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心配性な藤枝先生の投資入門講座~こんにちは、ボラティリティ~ #01

あらすじ

心配性な大学講師・藤枝拓己が企画した投資入門講座に、姪の優佳、真面目な花音、ギャンブル気質の村上、途中参加の岡田の4名が参加。

新型コロナで急遽オンライン授業となる中、投資の基礎から口座開設、銘柄選定まで学んでいく。学生たちは互いに支え合いながら投資家デビューを果たすが、市場のボラティリティに翻弄される。

心配性の藤枝は投資だけでなく、学生たちの関係性にも不安を募らせていく。NISAやポートフォリオ構築など実用的な投資知識を織り交ぜながら、学生たちの成長と藤枝の抱える不安が交錯する。
藤枝の最大の心配の正体とは――。

投資入門書でありながら青春群像劇として楽しめる一作。

プロローグ きっかけ

2024年11月 とある高校

「本日は、ファイナンシャル・リテラシーの重要な要素である投資の基礎についての授業となります」

体育館に響く藤枝拓己(ふじえだたくみ)の声に、高校生たちの視線が集まった。

藤枝は壇上から生徒たちの表情を見回しながら、投資の基礎的な内容について授業を情熱をもって行った。

「まずは、なぜ投資が必要かというところから...」

「...ということで、投資って、ギャンブルとは違うんです...」

「...リスクとリターンには必ず関係があります。そして、正しい知識を身につければ、リスクはコントロールできるんです...」

午前の2時間を割り当てられた、この特別な授業は想定以上に高校生の心を掴んだようだった。

藤枝の言葉一つ一つに、真剣に耳を傾ける生徒が多くいた。最初は退屈そうにしていた生徒の一部も『複利効果』『新NISA』の説明あたりから顔を上げる割合が増えていった。

「皆さんが社会に出る頃には、もっと投資が身近なものになっているでしょう。今年は新NISA元年です。制度も整備され、皆さんの世代こそが新しい時代の資産形成の主役になるのです」

最後の質問タイムでは予想以上に活発な議論が展開された。

「先生、投資で失敗したらどうなるんですか?」

「良い質問ですね。残念ですが、失敗はするものとして考えましょう。失敗とその裏にあるリスクを適切にコントロールすることが重要です。そのための準備ができていれば失敗しても制御できる範囲にあるから大丈夫なのです。そのためには、しっかりと学ぶ必要があります」

「僕たちの年齢から始めるメリットってありますか?」

「時間という最大の味方がついています。複利効果を最大限活用できる年齢です」

そして、質問の中でも特に印象深いやり取りがあった。

「高校生よりも一般の大人に教えたほうが良くないですか?」

藤枝は少し考えてから、これまで胸の奥に秘めていた思いを率直に語った。

「実は私には、経済の力で社会をもっと良くしたい、という大きな目標があります。閉塞感の見える日本において、経済が活性化すれば、雇用も生まれるし、技術革新も促進される。社会全体が豊かになるんです」

藤枝の声に熱がこもった。

「でも、それを実現するには、皆さんのような若い世代が経済やお金について正しく理解することが不可欠なんです。大人になってから慌てて学ぶのではなく、今のうちから基礎を身につけてほしい。皆さんが将来、日本の経済を支えるリーダーになってくれることを期待しています。なので大人ではなく、君のような高校生に伝えに来たのです」

体育館内が静まり返った。生徒たちは藤枝の真剣な表情と情熱的な言葉に圧倒されていた。

授業終了後の昼休みにも、何人かの生徒が質問に来たくらいだ。熱心にメモを取っていた生徒、最後まで真剣に聞いていた生徒、それぞれが藤枝の言葉に何かを感じ取ってくれたようだった。

それらの生徒たちの真っ直ぐな目は、28歳の藤枝には眩しく見えた。自分の言葉が確実に届いているという手応えを感じながら、藤枝は教育者としての深い充実感に包まれていた。


