
 「……詳しいことはわかりませんが、そんなエネルギーをどうにかできる存在がまだいるとしたら……」
 「……そもそも、その魔獣こそ、なんで存在してるかって話ではないでしょうか?」
 ミレニムがギルドマスターの方をじっと見つめる。
 「……あの怪物に対峙したとき、身体の中から何か奪われそうな感覚があった。とっさに抵抗はできたが、その反動で突き飛ばされた」
 ミレニムが思わず立ち上がり、レオルに詰め寄る。
 「それって、貴方が存在自体を消されかけたってこと?!」
 「……そこまで、強力なものは感じなかったが……今までにない嫌な感じがしたから、ミレニムに警告した」

 ミレニムは呆れたように、息をついた。腰をに手を当てて、びしりと、指を突きつける。
 「そこは、良い判断だし、ありがとうだけど……これからは自分だけで動かないで!貴方は確かに、私よりも戦闘経験は豊かなんでしょうけど……」
 ジュラもレオルを凝視しながら、そのあとを引き継ぐ。
 「僕達を頼って!」
 「そういうこと……もう仲間だよね、私達」
 「……済まなかった」
 「違う!……謝って欲しいわけじゃない」
 何かに気づいたように、二人を見遣るレオル。
 「……ありがとう、二人とも」
 
 咳ばらいを一つ。
 「……話を戻しても?」
 ギルドマスターが、優しい笑みを浮かべてみている。
 「あ、はい……すみません。場所をわきまえていませんでした」
 「……先ほどの件、こちらでも調査しておきます。混乱を避けるため、しばらく緘口をお願いします」
 「そう、なりますよね」
 一旦、この話は終わりになった。

 
 「兄さんが、レオルさんかい?」
 白虎の獣人が、廊下で待っていた。
 「ああ、傷は大丈夫か?」
 「おかげさんで、この通りです……感謝してもしきれない」
 「ハクロ」
 ミレニムが、一歩前に出る。
 乾いた音が、廊下に響き渡った。
 「……これは、私の分じゃない……私の大切な仲間を危険にさらした分!……これでチャラにしてあげる」
 「ミレニムの姐さん、恩に着る」
 深々と頭を下げるハクロ。
 「兄さん、俺のことは聞いてるかもしれないが……挨拶させてくれ。名はハクロ、スカウトだ。情報収集、罠の探索や解除なら任せてほしい。兄さんに受けた恩、生命に変えてでも……」
 レオルが珍しく困った顔をする。
 「そういうのは、やめてくれ」
 「兄さん?」
 「生命は大事にしてくれ……そのために助けたんだ」
 ハクロは、ミレニムの方を見る。彼女もやれやれといった感で肩を竦める。
 「こういう奴なのよ」
 「はあ……兄さんはご奇特な方ですねえ。わかりました、力の限り兄さんの力になります」
 深く頭を下げるハクロ。
 「僕、ジュラ!よろしくね」
 雰囲気を読んでか読まずか、ジュラが強引に腕を取り上げて握手してくる。
 「ジュラさん、よろし……イタタッ、強すぎですって!」
 レオルは、それを見て笑う。ジュラには助けられてばかりだ。雰囲気が和らぐ。
 「よろしく、ハクロ。スカウトのお前の腕、頼りにさせてもらうよ」
 「……はい、任せてください」
 四人目の仲間が加わった。

ハクロ


異界への誘い

 ダスクウルフ討伐の依頼を終えた翌朝、冒険者ギルドの掲示板を前に、ジュラは興奮気味に声を上げた。

「見て見て!ダンジョン探索の依頼だって!これ、絶対やるべきだよ!」

 彼女の指差す先には「ブラッドレイン近郊ダンジョン・調査兼探索」の張り紙があった。依頼内容は簡潔で、報酬もそこそこだが、何よりその場所が「神の試練」とされるダンジョンだという点が、ジュラの心を掴んでいた。

「その、ダンジョンというのが、よくわからない」
レオルの言葉に反応したのは、ハクロだった。
「レオルの兄さん、ダンジョンというのは神様が作り出したものなんです」
 「……また、大層な単語がでてきたな」
 「ダンジョンには罠があり魔物がいる、最奥には宝があり、突破した者がそれを手に入れる、の2点を憶えておけば、大丈夫です」
 「それは、略しすぎでしょ?……情報の価値がないじゃない」
 ミレニムが若干呆れ気味だ。
 「試練!試練!…行きたい!……ねえ、ミレニム、お願い!」
 「ダンジョンって、あんまりできたばっかの急造パーティーで行かないんだけど……罠の解除や戦闘時のコンビネーションとか、確立していないと危ないんだよね」
 ミレニムは今ひとつ乗り気ではないらしい。
 「そうですねえ、俺もまだ、レオルの兄さんやジュラさんの戦い方、見てませんし……俺のスカウトとしての動きをお見せしていません……ダンジョンは強さだけではなんともならない時があります」
 ハクロも控えめに辞めるように忠告してくる。
 「だからこそ、挑むんだよ!ダンジョンで試練を乗り越えれば、もっと強くなれるし、お宝だって手に入るかもしれない!」
 ジュラの目は輝いている。

 ミレニムはそんな彼女を見て小さく笑った。
 「あんた本当に修行とか試練が好きなのね……でも、神のダンジョンは、普通のとは違って未知の技術で作られている……生命を落とした冒険者も、結構いるんだから」

 「師匠に聞いたことがあるから、分かってる……でも、僕にはやらなきゃいけない理由があるんだ」
 ジュラの表情がいつになく真剣になると、彼女は自身の過去を語り始めた。

ジュラ

 ジュラは幼い頃、親に捨てられ、山奥に一人で置き去りにされた。そのとき彼女を拾い、育てたのは巨大な龍だった。

 「龍って言っても、僕が育てられた龍は普通のものじゃないんだ。龍脈、つまり大地や空気の中に流れる力を操る存在だった。その龍から学んだのが、僕の“龍気法”なんだ」

 龍気法は、体内の気を大地や空気中にある龍脈の力と融合させ、身体能力を引き上げたり、攻撃を強化したりする独特な技術だ。
 龍はジュラにそれを伝えた後、 
「この力を使って世界を見てこい」と言って、彼女を送り出したのだった。

「だから、僕にとってダンジョンって特別なんだ。試練を越えれば越えるほど、自分がもっと強くなれる気がするんだ……そしたら、僕は自分がこの世界に生まれてきた意味がある気がするんだ!」
「……それに、言い方悪いかもだけど、僕は色んな相手と闘いたい!闘うのは好きだし、自分が強くなったことを実感できる瞬間は、何にも代えられない、譲れないんだよ」
 ジュラの熱意に、レオルもミレニムも黙り込む。

 「……ジュラさんは、お若いのに達観してますねえ」 
 ハクロは感心したように、しみじみとそんなことを言い出す。
 「ハクロ……あんただって、そんな齢じゃないでしょ……なに、年寄り枠確保してんのよ」
 ハクロは軽く苦笑したあと、ミレニムのほうに向きなおる。
 「……ミレニムの姐さん、俺が言うのは差し出がましいと思いますが、今回の調査受けてみてはどうでしょうか?兄さんやジュラさんの実力は姐さんの方が、ご承知でしょうし……」
 
 しばらくの沈黙の後、ミレニムが静かに口を開いた。
 「まあ、私も神のダンジョンには行ったことはないし、興味はあるわ……今回は、ジュラのお願いを聞いてあげるけど……これ以上は危ないと思ったら迷わず引き返すからね。これは絶対の約束!」

 「約束するよ。僕だってみんなが大事だから」
 
 ミレニムは微笑んだ。
 「決まりね。ダンジョン探索に行きましょう」

 四人は準備を整え、ギルドの受付でダンジョン探索の依頼を正式に受けると、街を出発した。目的地は街から少し離れた森の中に隠された「神のダンジョン」。

  道中、ジュラは意気揚々と拳を鳴らしながら言う。
「……楽しみだな。試練ってどんな感じかなあ」

 「浮かれすぎに注意ね。あと、宝は早いもの順だから、そこは忘れないように」
    ミレニムが釘を刺す。
 「食糧を調達する際に耳にしたが、城の騎士団も腕試しに行くらしい……なんか、お祭り騒ぎだな」
 レオルも街でそれとなく情報を集めてきたらしい。
 「……レオルの兄さん、さりげなく俺の役割取らんでくださいよ」
 「……噂程度だ、確度の高い話じゃないさ」
 レオルが軽く笑って、そう寄越した。
 

