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心配性な藤枝先生の投資入門講座~こんにちは、ボラティリティ~ #08

(↑こちらが最初です。ぜひ、最初からお読み下さい。)

第7章 株って何だ

2026年6月5日 金曜日午後(第5回講座)

「皆さん、こんにちは。お久しぶりです」

藤枝の声がオンライン画面から響いた。3週間ぶりの講座再開。画面には完全に回復した藤枝の顔が映り、右下に4人の学生の顔が並んでいる。

「まず、この3週間で感染状況について報告しておきましょう。全国的には日々2万2千人程度の新規感染者が報告されており、5月初旬とほぼ横ばいで推移しています。一方で大学では現在75名ほどの感染者が確認されており、3週間前の25名から3倍に増加している状況です。感染拡大防止のため家族以外との物理的な接触は避けることは引き続き継続してください。大学内での感染拡大が顕著になっています」

「その中で、感染された皆さんの体調はいかがですか?私も含めて、岡田君、村上君、藤枝さん、全員が回復されて本当に良かったです」

学生たちも全員の復帰を喜んでいた。

藤枝は学生たちの顔を一人ずつ見回した。画面の中の彼らはリラックスしつつも前向きに学ぶ姿勢をみせていた。

「吉井さんは感染せずに済んで良かったですね。皆さんの連絡係として大変だったでしょう」

「いえいえ、大したことないです!みんなが早く良くなって欲しくて」

「吉井さん、ありがとうございました。私を含めて皆さんが大変助かりました」


「それでは、予定していた『株式投資の概要と銘柄選定の考え方』について学んでいきましょう」

藤枝は画面共有を開始し、資料を表示した。

「株式投資は企業の所有権の一部を購入する投資です。企業の成長と一緒に資産を増やす投資方法で、キャピタルゲイン(値上がり益)とインカムゲイン(配当金)の2つの利益が期待できます」

花音が積極的に質問した。

「株式投資って、投資信託より難しそうですけど...」

「確かに個別企業の分析が必要になるので、投資信託より複雑です。実際、プロでない個人が個別の会社を選別するのは、とても難しいことなんです」

岡田が自然に口を挟んだ。

「花音さんの質問、核心をついていると思いました。企業分析って奥が深いし、財務諸表を読むだけでも結構大変です」

「岡田君は詳しいですよね。隔離中にチャットで教えてもらった話、勉強になりました」

優佳も頷いた。

「私も岡田君から色々教えてもらいました。投資って奥が深いんですね」

藤枝は穏やかな表情で話した。

「皆さん、熱心に勉強されていたんですね」

しかし内心では気持ちが重くなった。学生たちの親密度合いの高さは、岡田を起点としていることが気がかりだった。

「みんなで教え合っただけですよ。皆さんが色々質問してくれたおかげで、僕も復習になりましたし、優佳さんも先生から学んだことを教えてくれましたし」

岡田も穏やかな表情で答えた。


「株式投資で得られる利益について詳しく説明しましょう」

藤枝は図を示しながら続けた。

「キャピタルゲインは、株価が上昇したときに売却して得られる利益です。例えば100円で買った株が150円になったときに売れば50円の利益ですね。インカムゲインは配当金のことで、会社が利益の一部を株主に還元するお金です。年1〜2回支払われることが多いです」

花音がメモを取りながら質問した。

「どちらの方が初心者には向いているんですか?」

「どちらも大切だと思います。ただし、短期的な値上がりを狙うより、長期保有することで利益を得る方向で考えるようにしてください。短期勝負は初心者には向きません」

「ああ、長期投資の考え方ですね。確かに、焦らずじっくり投資する方が良さそう」

「株式投資の最低投資金額は数万円〜数十万円程度ですが、最近は1株から買えるサービスもあるので、少額でも始められるようになりました」


「次に、株式投資の分析手法について説明します。主に2つのアプローチがあります。ファンダメンタル分析とテクニカル分析です」

藤枝は図を示しながら説明した。

「ファンダメンタル分析は会社の業績や財務状況を分析する手法で、売上高、利益、財務の健全性などをチェックします。中長期投資に向いています」

優佳が興味深そうに聞いた。

「PERとかPBRって言葉を聞いたことがありますが、それもファンダメンタル分析ですか?」

「そうです。PERは株価収益率で、株価が利益の何倍かを示します。PBRは株価純資産倍率で、株価が純資産の何倍かを示す指標です」

岡田が補足した。

「一般的にPERが15倍以下なら割安、25倍以上なら割高と言われることが多いと書籍から学びました。ただ、PERが低いからって単純に割安とは言えない、で正しいですか?」

