同じ景色を、隣で一緒に見たいだけだった【カンヌへの道-13】
沖縄で俳優として活動しています。
「懐かしい未来」という曲にハマっている、いっちーこと伊藤駿一です。
このシリーズ「カンヌへの道」は、「カンヌ国際映画祭主演男優賞」というあまりに遠いゴールに向けて、「演劇は世界を平和にする」という信念のもと、沖縄で俳優をやっている僕の伸び悩みや実験や小さな気づきを、かっこつけずに書いていくシリーズです。今日はその第13話。
※「カンヌへの道」シリーズ全13話は記事末尾またはマガジンから。
マガジン → https://note.com/icchi_ito/m/md625d6052627
「最高だから来て」より、「同じ景色を見ませんか」
この前、明日が勝負。「最高だから」を、言える自分まで【カンヌへの道-12】 という記事を書きました。
公演の集客で、「ぜひ来てください」とは言えるのに、「最高だから来て」のひと言だけが、どうしても出てこない。なぜだろうと掘ってみたら、答えは「自分でまだ、最高だと思えていないから」でした。だから明日の稽古で、最高だと言える自分まで持っていく。そう書きました。
その「明日」が、今日でした。
7時間、稽古してきた
いつもの土曜は、お昼の12時から3時くらいまでの稽古です。でも今日は特別に、夜まで時間をとってもらって、結局7時間くらい、みっちりやりました。本番まで、全員でそろってできる稽古はもう数えるほどしかありません。だから今日は勝負の日でした。
結論から言うと、やってよかったです。
通し稽古を終えた瞬間に、「あ、これは走り切れる」と思えました。途中、小さなつまずきはありました。でも、どれも「あとで直せるもの」で、取り返しのつかないようなものは一つもなかった。全体が、一本の線でつながった感覚がありました。
最初はどうなることかと思っていたんです。それが今日、ちゃんと形になった。一緒に立つ仲間も、代表であり演出の方をはじめとして、みんなが時間と力を注いでくれて、その上でこの感覚にたどり着けた。本当にありがたいなと思いました。
でも、「最高」とはまだ言えない
じゃあ「最高だから来て」と、今なら言えるのか。
……まだ、言えないんです。
ただ、この前と「言えない」の中身が、ちょっと違っていました。
この前の「言えない」は、不安でした。自分が信じ切れていないから言えない。それは結構、後ろ向きな感覚です。でも今日の「言えない」は、「まだ完成しきっていないから」でした。最高というのは、たぶん完成しきった状態のことだと思います。今はまだ、その途中にいる。だから言えない。
同じ「言えない」でも、片方は不安で、片方は伸びしろなんですよね。今日のは、後者でした。
そのかわり、はっきり言えるようになった言葉があります。
「絶対に、楽しんでもらえます」。
これは今日、心から言えるようになりました。最高かどうかは、まだわからない。でも、来てくれた人が楽しめるかどうかでいえば、そこは断言できる。楽しんでもらえます。そこだけは、自分の中で揺らがなくなりました。
……で、それで人は動くのか?
ここまで書いていて、ふと立ち止まりました。
「言える自分になった」。それはいい。でも、それで人は本当に来てくれるのか?
