見出し画像

病院幹部のための令和8年度診療報酬改定慢性期:療養病棟編 第33回

第33回 2040年、療養病床は地域インフラになる──生き残る病院が選ぶ経営戦略

30回にわたる「令和8年度診療報酬改定シリーズ」を書き終えたあと、多くの先生方からご意見をいただきました。

その中でも印象に残った質問があります。

「結局、療養病床はこれからどうなるのでしょうか。」

前回は、療養病床の経営で私が最初に見る5つの数字についてお話ししました。 今回は、この追加シリーズの締めくくりとして、もう少し大きな視点で考えてみたいと思います。

2040年、療養病床はどのような役割を担うのでしょうか。

私は、この問いは「療養病床が残るかどうか」ではないと考えています。

本当に問われるのは、
「あなたの病院は、2040年の地域で必要とされる存在になれるか。」
ということです。

「療養病床は減る」という議論だけでは本質を見失います

療養病床を巡る議論では、
・病床削減 ・介護医療院への転換 ・医療費抑制
こうした言葉が先行しがちです。

もちろん、これらは政策の方向性として事実です。
しかし、その一方で忘れてはいけない現実があります。
2040年には、高齢者人口は高い水準を維持し、85歳以上人口はピークを迎えます。

認知症患者は増えます。
独居高齢者も増えます。
介護人材は不足します。
急性期病院は在院日数をさらに短縮します。

つまり、長期療養を必要とする患者は減りません。

むしろ、受け皿の重要性は今以上に高まります。

私はそう考えています。

地域医療は「一本の流れ」で考える時代になります

これまで病院は、
急性期 回復期 療養 在宅
それぞれが独立して考えられることが少なくありませんでした。

しかし2040年は違います。
患者は地域の中を一つの流れとして移動します。

救急搬送される 急性期病院で治療を受ける 回復期へ移る 療養病床へ移る 在宅へ戻る あるいは施設へ入所する

この流れのどこか一つでも止まれば、地域全体が機能しなくなります。
療養病床は、その流れの最後ではありません。

地域医療の流れを支える中継地点です。

療養病床が地域インフラになる理由

インフラとは何でしょうか。
道路、水道、電気。 普段は意識しませんが、止まると社会全体が困ります。

私は、療養病床も同じ存在になると考えています。
例えば、レスパイト機能の強化、看取りの質の向上、あるいは後方支援としての数値的貢献度(急性期のベッド回転率を支えるとか)など。
また介護施設同様に、家族の介護離職を防ぐ視点も大切です。

急性期病院だけでは地域医療は成り立ちません。
在宅医療だけでも支えきれません。
介護施設だけでも対応できません。
その間を埋める存在が必要です。

だから療養病床は、「最後の病床」ではなく、
地域医療を支えるインフラになるのです。

生き残る病院には共通点があります

これまで多くの病院を見てきました。
規模も地域も違います。
しかし、生き残る病院には共通点があります。

・急性期病院との関係が深い
・介護施設と情報共有している
・訪問看護との連携がある
・地域包括支援センターと顔が見える
・行政との対話がある

つまり、病院の中だけで経営していません。
地域全体を見ています。
療養病床も同じです。

病棟運営だけを考えている病院は苦しくなります。
地域全体を支えている病院は選ばれます。

「転換するか、維持するか」が本当の論点ではありません

最近、「介護医療院へ転換すべきでしょうか」という相談を受けます。
しかし私は、最初にこうお聞きします。
「地域は、あなたの病院に何を求めていますか。」

その答えがなければ、
・医療療養を続けるべきか
・介護医療院へ転換するべきか
・地域包括ケア病棟へ再編するべきか
判断できません。

制度に合わせて病院を変える。 その発想では遅れます。
地域に必要な機能を考え、 制度を使って実現する。
私は、その順番が重要だと思っています。

これからは「病床」ではなく「経営モデル」を変える時代です

令和8年度改定以降、制度はさらに変わります。
2040年に向けて、病床再編も続くでしょう。
しかし、本当に変えなければならないのは病床ではありません。

経営モデルです。

患者を待つ経営。 紹介を待つ経営。 制度改定を待つ経営。
こうした時代は終わります。

これからは、
地域の課題を見つけ、 役割を決め、 数字で検証し、 必要なら事業を組み替える。そんな経営が求められます。

事業再生の現場で感じること

私はこれまで、病院の事業再生にも携わってきました。
再生が成功する病院には共通点があります。

赤字だから変わるのではありません。
未来を見て変わる。
これができています。

逆に苦しくなる病院は、
「まだ大丈夫」 「もう一年様子を見よう」
その繰り返しです。

制度改定を待つ。 補助金を待つ。 景気回復を待つ。
しかし、人口構造だけは待ってくれません。

だから私は、2040年を見据えて経営を考えることが、最大のリスク対策だと考えています。

REGENが考える病院再生

私は病院再生を、コスト削減だけだとは考えていません。 赤字を黒字にするだけでもありません。

本当に目指すべきなのは、地域で必要とされ続ける病院をつくること。

そのためには、
・管理会計 ・資金繰り ・組織づくり ・人材育成 ・事業ポートフォリオ ・M&A ・病床再編
これらを一体で考える必要があります。

療養病床も、その一部です。

最後に──病院を残すのではなく、地域を残す

このシリーズでは、令和8年度診療報酬改定から始まり、 管理会計、予算管理、キャッシュフロー、事業再生、療養病床まで、 さまざまなテーマを書いてきました。

共通して伝えたかったことがあります。

病院経営で最も重要なのは、診療報酬を読むことではありません。
地域の未来を読むことです。
病院は地域のためにあります。 だから病院が残ること自体が目的ではありません。

地域に必要な医療を残すこと。 その結果として、病院が選ばれ、職員が集まり、患者から信頼される。
私は、それが本当の病院経営だと思っています。

2040年。 療養病床は今より少なくなっているかもしれません。

しかし、地域で本当に必要な療養病床は、今より価値が高くなっているはずです。

そして、生き残る病院を分けるのは病床数ではありません。 診療報酬でもありません。

地域から「この病院があるから安心だ」と思われる存在になれたか。

その一点だと思います。

おわりに

30回の「令和8年度診療報酬改定シリーズ」、そして追加3回の療養病床編を通じて、一貫してお伝えしたかったのは、制度は目的ではなく手段だということです。

私は、診療報酬の点数だけを追いかけるコンサルティングには限界があると考えています。

経営数字を読み、将来の人口構造を見据え、地域で果たすべき役割を再設計する。

その先にあるのが、病院の持続可能性です。

もし、「自院の役割をどう定義すればよいか分からない」 「管理会計を経営に活かせていない」 「病床再編や事業戦略を客観的に整理したい」

そう感じることがあれば、一度立ち止まって病院全体を見直してみてください。

病院再生は、赤字になってから始めるものではありません。

未来が見えているうちに始めるものです。

その一歩が、10年後、20年後の地域医療を支える力になると、私は信じています。

医療・介護の経営支援やM&A支援について発信しています。 フォローいただけると新着記事が届きます。

病院幹部のための令和8年度診療報酬改定

「病院選別」シリーズ

第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由

病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む

第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている
第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営 
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件

病院幹部のための令和8年度診療報酬改定追記 慢性期:療養病棟編

第31回 療養病床は本当に必要なくなるのか──令和8年度改定が示した「長期療養」の未来
第32回 療養病床の赤字は制度のせいではない──私が最初に見る5つの数字


いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー