55歳、俺、母になる!?①【#創作大賞2025#エンタメ原作部門】
あらすじ
「これだから女は──」が口癖の55歳男・健一は、泣く子に舌打ちし、子育ては妻任せの“母性ゼロ男”。
そんな彼がある日突然、妊娠中の女性の体で目を覚ます——つわりに耐え、体も心も少しずつ“母”になっていく日々。
この体の持ち主・美弥が抱えていたのは、誰にも頼れない孤独と、子どもを守る覚悟だった。
「母性は、生まれつきのものじゃない。選んで、踏み出して、育てていくものなんだ」
そんな想いに気づいたとき、健一の人生もまた、
新しく生まれ変わっていく。
——これは、母になることの痛みと強さを知る、
すべての人に贈る“再出発”の物語。
「……育休をとりたい?」
部下の佐藤が提出した申請書を見つめながら、健一は低く問い返した。
「……はい。産後の妻の体調があまり良くなくて、できれば一ヶ月……」
健一は無言でため息をついた。
部下を見下ろし、
肘をついて申請書をトントンと叩く。
「まあ、ルールだからな。仕方ない…な……」
承諾の言葉とは裏腹に、
声には不満と威圧感がにじんでいた。
「で? 男で育休とって、何するんだよ?」
その問いに、佐藤は苦笑いしながら、
気まずそうに言葉を返した。
「まあ、手伝えることは全部……沐浴とか、夜泣きとか……いろいろですね…」
健一は無言で申請書に目を通し、
渋々といった手つきで判を押した。
──昼下がり、事務の女性・田中が申し訳なさそうに声をかけてきた。
「すみません……保育園から連絡があって。子どもが熱を出しちゃって、早退させてもらえませんか?」
「ああ、またか……」
健一は心の中で呟いた。
顔には出さないが、奥歯を噛みしめている。
田中なりに、周囲に負担をかけている自覚はあるようだ。
しかし、それでも健一の中にある、
“これだから女は”
という感情は消えない。
「……はいはい、わかった」
(これだから仕事より家庭を優先する女は使いにくいんだよな…)
口では許可を出しながらも、
吐き捨てるような口調でそう言った。
【その日の夜】
健一は疲れた身体を引きずりながらバスに乗り込んだ。
そして、妻の由美にスマホでメッセージを送っていた。
《 明後日、高いスーツ着るからクリーニング取ってきておいて 》
通知音と共に返ってきたのは、あっさりした返事。
《 明日は無理よ、パートのシフトあるから 》
「…は?時間あるくせに…なんだよ…」
スマホを握りしめ、舌打ちが漏れた。
「チッ……」
しばらくするとバスの後方で、
小さな子どもが泣き出した。
神経を逆撫でする甲高い声に、
健一は顔をしかめた。
母親が必死にあやしているが、
泣き止む気配はない。
「……勘弁してくれよ…」
健一は窓の外に目を向け、降りるには1つ早いが
苛立ちを抑えきれず席を立ち、バスを降りた。
歩き出しても苛立ちは収まらず、
スマホを握りしめたまま、
信号を無視して横断歩道へ──
「──っ!!」
クラクションと同時に、視界が真っ白に弾けた。
***
「おーい、生きてるかー?」
遠くから声が響いてくる。
健一が目を開けると、
そこはふわふわとした光に包まれた空間だった。
「ようやく目覚めたか。いやー、派手に跳ねられたねぇ。びっくりしたよ、ワシも。」
サングラスをかけた白髪混じりの男性が、ハワイアンシャツでバカンス気分満載に立っていた。
「……誰だ、お前」
「神だよ、神。ま、説明はあとにして。キミ、ちょっと人生やり直した方がいいって話になってね」
「はあ?」
「 『これだから女は』って口癖だったよね? 子ども泣いてたら舌打ちして睨んで、家では子育てノータッチ。部下にも冷たいし、奥さんにも偉そう。
どう考えても、思いやりってもんが足りないのよ」
健一は唖然としていた。
「ってことで、“母として” 人生を生き直してもらうよ」
「は? 母って……女ってことか?」
「ご明察。場所も時代も今のまま。
たっぷり学んでくれ。母性ってやつを… 」(ニッコリ)
「ふざけ──」
言葉を吐きかけた瞬間、視界がぐらりと揺れた。
***
ツンと鼻をつく匂いに、意識がはっきりしてくる。
「……くっ……なんだこの匂い……
どこだ……ここ……」
見知らぬ部屋の天井が目に映る。
淡いピンク色の布団に寝かされていた健一は、
周囲を見渡し、立ち上がる。
窓を開けると、
どこかから米の炊ける匂いが漂ってきた。
その瞬間、
胃の奥がぐらりと揺れる。
「うっ……!」
吐き気に襲われ、
よろよろとトイレを探し、駆け込む。
便座を上げた途端、激しく胃の中を吐き出した。
なんとか吐き終えて洗面所へ向かうと、
鏡の中には──
見知らぬ、やつれた若い女性の姿。
「………だ……誰だ、これ……」
鏡に映る顔に、愕然とする。
健一の、“母としての”新しい人生が、
ここから始まる──
──第②話へつづく
~~お話一覧~~
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第③話
第④話
第⑤話
第⑥話
第⑦話
第⑧話
第⑨話
第⑩話
第⑪話
第⑫話
第⑬話
第⑭話
第⑮話
第⑯話
第⑰話
第⑱話
第⑲話 (完)