「岡田君、補足説明ありがとうございます。そして岡田君の言っていることは正しいです。業種による特性もあったり、業績の変化によって見え方が変わったりするので、単純には考えることはできません。また、一つの指標だけでなく、複数の指標を総合的に判断することが大切です。そして、将来のことなど指標に現れないことも当然ありますので指標以外についての企業分析も必要でしょう」

花音も頷いた。

「単純じゃないんですね、株式投資って...。複合的に判断することが重要なんですね」


「もう一つのテクニカル分析は株価チャートの動きを分析する手法で、過去の値動きから今後の方向性を予測します。移動平均線やMACDなどの手法があり、短期売買に向いています」

岡田が少し眉をひそめながら言った。

「テクニカル分析は難しそうですね。チャートを見るのは面白そうですけど」


「では、銘柄選定のアプローチについて説明しましょう」

藤枝は4つのアプローチを示した。

「身近な優良企業から始める方法、高配当株投資、成長株投資、そしてインデックス投資です」

花音がメモを取りながら質問した。

「身近な企業っていうのは、どういう意味ですか?」

「普段使ってる商品やサービスの会社のことです。花音さんが良いと思う商品なら、その会社の株も上がる可能性があるかもしれません」

「なるほど、身近なところから始めるのは良いアプローチですね」
「確かに。私がよく使ってるスマホの会社とか、気になってきました」

他の学生たちも頷いた。

花音が少し考えてから言った。

「確かに投資を身近に感じられそうですね!」

藤枝は説明を続けた。

「身近な企業から始める以外にも、投資スタイルによって選択肢があります。高配当株投資は配当利回りが3〜5%程度の安定した企業に投資する方法で、インカムゲイン重視の投資スタイルです。成長株投資は売上や利益が継続的に成長している企業に投資し、キャピタルゲイン重視の投資スタイルですね」

「そして、インデックス投資というアプローチもあります。これは日経平均やTOPIXに連動するETFに投資する方法です。分類上は株式投資ですが、ETFは次回で説明するので個々では割愛します」

優佳が質問した。

「4つのアプローチのうち、どれが初心者には向いているんですか?」

村上が少し考えてから発言した。

「高配当や成長株投資はうまく行けばワクワクなのでしょうが、先程の話だといきなり個別企業を分析するのは大変そうですね」

岡田も続いた。

「慎也の言うとおりかも。身近な企業から始めるのは分かりやすいけど、そもそも個別株は難しそうですね。一方、インデックス投資なら分散効果もあるし、初心者には良いかもしれません」

花音も岡田の意見に賛同した様子で頷きながら発言した。

「まずはインデックスで全体を理解してから、個別株に挑戦する方が良さそうですね!」

藤枝は、学生たちの議論が終わったことを確認してから発言した。

「良い議論ができたようですね。まずはインデックス投資から始めて、投資経験を積んでからしっかりと研究した後に個別株に行くことを個人的には推奨します」


「最後に、株式投資のリスクと注意点について説明します」

藤枝は主なリスクを列挙した。

「価格変動リスク、個別企業リスク、流動性リスク、為替リスクなどがあります。特に個別企業リスクは重要で、企業の業績悪化や不祥事により大きな損失を被る可能性があります。最悪の場合、倒産でゼロになることもあります」

村上が真剣な表情で聞いている。

「投資額がゼロになるリスクもあるということですね。でも逆に言えば、それだけ大きなリターンも期待できる...?」

そう言ってから、慌てたように付け加えた。

「いえ、リスク管理が一番大切ですよね」

藤枝も他の学生たちも村上のお約束に少し安心した感じで微笑んだ。

「そのとおりです。だからこそ、分散投資が重要なんです。一つの銘柄・業種に集中投資しないことが大切です」

「リスク管理は投資の基本ですもんね」岡田がさらっと補足した。

「株式投資を始める前のチェックポイントとして、余裕資金で投資すること、分散投資を心がけること、長期投資を基本とすること、損切りルールを決めること、継続的に勉強することが重要です」