 神のダンジョンへ向かう森の道中、ジュラが何気ない調子で声を上げた。
 
「ところでさ、レオルって人間じゃないよね?」

 その瞬間、静寂が訪れた。

 ミレニムは歩く足を止め、顔を青ざめさせた。
 「あっ、バカ!何言ってるのよ!」
 声を出した後で、自分の言葉の失態に気付き、硬直する。
 パーティー崩壊の単語がよぎる。
 ハクロが、僅かに目を細める。

 ジュラはきょとんとした顔でミレニムを見つめた。
 「え?だって最初から分かってたし、別に問題なくない?」

「それとこれとは話が違うでしょ!」
 ミレニムは思わず声を張り上げたが、すぐに沈黙した。これでは、自分もレオルの正体に気付いていたことを認めたも同然だ。
 あの黒い魔物との戦いでは、奥の手、という言い方で曖昧にしておいた苦労が水の泡だ。

 レオルは立ち止まり、二人のやりとりをしばらく無言で見守っていたが、やがて小さく息をついた。  
 「まあ、知られたんなら仕方ないか……」

 「え……」
 あっさり認めたことに、ミレニムが驚きの声をあげる。 

 「俺は、魔族だ……角とかは隠しているが」
 レオルは冷静な表情で二人を見渡し、問いかけた。
 「黙っていたことは、悪かった……で、その上で聞くが、このままパーティーを続けてもいいのか、それともここで解散するか?」

 ジュラはその問いに対してあっさりと答えた。
 「別に解散する必要ないでしょ。僕さっきも言ったけど、最初から分かってたし」

ジュラ

 「最初から、か?」レオルは目を細める。

「うん、君の中に流れる気が普通じゃなかったから。人間じゃない、もっと圧倒的な力を感じた。だけど、それが理由で怖がるつもりはなかった。むしろ強い人と組む方が効率がよいと思ったんだ」
 ジュラは無邪気に笑ってみせる。

 「……ジュラらしいな」
 レオルは彼女の率直な態度に少し口元を緩めた。

 ミレニムはそんなジュラに呆れたような顔をしつつも、渋々と口を開いた。
 「私は鑑定能力で、あなたが魔族だって最初に気付いた」

 「それも分かってた」
 ジュラがあっけらかんと答える。

  「えっ?」

「だって、ミレニムが初めてレオルを見たとき、すごく分かりやすい顔してたもん。えー、って感じ……僕が気付くくらいなんだから、相当だよね」
 ジュラは肩をすくめた。

 「そ、それは……」
 ミレニムは言葉を詰まらせた後、息を吐き出した。
 「……まあ、確かに隠しきれてなかったかも」

 ミレニムは少し恥ずかしそうに目を伏せながら続けた。
 「私は、パーティーを長く組めた試しがなかったの。あれこれ口出ししすぎちゃう性格だし、あとから思えば、魔女だからって鼻にかけてたところもあったし……」

 「……今度こそって思ったら、魔族であることを隠してるレオルが来て、マイペースなジュラが来て、でも組んでみたら、すごく楽しかった……」
 「……楽しかったの」 
 ミレニムの声が一瞬消え入りそうになる。 

ミレニム

 「……だから、レオルの正体がばれて、パーティーがめちゃくちゃになるのを避けたかった。それに……」    
 彼女はふと顔を上げてレオルを見た。
 
「この不思議な組み合わせのままで、しばらくやってみたいと思った……それは、本当」 知らず、声が震える。

 レオルはミレニムの言葉にしばらく答えず、ただじっと彼女を見つめた。
 その視線が真剣なものであることに気付いたミレニムは、思わず顔を赤らめた。

「……分かった。なら、この話はこれで終わりにしよう」
 レオルが静かに告げた。

 「うん、それがいいね!」
 ジュラは気楽に頷き、先に歩き出した。
 ハクロが頭を下げて、その後を追う。
 「レオルの兄さんの俠気に惚れたんです……種族なんて些細なことですよ」
 「さあ、試練が待ってるんだから、さっさと行こう!」

