三題噺ショートショート_幻
落語家もすなる三題噺といふものを、コジも、してみむとてするなり。
企画もの、大の苦手なのである。
どんな親しい人の企画ものでも、なかなか素直には乗れない。
私は、「ルール」とか「決まり事」とか「期限」とか「締め切り」とかという制限事項が世の中で一番嫌いなのだ。
いくつになろうが、聞かん坊の悪ガキ。それが、私、kojuroだからである。
え?落語?三題噺?ヤスシさん?

心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
コジ、別名、天の邪鬼志朗だろ。「もし書けなかったとしても、それはそれでOK。でも、やってみなきゃ、もったいない!」なんてこと言われたら、逆に書きたくなるんじゃないの?
なんのはなしですか。

わかったよ、書くよ。書く書く。書けば良いんでしょ、リトル。それで、いいんだろ?
ブラックホールよりも重い重い重い腰を上げて、半ば自暴自棄に筆を執る。
さて。では、三題噺ショートショート「幻」まいりましょうか。

匠は、動物占いで「虎」と判定された。虎は信頼と誠実の象徴だという。
成績優秀、エースで四番のキャプテンと来れば、誰ひとりその見立てに抗うものはいなかった。
高三の夏、我が部は五回戦まで進み。あとひとつで決勝進出だった。
匠はプロスカウトが見に来るくらいの逸材だったから、誰もが本気で夢を見た。
ところが。
準決勝のマウンドには、匠の姿は無く。まさかのコールド負けを喫したのである。
匠はその朝、歯磨きのときにぎっくり腰となり。雪の降る季節までリハビリを余儀なくされた。
それまでの匠の積み上げもあり、誰もが口をつぐんでいたのだが。ある年OB会で同期が集まったとき、とうとう晴男が事を起こした。
晴男は控え投手で。あの日緊張の余り制球が定まらず、火達磨になった男である。
晴男は匠の襟首を両手で掴んで言い放ったのだ。
「犯人は、あなたです!」
一瞬の間の後。二人は抱き合って号泣し。やがて泣き崩れた。
つくづく。
思い出はほろ苦く。そして、美しい。

そんなこんなを家内に語ろうとして後ろを振り向くと、空のソファーが、静かに笑っていた。
先日から家内は、あるプロジェクトで、ローカルのホテルに泊まり込んでいる。
シーンとした部屋の空気に、なんだか、心が追いつかない。
昼間のやりとりからすると、家内は、元気なようである。
マッサー(注1)は無いが、家内が元気だと、我が家は、明るくて平和である。
だから。
これで、いいのだ。

(注1)マッサーとは、マッサージのことである。家内のさっちゃんがそうやって、略して言うのである。さっちゃんへのマッサーは私の最重要の日課である。
俺にしちゃあ、三題噺も、けっこう書いたは書いたが。ムズい。ムズすぎる。笑

