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【創作大賞2025応募作品・恋愛小説部門】「僕は君に恋してる ~舞×ユージン編~」第1話 意外な訪問者

あらすじ

失恋を機に自身の人生を見つめ直した野上舞のがみまいは勤めていた会社を辞め、産休中の従妹の代理として喫茶店で働いている。最近知り合ったギタリスト・ユージンに恋心を抱き始めた舞の前に突如として現れたのは、前の思い人且つ幼なじみの本郷圭二郎ほんごうけいじろう。話を聞くと、プロ野球選手を辞めて舞と新しいことを始めたいと言う。

折しもその場に居合わせたユージンは、自身も思いを寄せる舞と、落ち込む圭二郎のため、彼には内緒で応援歌を作ることを提案。そこから二人の距離は徐々に縮まっていく。舞の兄夫婦一家、ユージンのバンド仲間、圭二郎の両親含む先輩野球人たちが彼らの背中をそっと押し、成長を促していく。

<登場人物紹介>

野上舞のがみまい(主人公)(31)
元高校球児、野上路教のがみみちたかを父に持つ。その父に影響されて幼少より野球に親しむ。父の野球部時代の友人、本郷祐輔ほんごうゆうすけ氏の子どもたちとは幼なじみ。舞は次男の圭二郎けいじろうを好いていたが、告白しないうちに彼の婚約発表を耳にし、途方に暮れる。その後、なんとか立ち直ったものの、勤めていた女子野球部のある会社は退職。現在は「喫茶ワライバ」で働く。


音村祐仁おとむらゆうじん(主人公)(26):
通称、ユージン。エレキギタリスト。双子の妹弟、セナとリオンがいる。ブラックボックスと言うバンド名で活動していたが、サザンクロスと一緒にライブしたのを機に六人組バンドの結成を提案し、実現させた。


サザンクロス(アコギバンド):
麗華れいか(ボーカル&アコギ)、拓海たくみ(アコギ)、智篤ともあつ(ボーカル&アコギ)
実年齢は内緒。麗華はメジャーで「シンガーソングライター・レイカ」として、拓海と智篤はインディーズバンド「ウイング」の名で活動していたが、拓海の病を機にかつてのバンド「サザンクロス」を再結成した。
拓海を死の淵から救ったタイミングでなぜか20代の容姿に。ミュージシャン歴は30年以上。
現在はブラックボックスとともに新しいバンド「サザン×BBビービー」を結成、活動の幅を広げている。


1.<舞>

 約一年、世話になった兄夫婦の家を出て、近くのワンルームに移ったのは年初のこと。彼らはずっと一緒にいてもいいと言ってくれたが、そろそろけじめを付けなければとの思いもあり、引っ越しを決めた。とはいえ、転居したのは同じ町内だからいつでも会うことは出来るし、なんなら毎日顔を出すことも可能な距離である。わたしも彼らのことが好きだからこその「近居きんきょ」というわけだ。


◇◇◇


 夏の終わりから、産休・育休を取る従妹いとこのめぐちゃんに代わって働き始めた喫茶「ワライバ」での仕事にも慣れてきた。社会人野球チームに属しながら企業勤めをしてきたわたしは、学生時代もずっと野球漬けでアルバイトの経験もなかったが、店の雰囲氣や双子の店主、理人りひとさん、隼人はやとさんの人柄の良さもあって職場にはすんなり馴染むことが出来た。野球好きのお客さんと話していると、ついつい盛り上がって仕事がおろそかになってしまうこともあるが、ここは、人々の憩いの場でもあるので「話し相手も立派な仕事」と、理人さんは大目に見てくれる。

 私生活の方では、昨年に知り合ったミュージシャンたちと懇意になったことで音楽の魅力にすっかり取り憑かれている。野球をしていた父の影響を受けたわたしはそっちの道に進み、つい最近まで野球に人生を捧げていたが、幼少の頃から興味があったギターを学ぶ機会を得た今は、弾くのが楽しくて楽しくて仕方がない。それもこれも、ユージンさんが懇切丁寧に教えてくれるお陰。あんまり優しいから心底好きになってしまいそうだが、「生徒」と「先生」の関係を超えないよう、自制している。