花音が心配そうに言った。

「損切りルールって何ですか?」

村上が前のめりになって興味深そうに言った。

「損失が確定してしまうんですよね?逆に、大きく利益が出る可能性もあるんじゃないでしょうか...」

「投資額の何%下落したら売却するかを事前に決めておくことです。感情的な判断を防ぐために重要なんです」

優佳が理解を示した。

「感情的にならずに、冷静に考える必要がありますね。でも、その冷静な判断って、実際にお金が動くと難しそうですよね」

藤枝は真剣な表情になった。

「そのとおりです。特に個別株の短期投資について、重要なことをお話ししておきましょう」

藤枝は学生たちを見回しつつ、一呼吸を置いてから続けた。

「短期間での個別株投資は、ゼロサムゲームとなります」

村上が興味深そうに聞いた。

「ゼロサムゲームって何ですか?」

「参加者の得と損が合計で常にゼロになる、つまり誰かの利益が別の人の損失となるゲームのことです。サイズが固定されたピザの奪い合いをイメージするとわかりやすいでしょうか」

花音が大きくうなずいてから言った。

「なるほど、全体のパイが決まっているということですね!」

「そうです。つまり、短期売買での個別株投資は、投資のプロたちと戦ってトータルで勝つ必要がある非常に難しい勝負となります」

優佳が心配そうに言った。

「プロと戦うって、初心者には厳しそうですね」

「はい。厳しい戦いになると思います」

「一方、長期投資は異なります。資本主義と人口増加に伴い、枠の拡大が期待される中での勝負となります。こちらのピザは拡大するのです。市場が拡大する状況下では、市場に連動するインデックスファンドを活用することは理にかなっていると思います」

岡田が納得したように頷いた。

「長期では市場全体が成長する可能性があるということですね」

「ただし、投資は個人の判断となります。十分に検討して取り組みましょう」


「株式投資を始める具体的なステップについても触れておきましょう」

藤枝は7つのステップを示した。

「投資の目的と期間を明確にする、投資可能金額を決める、証券口座を開設する、投資スタイルを決める、銘柄を選定する、少額から投資を開始する、定期的に見直しを行う、という流れです」

村上が質問した。

「証券口座はどこで開設すればよいのでしょうか?」

「手数料が安くて情報も豊富なネット証券がおすすめです。SBI証券、楽天証券、マネックス証券などが人気ですね。特にNISA口座も開設できるところを選ぶといいでしょう」

「NISA口座って、税金がかからないんでしたっけ?」

「そうです。配当金や売却益が非課税になるので、ぜひ活用したい制度です。第7-9回でこの辺について詳しく説明予定です」

「個別株に対する株式投資については、初心者の皆さんには推奨しないため、この講座での説明は限定的です。投資は個人の判断ですので、個別株の株式投資を実施したい、という場合は関連書籍が多くありますので、しっかり勉強した上で行うようにしてください。」


藤枝は時計を確認しながら、まとめに入った。

「今日学んだことを整理してみましょう」

「株式投資は企業の成長と一緒に資産を増やす投資方法で、キャピタルゲインとインカムゲインの2つの利益が期待できます。個別企業の分析は非常に難しく、初心者は投資信託から始めて、経験を積んでから個別株投資を検討することがお勧めです。リスク管理として、余裕資金での投資、分散投資、長期投資が基本原則です」

花音はノートを参照しながら整理した。そのノート上に幾つかある、タクノジャーデ・レッドのイラストのひとつが、岡田の名前のそばで笑っていた。

「株式投資の複雑さがよく分かりました」
「段階的に学んでいくことの大切さを感じました」
「まずは投資信託で基礎を固めてから、将来的に個別株にも挑戦してみたいです」

学生たちが口々に理解を示した。

「では、今日はここまでにしましょう。今回の範囲は特に盛り沢山なので、配った資料で確実に復習をしておいてください。次回はETFについて詳しく学習します。6月12日にお会いしましょう」