2026年4月9日 木曜日 経済学部 長谷川教授室

藤枝は大学の講師であり、経済学部の直属の上司である長谷川教授と、明日から始まる試行的な取り組みである、『投資入門実践講座』に対する最後の事前打合せをしていた。

忙しい長谷川教授の空き時間が前日しかなかったことに藤枝は少し焦っていた。この打合せで長谷川教授から無茶な宿題がでてしまうことが、藤枝の直近の心配であった。

そんな二人は、打合せの冒頭において、藤枝が2年前に実施した高校生向けの特別授業について振り返っていた。

高校生向けのこの特別授業は、2年前に長谷川教授との企画で、藤枝の母校での高校生向けに実施したものだ。

「あの時のアンケート結果、本当に驚きましたね」

長谷川教授が当時の資料を開いた。

「『投資への偏見が変わった』『将来のために勉強したい』『大学でも学びたい』...78%以上が前向きな回答でした」

「生の声が一番説得力がありましたね。『投資=怖いもの』という先入観が、正しい知識でこんなに変わるものかと」

藤枝は当時のことを思い出していた。あの日の高校生たちの真剣な眼差し、質問タイムでの活発な議論、そして授業後に寄せられた数々の感想。

「私はこの反響を受けて、実践的な投資教育の必要性を確信し、大学での取り組みを進めました」

長谷川教授は【トライアル:投資入門実践講座】と書かれた資料を眺めながら頷いた。

「調整、準備に労力がかかりましたが、長谷川先生のご尽力により、明日から無事に始めることができます」

長谷川教授は微笑んだ。

「藤枝君の努力の賜物だよ。...それにしても、意外と大変だったねぇ。堀内先生も協力してくれたからなんとかなった。彼には借りを作ってしまったなぁ」

藤枝は続けた。

「今回の講座は、理論だけでなく実際に口座開設から投資まで体験してもらう、という試みも含みます」

「以前にお伝えしたとおりですが、試行的であることもあり、少人数ですが意欲的な新入生が3名集まりました。内1名は私の姪となりましたが、身内には厳しく指導するつもりです」

「トライアルであれば3名くらいがちょうど良いと思います。身近な人への指導は、かえって難しい面もあると思うので十分に注意してくださいね」

「そうですね。不公平感を出さないように、公正にしっかりと指導したいと思います」

「なお、少人数とはいえ、学生たちの資産に影響する重要な講座です。その点は十分に認識したうえで実施してくださいね」

長谷川教授が時計を見た。

「もう夕方ですね。明日からの講座、楽しみです」

「はい。ありがとうございます!」

藤枝は特に宿題もなく明日を迎えられる点について心底ホッとしたものの、『学生たちの資産に影響する重要な講座』という教授の言葉は重く響いていた。

今回のトライアルを成功させて正式な講座とすることは、経済の力で社会を良くすることの第一歩と捉えていた。そして今回の講座の成功には、学生たちの資産への影響があり、そのため学生において正しい投資の理解が必要不可欠となる。

『学生に正しく投資を理解してもらう』

このことが藤枝が達成すべき事項であり、その実現性が最大の心配事項であった。3名という少人数だからこそ、一人ひとりを確実に成功させなければならない。

窓の外では桜が満開に咲いていたが、黒い雲が空を覆っていた。
今にも雨が降りそうであった。


#02:第1章 投資入門講座へようこそ


#03:第2章 大切な基盤づくり


#04:第3章 新しい仲間


#05:第4章 投資信託って何だ


#06:第5章 体調不良でお休み


#07:第6章 それぞれの過ごし方


#08:第7章 株って何だ


#09:第8章 ETFって何だ


#10:第9章 税金の優遇制度と口座開設


#11:第10章 新NISAを学び、実践へ


#12:第11章 投資家デビュー


#13:第12章 資産管理とポートフォリオ構築


#14:第13章 市場の洗礼


#15:第14章 みんな投資家だよ


#16:第15章 そうだったのか


#17:エピローグ こんにちは、ボラティリティ


★#01, プロローグ, https://note.com/chokozai/n/n7c341cddedc4
#02, 1章, https://note.com/chokozai/n/n21181a368ec3
#03, 2章, https://note.com/chokozai/n/n0a68b769a8dd
#04, 3章, https://note.com/chokozai/n/n57828d00edb3
#05, 4章, https://note.com/chokozai/n/n21b8ac2af8be
#06, 5章, https://note.com/chokozai/n/n42cd7f162fde
#07, 6章, https://note.com/chokozai/n/n2e058ee72421
#08, 7章, https://note.com/chokozai/n/nbb54d76f3a23
#09, 8章, https://note.com/chokozai/n/neda9d56fcf79
#10, 9章, https://note.com/chokozai/n/n74b172c91069
#11, 10章, https://note.com/chokozai/n/nacafa95d046b
#12, 11章, https://note.com/chokozai/n/n89af353420e1
#13, 12章, https://note.com/chokozai/n/n6e2b703b9166
#14, 13章, https://note.com/chokozai/n/n394f01a5e278
#15, 14章, https://note.com/chokozai/n/n3ee776f29d13
#16, 15章, https://note.com/chokozai/n/n44b39117da51
#17, エピローグ, https://note.com/chokozai/n/naf7a4ec3e2ac

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