 というのも、失恋したばかりの頃に出会った人をすぐ好きになるのは「いけないこと」という思いがどうしても湧いてきてしまうのだ。おそらく、一途にひとりの人を愛し続けて結婚に至った実兄や叔父アキ兄さんを間近で見てきたせいだろう。これまでの常識を捨てて生きようと決めた割に、未だ頭を切り替えられないわたしがいる。

(軽い女に見られたくないんだろうなぁ……。)

 多分、ユージンさんはわたしに好意を抱いている。そこまでではなかったとしても、悪くは思われていないはず。そんな彼に自分の氣持ちを真剣に伝えれば恋人同士になれる可能性は高いと思うが、向こうもまたこちらの出方や様子をうかがっているのが感覚的に分かるのだ。

(焦りは禁物。だけど、守りに徹しすぎてもダメ。恋愛って難しいなぁ……。)

 周りを見れば、じゃれ合うカップルばかりが目につき、氣持ちが急くこともあるが、そんなときこそ「わたしはわたし!」と自分に言い聞かせている。


◇◇◇


 寒さが厳しい一月某日の午後は、珍しくお客さんがひとりもいなかった。音がないのは寂しいからとBGMを流してはいるものの、人氣ひとけのない店内はやはり物足りなさを感じた。店主の理人さんもこう言う雰囲氣は苦手のようで、普段なら雑談をしてくるところだが、今日に限って静かに野球雑誌を読んでいた。

 誰でもいいから来店しないかな……。そんなことを思ったとき、タイミング良く店のドアが開いた。

「いらっしゃいませ!」

 ようやく仕事が出来る、と張り切ってお客様に笑顔を向けた。が、キャップの下から露わになったその顔を見た瞬間、わたしは表情を失い、身動きがとれなくなった。

「ん?」

 妙な空氣を察して顔を上げた理人さんは、客の顔を見るなり「何しに来たんだよ……」と言ってカウンターから出、わたしの前に立ちはだかった。

「ここは、あんたみたいな人間が来る場所じゃない。悪いけど帰ってくれ」

「……親からは、誰でもウェルカムな店だって聞いたんですが?」

「それは建前。おれにだって客を選ぶ権利はある。店員みうちのためなら尚更だ」
 理人さんは、わたしがその「客」と一悶着あったことを知っている。

「これを見せても断りますか?」

 客が出したのは、元プロ野球捕手・永江孝太郎ながえこうたろう氏のファンクラブ会員証だった。喫茶「ワライバ」には、永江さんが現役時代に着用していたユニフォームや用具などを展示したスペースがあり、会員のみが見学可能となっている。さすがにそれを見せられては理人さんも断れないのか、渋々店の奥に客を通した。

「……あの、店員さん、、、、に展示品の説明をお願いしたいんですが」
 視線を向けられ、どう対応していいか分からずにうつむくと、理人さんがすぐに助け船を出してくれる。

「説明なんて必要ないだろう? 永江センパイは現役時代、同じくプロ野球投手だったあんたの父親と同じチームだったんだから。あんたはただ、マイマイと話したいだけ。違う?」

「……そうですね。おっしゃるとおり、俺は野上舞のがみまいさんと話したくてここを訪れました。だから、話せるまでは帰りません」

「マイマイが話したくないと言っても?」

「話したくないかどうかは本人に聞きます」
 理人さんが遠ざけようとしても客は引き下がるどころか、むしろ強氣な姿勢でわたしの前に立ち続けた。

 どういう意図があって今更わたしの前に現れたというのか……。その強いまなざしを見る限り、よほどの決意があってここを訪れたに違いない。だったらわたしも、逃げるわけにはいかない。

「理人さん、わたし、話します。それで、どうしても無理ってなったらそのときはお願いします」

「マイマイ……。だけど、大丈夫なの?」

 大丈夫かどうかは分からない。しかし、立ち向かわなければいけない氣がするのだ。わたしは理人さんの問いに頷き、その後、客と対峙する。

「……久しぶりだね、圭二郎けいじろう

 そう。わたしの前に現れた客の正体は、幼なじみ且つ、わたしが長年恋い焦がれた現役のプロ野球選手。その彼の婚約を耳にして人生のどん底を味わったのは、今から一年ほど前のこと。紆余曲折の末、最終的には好きだったことを告げ、完全に思いを断ち切って今に至っている。

