雨女にだけ、雨が降る 〈雨女①〉
コンビニから雨に濡れた女性が立っているのが見えた。
“私”は濡れたTシャツに目を奪われ、われをわすれる。しかし、晴天の中、雨が降っているのは彼女にだけだった。
見ることは見られること、見えたならそれは在るということ。
初めてのことは、いつだってなんだか異常で、二回目からは現実になる。
そして次第に日常になっていく。
簡単なことを難しく考える「私」が正体不明の雨女に惹かれていくのは、童貞の肥大した妄想ゆえか、それとも、下心か、それとも雨女の呪いなのか。
見てしまったからには戻れない。
戻れないことに気づけない。
気づけないから日々は続く。
たとえそこに河童がいたとしても。
コンビニの店内の明かりが外にひろがっていく。
その光と翳りの境目で、雨が衰えきらない光をちらちらと跳ね返しながら、曖昧な塊をつくっている。
女のかたちに。
女のTシャツの内側では、かろうじて生き延びた空気が、水に叩かれ、追いやられ、つめたい肌に這へばりつかされながら、幾筋もの微かな稜線となって小さくゆるんだふくらみに集まっている。尾根の造った渓谷がそのままスカートのゴムの締めつけのほうまで伸び、川幅を広げながら水を運んでいった。
霧のような細かな雨が、ぽたりぽたりと形になり、足元の水たまりを叩いては揺らす。揺れるその小さな鏡が彼女の足元を写しているかどうかは、翳りの濃さに沈んでしまっている。
女は傘も差さずに、その体を濡れるがままにまかせたままに立っている。
それは、不意に訪れた人工の明るさに面食らって呆然としているようにも、あるいは、無防備に濡れたその体は店内の明るみを跳ね返すにはあまりに柔らかすぎて、彼女の来店のドラマがこの物語に拒まれているようにも見えた。
しかし今夜は、雨が降っていない。
彼女のまわりにだけ、ずっと、細かな雨が踊っている。
なるほど、店内に雨を降らさぬよう、彼女はガラス戸の向こうへは入らないのだ。と、結論がつくような、そんな優しい雨の降らせ方をしている。
もっとも、入ったところで、彼女の姿は、誰かに見えるのだろうか。
女はただ、大きな灯りをを見つめて立っている横顔になっていた。
横顔ならば、行き先があり、その行き先は。
——からあげクンだったのだ。
なぜ解るのか。
それは、直接聞いたからである。
「私の胸、めっちゃ見てましたよね」
とも言われたのである。
私と雨女が出会った最初の日のことであった。
***
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スピンオフ
