プロローグ【もしもの始まりを、忘れないうちに】
〈あらすじ〉
「今後の関係について、真剣に話したい」
そう言われた金曜日の夜は、まるでいつものお泊まりのように静かに始まった。
けれど、あなたの抱きしめ方で、私は悟ってしまった。
ああ、きっとこれが“終わり”なんだって。
もしも、別の選択をしてたら今頃──
これは、そんな“もしも”を紡いだ物語。
『今後の僕たちの関係について、ちょっと真剣に話ができればと思ってる。
金曜の夕方〜夜、時間もらえるかな?』
『夕食後は、少し静かな場所で二人きりでゆっくり話ができたらいいな。
具体的には、ホテルで一泊したいと思っているけど、どうだろう。』
──それが、事の始まりだった。
いや、正しくは。
ここが始まりではなかったのかもしれない。
付き合って半年が過ぎた頃から、
将来のことを少しずつ話すようになっていた。
勉強、仕事、転職。
結婚や出産、育児の話まで。
そんなずっと先の分岐を、ふたりで思い描こうとしていた。
けれど、あなたにはもともと「留学したい」という夢があって。
私はその夢を応援するつもりだったし、
それでも一緒にいられる方法を、なにかしら提示してきたつもりだった。
でも、今思えばあれは“方法”じゃなくて、“お願い”だったのかもしれない。
私の方から差し出した、都合のいいプラン。
あなたの本当の気持ちに、耳を傾けきれていなかったのかもしれない。
それでも、あなたは真剣に考えてくれた。
どうすればいいのか、ちゃんと向き合ってくれた。
ふたりのこれからを、言葉にしようとしてくれた。
──でも、私たちは、別れた。
金曜日の夜。
まるでいつものお泊まりみたいに、穏やかに始まった夜。
ベッドに入って、テレビをつけて、笑ったりしながら過ごしていた。
そういう時間に、なんとなく安心してた。
でも、あなたが突然リモコンを手に取って、テレビを消した。
部屋が少しだけ静かになって、私が振り向く前に、
あなたはそっと、無言で私を抱きしめた。
そのまま、何も言わずに何回か軽くキスをして、
また、無言のまま、ぎゅっと。
ああ。
どっちの決断をしてきたのか、言われなくても分かった。
だから私は、口にしてしまったんだ。
「今日は疲れたから、明日の朝ちゃんと話そうよ」
わずかな沈黙のあと、あなたは少しだけ微笑んで、「うん」と頷いた。
わたしはそのままベッドに入り、あなたも隣で横になる。
でも、眠れなかった。
あなたがどんな顔をしているのか、背中越しに何を考えているのか、ずっと気になっていた。
もしも、あの夜、眠らずに話していたら──
いや、もっと前のあの時──
最初からやり直せるわけじゃない。
でも、
もしも、別の選択をしてたら今頃──
そして今、私は──
あの夜から少しだけ時間が経ったこの場所で、
ふと、あの日のことを思い返している。
※本編は、プロローグのふたりにまつわる“もしも”の断片です。
本編は時系列にとらわれず、気になるタイトルから読んでみてください。
そして、物語の最後にはエピローグを──
【本編】
【エピローグ】