「シーズンオフだからって、こんなところに来る余裕があるなんて。もしかして、干されちゃったの?」
 皮肉ったつもりだった。しかし彼は真顔で答える。

「まぁ、似たようなものかな。実は……婚約を解消したことで、今ちょっとばかり揉めてるところ。お陰で練習にも参加させてもらえない」

「はぁ?!」
 あまりにも衝撃的な話だったので、思わず大きな声が出る。
「破談になったってこと?! 何よ、それ。いったいどういうことなの?!」

「まぁ……。元々うまくいく道理はなかったんだ。向こうの親の政略結婚的な意味合いが強くて。あー、婚約者の親はスポンサー企業の社長でね……。圧力がすごかったからお互いに一度は意向に従ったんだけど、やっぱり氣が合わなくて……。結婚してからじゃ取り返しがつかなくなるから、その前にけじめを付けようってことになったんだ」

 その話を聞いた瞬間、わたしが長年の想いを告げるために電話した際のことを思い出した。あのとき既に婚約者とそのような話し合いが行われていたのだとすれば、婚約者のことをはぐらかすような反応をしてきたのにも納得がいく。

「……その報告をするためにわざわざここへ?」

 確かにとんでもないニュースではあるが、いくら幼なじみとは言え、わたしの現在の勤め先を調べて直接足を運び、この話だけをしに来るとは思えなかった。強氣な姿勢で詰め寄ると、圭二郎も一歩前に出てわたしの顔ををじっと見つめた。

「……俺と付き合ってほしい。今日はそれを言いに来た」

「…………!!」
 わたしは声を失い、すぐそばにいた理人さんは「ええっ!!」と大きな声を発した。圭二郎は間髪を容れずに続ける。

「……舞に想いを告げられてはっきり分かったんだ。やっぱり俺も舞のことが好きだって。あの時はまだ婚約中だったから舞の次の恋を応援するって言ったけど、今は晴れて自由の身になった。だからこれからは自分の氣持ちに正直に生きていく」

「……わたしの方から想いを打ち明けさせておいて、今更告白? あれから半年以上が経ってるっていうのに、わたしがまだあの時と同じ氣持ちでいると思ってるの? あり得ないんだけど。それだけじゃない。舞には野球は向いていない、だから俺とは一緒にいない方がいい……。そう言ってわたしを振ったのは、どこのどいつ?」

 身勝手な告白に怒りが噴出した。しかし彼は開き直って言う。

「舞の氣持ちが変わってしまったように、俺の氣持ちもあの時から変わった。つまりはお互い様ってことだよ。……俺は舞と一緒にいたい。そのためなら親の期待に応えることもやめるし、転職だってする。……俺のマジな氣持ちを聞いても突っぱねる?」

「……それってもしかして、野球をやめるってこと?」

「舞と付き合えるなら……いや、結婚も考えてくれるならそうする覚悟はある」

「…………!!」
 馬鹿な発言もここまで来ると呆れてしまう。
「あのさ、いくら好きだからって、そこまでする? って言うか、現実的じゃないよ、そんなの」

「現実的かどうか……。問題はそれだけ?」

「…………」

「舞は俺のこと、完全に嫌いになっちゃったの? 顔も見たくない、声を聞くのも嫌になったって言うなら、今すぐここで平手打ちを食らわせてくれ。それができないっていうなら考え直してくれないかな」

「考え直すも何も……」

「……もしかして、今ほかに好きな人が?」

「…………」
 ユージンさんを「いいな」と思っていることを言うべきかどうか迷い、結局無言を貫いた。しかし圭二郎はそれを「イエス」だと受け取ったらしい。

「まぁ、俺が舞の背中を押したんだから、誰かに恋心を抱いていたっておかしくはないだろう。でも、その様子じゃまだ恋仲ってわけでもなさそうだ。なら、俺にもチャンスはある」

「今更そんなことを言われたって困るよ……」
 なぜ、前に進み出したわたしの行く手を塞ぐような真似をするのか。こっちは心の傷をようやく治し、昔の恋を忘れようとしているのに。

 困惑していると、静観していた理人さんが意外なことを言い始める。

「あのさぁ、マイマイを困らせるような発言、やめてくんない? っていうか、そうやって自分の乱れた心を恋愛で埋めようとするの、良くないと思うぜ。さっきは帰れって言ったけど、悩みがあるなら話は別だ。おれが聞いてやる」