正直に思うのは、僕がどれだけ心から「楽しんでもらえます」と言ったところで、それで急に人がたくさん来るかというと、たぶんそんなことはない、ということです。言葉に確信が乗ったからって、動員がガラッと変わるほど、甘くはない気がします。
そこまで考えて、もっと根っこのところに、引っかかるものが出てきました。
そもそも僕は、「人を動かしたい」んだろうか。
「集客」とか「人を動かす」とか、そういう言い方を、自分でも何の気なしに使っていました。でも、よく考えると、「動かす」って結構、傲慢な言葉だなと思ったんです。こっちが相手を操作する、みたいな。相手は動かされる側で、自分が動かす側。そういう上下の関係が、その言葉にはある気がして。
僕がやりたいのは、たぶん、それじゃない。
やりたいのは、同じ景色を一緒に見ること
僕が観客にやりたいことを、「動かす」を使わずに言うとどうなるか、考えてみました。
出てきたのは、こういう順番でした。
何かを差し出して、届ける。そして、同じ景色を一緒に見る。
「動かす」は、こっちが相手を押す感じです。「届ける」は、押し付けじゃなくて、相手の手に渡す感じ。そして「同じ景色を見る」になると、もう押すも渡すもなくて、隣に並んで、同じ方を向いている感じになる。
向き合って説得するんじゃなくて、横に並ぶ。
そう考えたら、すごくしっくりきました。僕は観客を動かしたいんじゃなくて、同じ景色を、隣で一緒に見たいだけだったんだなと。
じゃあ、その「同じ景色」って何なのか。
舞台が終わったあとに、お客さんと自分が、同じ方を向いて見ていたい景色。それは「迷った時に、見上げれば光がある」みたいな景色だなと思いました。「ここにいていいんだ」と思える場所、と言ってもいいかもしれません。
確信は、武器じゃなくて土台だった
ここまで考えて、最初の「最高だから来て、が言えない」問題に、ひとつ答えが出た気がしました。
確信って、人を動かすための武器じゃないんですよね。
武器だと思うと、「それさえあれば足りる」みたいな話になります。でも、たぶん違う。自分が「これはいい」と心から思えていることは、その上にやることすべての、土台なんだと思います。地面みたいなもの。
自分が信じ切れていないものは、どれだけ言葉を尽くして差し出しても、たぶん薄い。逆に、心から信じられているものなら、差し出す言葉も、稽古も、声のかけ方も、ぜんぶ嘘がなくなる。
確信があれば人が動く、わけじゃない。でも、確信がないと、その上の全部が、どこか嘘くさくなる。
だから今日、「絶対に楽しんでもらえます」と心から言える自分になれたことは、ゴールじゃなくて、やっとスタートラインに立てた、ということなんだと思います。土台が一段、できた。ここから、その上にやれることが、まだたくさんあります。
仲間も、同じ景色を見始めている
今日の稽古で、もうひとつ感じたことがあります。
お芝居には、はっきりとした正解がありません。演出としての方向性はあります。でも、「この芝居が絶対の正解」みたいなものは、決まっていない。だからみんな、正解のない中を、探りながら進んでいくしかない。
その「探りながら、一歩踏み出してみる」を、一緒に立つ人たちが、どんどんできるようになってきているんです。できることが増えて、挑戦できるようになってきている。こんな言い方は少し上から目線で気が引けるんですが、それでも、その成長がはっきり見える瞬間が、今日は何度もありました。
たぶん、まず僕たち演じる側が、同じ景色を見られるようになってきている。だから本番では、お客さんとも同じ景色を見られるんじゃないか。そんなふうに思えました。
あなたの仕事も、たぶん同じかもしれない
これは演劇に限った話じゃない気がします。
何かを売る時、誰かに来てもらいたい時、自分の考えを伝えたい時。「どうやって相手を動かそう」と考えると、たぶんどこかで、相手を操作の対象みたいに見てしまう。うまく動かそうとするほど、言葉が空回りする。
そうじゃなくて、「この人と、同じ景色を一緒に見られたらいいな」と考えてみる。相手を動かすんじゃなくて、隣に並んで、同じ方を向く。それだけで、伝え方も、たぶん変わってくる気がします。
そしてその時、いちばん大事なのは、テクニックじゃなくて、自分自身がその景色を心から「いい」と思えているかどうか。確信は、武器じゃなくて、土台だから。
あと1週間
本番まで、あと1週間です。
やることは、はっきりしています。今日見えた「まだ完成しきっていない」部分を、ひとつずつ埋めていく。今日の小さなつまずきを、各自で直していく。「楽しんでもらえる」の瞬間を増やして、「まだ足りない」の瞬間を減らしていく。それを積み重ねて、「最高」と言える状態まで持っていきます。
