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縁切堂の憂鬱 #13

縁切堂の悔恨 3-3

 間違いなく、これは私の一族に課された「業」だ。
 人と人との思いを繋ぎ、そして、ときには、深すぎてしまった想いを断ち切る。
 人間関係とは、げに奇怪なもので、浅くても、深くても支障が生まれる。
 それらを丁寧に紐解き、多くの人に生きる希望を与える。

 「人紡ぎ」というのでしょうか?
 そんなことをどうやら、私の一族は古来より行ってきたそうだ。
 
 我が家名は「星野」。
 だが、これは忌み名だといわれている。

 本家名は、「星宮」。
 古くから星を使い、占星をもって人や国の運命を占い、導く役職についていた家だったと聞く。
 この昭和の現代で占いなど「眉唾」だと私も思っていたが、このちから、儀式・術式を祖父、父から継承し、それを目にしてからは信じざるを得なくなった。
 世には誠に奇怪な世界があるのだと、齢16の私は驚き、震えたものだ。
 
 我が家の家業は表向きには「良縁結び」の宮司。
 伴侶を見つけ、次代を宿し、代々家を継承していくことを静かに祈祷する。
 ときにはより強力なじゅのようなものも用いることもある。
先 祖から受け継がれた秘術を用いて、家と家、人と人を結んでいくのだ。
 

 この秘術には二つの顔がある。
 一つは、死者に想いを告げきれなかったものに、もう一度だけ、最後の「縁切の刻」を与えるもの。
 言ってみれば、それは「今を生きるもの」と「過去に生きたもの」の最後の橋渡しだ。
 この時間を「今をいきるもの」はしっかりと受け止めることで、新しい一歩を踏み出していくよう促す。
 
 誰しもに愛する人との別れの時間は訪れる。
 だが、その刻を「不本意で終えてしまう」こと、「未練があるまま」になってしまうことが世の中には非常に多い。
 これによる悔恨が後を引いてしまい、己が人生を崩してしまう人も多くはない。
 そこに手を差し伸べるのが、「縁切の刻」なのだ。

「人は自分のために、よりよき人生を生きなければならない」
 数代前の先祖は、そんなことを宣わったという。
 
 だが、その頃から裏稼業として、「縁切の刻」を高価な見返りとして受けるようになったと聞く。
 「縁切の刻」は、ある意味では人々の救済になるかもしれない。
 しかし、生者、死者ともに「知らない方がよい」ということもある。
 最後の時間を持たないことにより、心安寧にそのあとの人生を過ごしやすっくなることもあるのだ。

 生者の都合によって、死者が隠したかったことを暴かれる。
 これは、両者にとっても悲惨な結末が後に残るだけだ。
 そんなことをしっかりと見据えず、金儲けと御家を継続するために先祖がはじめた裏稼業に私は振り回されている。
 なんとも恨めしいことこの上ない。
 
 
 もっとも、忌むべきはもう一つの顔だ。
 昨今ではこちらの方を求める客が足を絶たない。
 こんなにも世の中は殺伐とし、人を貶めることを考える卑しい人間が多いことに我が心を閉じたくもなる。
 
 「縁切の刻」に対局するように存在する術式が、「縁組の刻」だ。

 むしろ、呪術といった方が的を射ているだろう。
 「良縁結び」程度であれば、ある意味、可愛いものだろう。
 それらを欲する二人の縁を結び、互いに納得ができるのであれば、幸せな生活に導くことができる。
 本来、祈祷などの類はこうあるべきなのだ。
 
 だが、「縁組の刻」は違う。
 この「縁組」をした互いを強烈に縛り、道を違えることを少しでも許さない。
 さらにはこの「刻」の強さゆえ、相手を束縛し、執着し、さらには、殺意を抱くほどの憎しみ、独占欲を生み出す。
 
 まさに「呪術」。
 「禁」を破れば、鬼畜生まで落ちるまでの「呪」をもって、相手を縛る。
 その効果は絶大で、「禁」を破った相手をどこまでも呪い続ける。
 我が「星宮」が、忌み名として「星野」を名乗り、世から消えた理由もここにある。
 
 
「旦那様、お見えになりました。奥の間に大蔵省事務次官殿、参られております」
 妻のてるが障子越しに声をかけてくる。

「うむ。わかった。支度をし、向かう。先方に失礼のないようにな」
 私は、そう告げると黄色い着物を纏い、黒い帯をきつく結ぶ。
 
 最近ではすこしだけ、変わる予兆を見せていただが、やはりこちらの着物に、袖を通すことが多い。
 それだけ世の中が欲するのは、「縁組の刻」なのだろうと思うと陰鬱な気持ちになる。
 平安、室町、鎌倉、江戸、明治、大正、昭和と時代が移り変わってきても、我が一族が常に必要とされ、そして、生かされているのにも暗い意味があるのだろう。
 
 私は烏帽子をかぶり、奥広間に向かう。
「また、我が一族が誰かの人生が狂わせる」
 心の深いところではわかっているつもりでも、もう足は止められない。
これからも永代、子々孫々を守っていくには、この儀式を続けていかなければならない。
 例え、子どもたちに、孫たちに、恨みを抱かれようとも。
 
 奥座敷の襖を開ける。
 そこには、数名の精悍な男たちが正座で私を待っていた。
 ススっと歩を進め、座す。
 
「星宮の頭首、せいと申します。『縁組の刻』を司っています。おちからになれるのであれば、当家、幸いにございます」
 低頭し、平伏する。
 
「ご当代のおちからをもって、内務卿を『縁組』し、失墜してもらいたい」 
 40がらみの男性が、私よりもさらに低頭し、発する。
 
 ああ、この国はどこまで、「呪」に取りつかれているのでしょうか。と、私は先ほどよりも深く暗い気持ちになるのでした。

(つづく)

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