 さすがは理人さん。ずっと黙って、圭二郎の心の動きを観察していたのか……。

「……やはり、聞いていたとおり、マスターは心の広いお方のようですね。きっと舞もあなたのお人柄に魅了されたからここで働いているのでしょう」

 理人さんの言葉に感動したのか、圭二郎は少し表情を和らげた。

「……お心遣い、感謝いたします。ですが、マスターに聞いてもらうのはもう少し後にします。……舞、仕事が終わってから会えるかな。その頃にまたここへ来る」

「仕事が終わるのは、七時ごろだけど……」

「じゃあ、七時に迎えに来るから」
 圭二郎はそういうと、永江氏のファンクラブ会員向けに開かれたスペースを見学することなく帰って行った。

「迎えに来る……か。信用、ないなぁ……」
 彼は、終わったら連絡をくれとは言わなかった。逃がすつもりはないという意思を強く感じた。

「……あの、いろいろとありがとうございました」
 お礼を言うと、理人さんは大袈裟にため息をついた。

「……ったく。しょうもない男だなぁ。マイマイはあんなのが好きだったの? 向こうは本氣っぽいけど、おれはやめといた方がいいと思うね」

「さすがに未練がましいのは、わたしもちょっと……。でも、なんか悩んでるみたいだし、話は聞いてあげようかなって思います」

「二人きりで話すの、大丈夫? おれも同席しようか? 閉店後なら、ここで話してもいいぜ?」

「それもありですね」
 圭二郎は、二人きりで話したいとは言わなかったし、場所の指定もしてこなかった。ならば、会うことを条件にこちらから場所の指定をしてしまおう。どうしても話がしたいなら受け入れてくれるはずだ。



 その後、お茶の時間になると普段通りの客足が戻った。忙しく過ごしているうちに圭二郎のことはすっかり忘れていたのだが、彼は七時きっかりに戻ってきた。相変わらずまめな性格だと、半ば感心する。

「話は聞いてあげる。だけど、場所はここがいいわ。どっちみち、話す場所は必要でしょ?」
 CLOSEDの札と内鍵を掛けたわたしは、そう提案した。

「……それは、マスターも俺たちの話を聞くってこと?」

「理人さんがわたしのことを心配してるの。圭二郎に妙なことをされないか、ってね」

「俺は何もしないよ」

「本当にぃ?」
 そこへ理人さんも加わる。
「好意を持ってる男と二人きりにしたらどうなるか、誰でも想像がつくってもんだろう?」

「なるほど……。マスターも舞のことが好きなんですね。でなければそんなこと、言うはずがない」

「お生憎様。俺がマイマイを擁護する一番の理由は、野上大センパイ、、、、、の娘だからだよ。万が一のことがあったら、おれの身が危うい」

「あー、そっちですか……。確かに、舞のお父さんに知れたら厄介ですね」
 圭二郎はしばし、考え込んだ。
「うーん……。やっぱりマスターには聞かれたくないな。……じゃあさ、次の休みに二人で会えないかな。日帰りでどこかに行こうよ」

 どうしても一対一いったいいちで話がしたいらしい。「日帰りで出かけたい」という提案を聞いて、誰一人自分のことを知らない場所に行きたいと言う意味ではないかと、直感的に思う。理人さんの見立てでは、何らかの悩みを抱えているのではないかと言うことだったが、もしかすると彼は相当に病んでいるのかもしれない。

「……分かった。実は次の休みは明日なんだけど、空いてる?」

「ああ……。さっきも言ったとおり、練習に参加させてもらえないからここんとこ、ずっと暇にしてる」

「…………」
 せっかく一緒に出かけることが決まったというのに、その声には全く覇氣がなかった。ますます心配になる。

「じゃあ、決まりね。うーんと……。どこか、行きたいところはある? 集合場所とか時間とか、擦り合わせないと」

「自然の多いところがいいな。あー、最寄りのK駅に集合して、そこから電車で移動できた方が舞は楽? そっちに合わせるよ」

「……って言うか、今夜はどこに帰るつもり? まさか帰る場所もない、なんて言わないよね?」

「どうかな……」

 わたしの冗談に真顔で返す圭二郎。さすがの理人さんも「ホントに寝るとこがないなら、うち、来る……?」と声を掛けた。

「いや、今夜は実家に泊めてもらうことにしてるんで……。ここに来てることは内緒ですが……」

「なら、実家まで見送るよ。マイマイの方も。なんか、心配だし」
 理人さんはそう言うと、店の奥にいたもう一人の店主、隼人さんにその旨を伝え、上着を羽織った。わたしも帰り支度を済ませ、一緒に店を出る。