 ミレニムもその後を追い、レオルは一人、少しだけ後ろを歩きながら三人の背中を見つめた。

 ……不思議なパーティー、か……悪くない……

 

 神のダンジョンへ向かう道中、森は深く静寂に包まれていた。
 木々は天を覆い隠すほどに鬱蒼と茂り、差し込む光は微かな緑の粒となって葉陰を踊っている。
 ジュラは鼻歌を歌いながら、前方を歩いていた。

 その時だった。
 森の静けさが、急に異様な感覚へと変わった。

 「……ん?今、何かおかしくなかった?」
 ジュラが足を止め、周囲を見回す。

「確かに……何かを通り抜けたような感覚があった」
 レオルが森の奥へ鋭い視線を向けた。
 「空気の匂いが変わりました……何か、嫌な感じですね」
 ハクロが懐に手をやる。
 
 突如として、四人を包む足元の地面が光り始めた。
 

転移陣

 「転移の術式?」
 ミレニムが叫ぶが、言葉を発する間もなく、眩しい光が彼らを覆い尽くした。

 光が消えたとき、四人が立っていたのは、見知らぬ荒涼とした夜の湿原だった。
 空は黒い雲で覆われ、微かな月の輝きが雲の裂け目から漏れている。風は冷たく、吹き抜ける音がどこか耳障りだ。

 「ここ、どこ?」
 ジュラが低い声で呟いた。
 「さっきのところと違う……気味が悪い」
 足元の地面は、踏みしめるたび水が染み出す。
 「ここは、お月さんが二つあります……逃げられないように、さらに奥に連れ込まれたんでしょう」
 ハクロがあたりを伺う。

「おそらくだけど、異なる空間、異界に飛ばされたのよ」 
 ミレニムが険しい表情で周囲を見渡した。
 「こんな場所が、近郊にあるなんて聞いたことがない」

 

異界湿原の女

 「ようこそ一、私の飼育場にですー」
 湿原に、影がゆらりと現れる。
 「……何者だ?」
 レオルが魔剣を抜く。
 「……それはコチラのセリフです一、サンゴウを倒したあなた達は、何者ですかー?」
 影の目が淡く光を帯びる。
 「龍気の拳士に魔女、獣人……なんか、すごく珍しい組み合わせですねー」
 感情の感じられない平坦な、妙に間延びした声が、ミレニム達の本質を明かしていく。

 「……鑑定?!……勝手に見るな!」
 ミレニムが、威嚇に炎弾を放つが目の前で弾かれる。影の女は、何事もなかったように続ける。

 「……それに、お前はなんですー、魔族は分かるんですけどー、中身がいろいろとグチャグチャですねー」
 「お前、同族を喰らいましたねー、怖ーい、怖ーい」
 三人の視線がレオルに集まる。
 彼の表情に苦痛めいたものがよぎったのは、気のせいだったのか……
 女が杖を振ると、湿原から巨大な影が二つ現れる。
 一つは大きな顎を持ち、ニ本の足でその巨体を支える。もう一つは、細身で鋭い爪を備えていた。
 「お前たちをー、素材にすればー、サンゴウのかわりぐらいは作れるかもー」
 「……責任をとってもらいますよー」
 杖がレオルたちに向けて、振り下ろされた。
 「イチゴウ、ニゴウ、やっちゃってくださいー、できるだけ殺さずにー、お願いしますー」

イチゴウ


ニゴウ

 「俺が先陣を切る」
 レオルは低く呟き、魔剣を構える。
 「あの女を何とかしない限り、ここから逃げれないようだからな」
 「レオル、僕も行くよ」
 ジュラが彼の横に並ぶ。
 何か、レオルをひとりにしてはいけない、ジュラはそう感じていた。
 「僕のダンジョンデビュー、台無しにしてくれたお礼をしないとね」

 異界の闇が、レオルたちを飲み込もうとしていた。

……………………………………………………………………
【2025年創作大賞ファンタジー小説部門:冒険者】第1話から第6話が一つの応募作品になります。

続編


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