三題噺ショートショート_君の名は
落語家もすなる三題噺といふものを、コジも、してみむとてするなり。
企画もの、大の苦手なのである。
どんな親しい人の企画ものでも、なかなか素直には乗れない。
私は、「ルール」とか「決まり事」とか「期限」とか「締め切り」とかという制限事項が世の中で一番嫌いなのだ。
いくつになろうが、聞かん坊の悪ガキ。それが、私、kojuroだからである。
え?落語?三題噺?ヤスシさん?

心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
コジ、別名、天の邪鬼志朗だろ。「もし書けなかったとしても、それはそれでOK。でも、やってみなきゃ、もったいない!」なんてこと言われたら、逆に書きたくなるんじゃないの?
なんのはなしですか。

わかったよ、書くよ。書く書く。書けば良いんでしょ、リトル。それで、いいんだろ?
ブラックホールよりも重い重い重い腰を上げて、半ば自暴自棄に筆を執る。
さて。では、三題噺ショートショート「君の名は」まいりましょうか。

穣は野球部で。真面目な努力家タイプだったのだが、なぜだか目立たない不思議な存在だった。
成績はかなり良く。国立の法学部に現役で進学し。一発合格で弁護士になったとは聞いていた。
俺は定年退職を迎えて。最後の出張で六本木ヒルズに行ったとき、呼びかけられた気がして振り返ると、そこに笑顔の穣がいた。
穣は唐突に、こう言った。
「パンケーキ食べたいんだ」
そういや、俺達は筋金入りの甘党だったのを思い出した。
遅れ馳せながらの名刺交換をすると、穣の肩書きは有名な弁護士事務所の所長だったので、大いに面食らってしまった。
BGMが流れていた。
「……透明人間、そう呼ばれてた……」
穣は徐に呟いた。
「娘が乃木坂46が好きでね。この曲、よくかかっているよ。聞いてて、これ、昔の俺のことだって思ったんだよね」
それから穣との思い出が次から次へと湧き出てきて。二人で笑いながら時間を過ごした。
別れるとき、握手をした。
穣の手には確かに、希望の温もりがあった。

そんなこんなを家内に語ろうとして後ろを振り向くと、空のソファーが、静かに笑っていた。
先日から家内は、あるプロジェクトで、ローカルのホテルに泊まり込んでいる。
シーンとした部屋の空気に、なんだか、心が追いつかない。
昼間のやりとりからすると、家内は、元気なようである。
マッサー(注1)は無いが、家内が元気だと、我が家は、明るくて平和である。
だから。
これで、いいのだ。

(注1)マッサーとは、マッサージのことである。家内のさっちゃんがそうやって、略して言うのである。さっちゃんへのマッサーは私の最重要の日課である。
俺にしちゃあ、三題噺も、けっこう書いたは書いたが。ムズい。ムズすぎる。笑