カンヌという、気が遠くなるくらい遠い場所を目指す道の途中で、これはきっと無視できないことだと思っています。届ける言葉に、ちゃんと自分の確信を乗せられる人にならないと、もっと大きな場所には立てない気がするからです。
だから、「最高だから来て」と胸を張って言える日まで、もう少しだけ、磨きます。
その上で、今の僕に言えることを、正直に書きます。
最高かどうかは、本番の日に、自分で確かめます。でも、「絶対に楽しんでもらえる」。これは今日、心から言えるようになりました。
「最高だから来て」と言う代わりに、こう言わせてください。
6月6日、同じ景色を、一緒に見ませんか。
読んでくださり、ありがとうございました。
最後まで読んでくれたあなたへ
カンヌへの道も、演劇で世界を平和にする仕組み作りも、気が遠くなるほど先の話です。これからも今日のような分厚い壁に、数え切れないほどぶつかるはずです。
だからこそ、あなたが最後に押してくれる「スキ」の一つひとつが、「この熱のまま、もっと遠くへ行け」と僕の背中を押す最大の原動力になります。
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【挑戦その1】「地域を応援する演劇」シリーズ、上演中
沖縄の食堂や自治会を舞台に、笑って、泣けて、ちょっと優しくなれる。そんな群像ハートフルコメディを連続で上演しています。地域の居場所やコミュニティを応援する取り組みでもあります。
直近の公演:『にぬふぁぶし』6月6日(土)上演
迷った時、上を見れば、いつもそこに光がある。
—— 金曜日の食堂で、子どもたちが見つけた居場所 ——
那覇の子どもの居場所「にぬふぁぶし」を舞台にした、01 ENTERTAINMENT、チーム恵比寿の俳優たちによる群像ハートフルコメディ。
ある金曜日の17:00〜19:30、居場所のない人たちが、沖縄のおばあの厳しくて温かい食卓で「帰る方角」を見つけていく物語です。
日時:2026年6月6日(土) 13:00開演 / 16:00開演(2ステージ)
※当初6月7日(日)で告知しておりましたが、6月6日(土)に変更となりました。以前の日程でご予定くださっていた方、あらためてご確認いただけたら嬉しいです。会場:壺屋演劇場かさね(沖縄県那覇市壺屋)
上演時間:約70分
料金:大人2,000円 / 学生1,000円 / 小学生以下無料
主催:01 ENTERTAINMENT / チーム恵比寿
脚本:伊藤駿一・金井優
演出:西平寿久
▼ チケットのお申し込み・お問い合わせは下記のいずれかから
・Googleフォーム:https://forms.gle/52R7Zjs6CWisFGk86
・公式LINE:https://lin.ee/jbUrdeB


次回公演:『自治会パンデミック!』
「地域を応援する演劇」シリーズの次の公演です。1100世帯を抱える自治会で、実際に動くのはたった数人。崩れかけた自治会に、1人の若者が現れる——SNSやビジネスの力で改革が進む裏で、長年支えてきた人たちの「居場所」が消えていく。「数字か、つながりか」。対立する価値観の中で揺れる地域の、笑って泣ける群像劇です。
日時:2026年7月4日(土) 14:00開演 / 18:00開演、7月5日(日) 13:00開演 / 17:00開演(全4ステージ)
会場:壺屋演劇場かさね(沖縄県那覇市壺屋2-23-26)
料金:一般2,000円 / 学割1,000円 / 小学生以下無料(当日券は一般・学割ともに +500円)
脚本:かないゆう
演出:西平寿久
主催:01 ENTERTAINMENT
メイン出演:チーム大黒天 / Special Thanks:チーム恵比寿、01 ENTERTAINMENT(土曜クラス)
▼ チケット予約・お問い合わせは公式LINEから
https://lin.ee/jbUrdeB


【挑戦その2】「出張一人芝居」はじめます!
沖縄本島内であれば、どこへでも行きます。
観客が何名でも構いません。「たった1人」からでも、見たいと手を挙げてくださる方がいれば、あなたのためだけに、指定された場所へ伺って全身全霊で演じます。
「いっちーの一人芝居を見てみたい」「うちの場所でちょっと演じてみてよ」と思ってくださる奇特で温かい方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にご相談ください!
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