学生たちが口々に「ありがとうございました」と挨拶した。


学生たちが退出していく中、藤枝は花音と村上を引き止めた。

「吉井さん、村上君、少しお時間をいただけますか?」

「はい」
「何でしょうか」

花音と村上は藤枝に返事をして会議に残った。

岡田と優佳が退出したのを確認してから、藤枝は慎重に口を開いた。

「実は、お二人にお話ししておきたいことがあります。これは内密にしていただきたいのですが...」

花音と村上の表情が神妙になった。

「岡田君についてなんですが、以前のゼミで少し問題があったという話を聞いているんです」

花音は一瞬、驚いた表情を見せたが、軽く深呼吸をした後、すぐに冷静になって「問題というと...?」と質問した。

「詳しいことは私も聞いていないのですが、ちょっと対人関係でトラブルがあったという話です。彼自身に悪意があるわけではないと思うのですが、人当たりが良い分、誤解を招きやすいのかもしれません」

花音は一瞬複雑な表情を見せたが、すぐに冷静になって答えた。

「確かに岡田君は人当たりが非常に良くて...。そしてとても優しいです...」

村上が慎重に質問した。

「それで、僕たちに何か...?」

「特に藤枝さんとの関係が心配で。お二人から教えてもらったように、藤枝さんと岡田君が最近とても親しくなっているようですし、藤枝さんは私の姪でもあるので...」

藤枝の声に、花音は藤枝の優佳の叔父としての心配を強く感じ、理解を示すように頷きながら話した。

「あぁ、確かに優佳ちゃんと岡田君、よく話してますね」

そして少し考えてから続けた。

「優佳ちゃんは岡田君に興味はあると思います。でも...なんていうか、今のところは大丈夫だと思うんです」

「お二人から見て、何か気になることはありませんか?」

村上が考えながら答えた。

「岡田君は確かに人当たりが良くて...他人への理解もある素敵な人だと思っています...今のところ特に問題は感じていません」

花音も頷いた。

「私も同じです!ただ...相手が女性なら岡田君はとても魅力的なので、そういう方面でのトラブルはあるかも、と今、話していて思いました。...注意して見ておきます」

「ありがとうございます。決して岡田君を疑えと言っているわけではないんです。ただ、何かあったら私に相談してもらえれば」

「分かりました」花音が真剣に答えた。

「僕も気をつけて見ておきます」村上も頷いた。

「よろしくお願いします。このようなことは本来皆さんには伝えるべきではないのですが、姪のこともあり...。このことは、くれぐれも他の人には内緒でお願いします」

「もちろんです」二人が同時に答えた。

「それでは、今日はお疲れさまでした」

花音と村上が退出した後、藤枝は一人画面の前に残された。自分の心配が的中しつつあることを感じながら、藤枝は画面を見つめ続けた。

「大丈夫かな、ユウ...」

窓の外では梅雨の雨が降り始めていた。


花音の日記(6月5日)

3週間ぶりの講座。みんな元気になって良かった~。先生から岡田君のことで相談があったけど、私は岡田君に問題なんて全然ないと思う!


#01, プロローグ, https://note.com/chokozai/n/n7c341cddedc4
#02, 1章, https://note.com/chokozai/n/n21181a368ec3
#03, 2章, https://note.com/chokozai/n/n0a68b769a8dd
#04, 3章, https://note.com/chokozai/n/n57828d00edb3
#05, 4章, https://note.com/chokozai/n/n21b8ac2af8be
#06, 5章, https://note.com/chokozai/n/n42cd7f162fde
#07, 6章, https://note.com/chokozai/n/n2e058ee72421
★#08, 7章, https://note.com/chokozai/n/nbb54d76f3a23
#09, 8章, https://note.com/chokozai/n/neda9d56fcf79
#10, 9章, https://note.com/chokozai/n/n74b172c91069
#11, 10章, https://note.com/chokozai/n/nacafa95d046b
#12, 11章, https://note.com/chokozai/n/n89af353420e1
#13, 12章, https://note.com/chokozai/n/n6e2b703b9166
#14, 13章, https://note.com/chokozai/n/n394f01a5e278
#15, 14章, https://note.com/chokozai/n/n3ee776f29d13
#16, 15章, https://note.com/chokozai/n/n44b39117da51
#17, エピローグ, https://note.com/chokozai/n/naf7a4ec3e2ac

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