 三人で歩く帰路は全く会話がなかった。気まずさを感じながらも結局、一言も話さないまま圭二郎の両親が住む駅前のマンションが見える場所まで来てしまう。人の多さに、圭二郎はキャップを目深にかぶり、マフラーで顔の下半分を覆った。

「送ってくれてありがとう。ええと……。明日の待ち合わせ場所はそこのK駅改札前でOK?」

「改札前……。そこは都合が悪いんじゃない……?」
 長身と言うだけでも目立つのに、人目を氣にするように顔を隠した人間をそんな場所に立たせる趣味はない。

「あたしがマンションのエントランスまで行くよ。その方がずっと安全のはず」

「……氣ぃ遣ってくれてありがとう。そうしてくれると助かる。時間はどうする? 俺的には早いほうが有り難いんだけど」

「んー……。通勤通学時間帯は混雑するから、それより早くとなるとメチャクチャ早くなっちゃうけど」

「それでもいい。俺は大丈夫」

「じゃあ……。六時、でどう?」

「ああ、それでいいよ」
 実家にも居場所がないのだろうか。少しでも早く会いたいという、焦りのようなものを感じずにはいられなかった。

「了解。それじゃあ、明日の朝六時に、マンションのエントランスで」

「うん。……それじゃ、また明日」
 圭二郎はわたしと理人さんに一礼すると、ジャケットのポケットに手を突っ込み、背中を丸めるようにして去って行った。

 姿が見えなくなったところで理人さんがぽつりと言う。
「……おれには、あいつが心を亡くしてるように見えた」

「そうですね……」

「マイマイ。明日はあいつのこと、頼むよ」

「はい。……だけど、どうして今日初めて会った圭二郎をこんなにも想ってくれるんですか? 圭二郎が、理人さんの野球部時代の先輩である本郷祐輔ほんごうゆうすけさんの息子だからですか?」

 さっきの理人さんの言葉を引用して問うた。しかし予想とは違う答えが返ってくる。

「似てるから……かな。かつてのおれに。だから、あいつの氣持ちがなんとなく分かるし、放っておけないんだと思う」

「それって、父に救われたころの……?」

「そうそう! 野上センパイ――マイマイのお父さん――は、荒んでいたおれに寄り添い、理解し、すべてを受け容れてくれた。お陰で改心したんだけど、その恩返しをおれは、お客さんを救うことで果たしたいんだよね」

 力強く言い切った理人さんが格好良く見えた。
「わたしもその父の遺伝子を受け継いでいるといいんですが……」

「大丈夫、大丈夫。何しろ、センパイの野球の能力は兄さんの方じゃなくて妹のマイマイが受け継いだんだから、きっと救う力だってあるさ」

「本当に父のこと、尊敬してるんですね」

「ったり前よ。何しろ『神様、仏様、野上様』だからな!」
 そう言っていつものように、パンパンッと顔の前で手を叩いた。
「ううっ……! 立ち話してたら寒くなってきたな。さて、次はマイマイを部屋まで送ろう」

「……いろいろと、ありがとうございます」
 深々と頭を下げると、理人さんは「早く行こうぜ」と言って先を歩き出した。


※見出し画像は、生成AIで作成したものを加工して使用しています。

【二話以降(全十六話)URL】

第二話 目撃
第三話 対峙
第四話 心に、素直に
第五話 大切な人のために
第六話 支えてくれる人
第七話 好きだからに決まってる
第八話 圭二郎への手紙
第九話 嫉妬
第十話 ただ、会いたくて……
第十一話 愛する人のために
第十二話 戸惑い
第十三話 応援歌作り
第十四話 ライブ!
第十五話 キミに送るメッセージ
最終話 僕は君を愛してる

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