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諸外国の「食事ラッパ譜」

【日本のラッパの起源と進化】- その13

 おそらく多くの人が一度は耳にしたことのある有名なラッパ信号の一つに、「食事ラッパ」があります。これは、ある企業の商品サウンドロゴとして長年用いられてきたため、テレビコマーシャルを通じて広く親しまれてきた号音です。しかし、その起源を遡ると、各国軍隊に共通する生活管理のための信号体系に行き着きます。

 食事に関する号音は、フレーズこそ異なるものの、明治維新前後に行われたラッパ伝習の中に含まれていた日課号音の一つでもあります。本記事では、この「食事ラッパ」について概観していきます。


フランスの食事ラッパ LA SOUPE

La Soupeラ スープとは

 La Soupe は、フランス陸軍で用いられる「食事号令」「炊事号令」 に相当するラッパ信号です。soupe は「スープ」そのものではなく、軍隊用語としては、「食事」「配給」「兵士の食事時間」 を意味します。
 したがって La Soupe は、兵士に対して食事の準備や配給の開始を知らせ、食事時間の到来を告知する号令であったと考えられます。
 その役割は、日本の旧陸軍における「食事」「炊事」号令に近い役割を持ちます。

どんな場面で使われたのか

 フランス陸軍では、「食事の配給開始」「兵士が食堂・炊事場に集合する合図」「日課における食事時間の告知」といった場面で演奏されました。
 兵士たちはこの号令を聞くと、「食事の時間だ!」と一斉に集まる、軍隊生活に深く根ざした、日常的な信号であったといえます。

歴史的背景

18〜19世紀、特にナポレオン戦争期までに、フランス軍では日課号令(sonneries d’ordonnance)が体系化され、その中に La Soupe が含まれていました。
兵士の食事がスープを中心とした簡素なものであったことから、soupe が食事全体の代名詞となり、号令名として定着したと考えられます。
19〜20世紀のラッパ教本(Méthode de clairon)にも継続して収録され、現在でも儀礼や歴史的再現で演奏されることがあります。

食事ラッパ譜 LA SOUPE

 筆者が確認できた最も初期の「食事ラッパ譜」は、1824年に出版されたデイヴィッド・ビュル(David Buhl, 1781–1860)著

『Méthode de trompette adoptée pour l’enseignement de l’école de trompette établie à Saumur』
(以下、Buhl 1824)に収録された号音です。

 これは trompette(騎兵ラッパ)用の号音であるため、clairon(歩兵ラッパ)の号音とは、使用される倍音域が異なっています。trompette(騎兵ラッパ)は、おそらくE♭管あるいはG管のCLAIRONクレロンに比べて管長が長く、いわゆる「長管」の楽器でした。

LA SOUPE _ Buhl 1824
trompette(騎兵ラッパ)の音域

 続いて、1865年に出版されたピエール=フランソワ・クロドミール(Pierre François Clodomir, 1815–1884)著

『Méthode complète de clairon d’ordonnance』
(以下、Clodomir 1865)に収録された CLAIRONクレロン(歩兵ラッパ)の号音です。この号音は、日本に伝来した最初期の号音の一つとなりました。

LA SOUPE _ Clodomir 1865
CLAIRON(歩兵ラッパ)の音域

 1869年に出版されたアドリアン・ラガル(Adrien Jean Joseph Marie Lagard, 1821–1878)著
『Méthode de clairon d’ordonnance』に収録された号音は、Clodomir 1865と比較すると、異なる点はスタッカートの有無のみです。

LA SOUPE _ Lagard 1869

 1871年に出版されたジュール・ミレスカン(Jules Millescamps, 18..–1891)著
『Sonneries générales du clairon selon l’ordonnance du 16 mars 1869, suivies de l’école de tirailleurs et de 35 marches pour la garde nationale』の号音は、これまでのCLAIRONクレロンと旋律の流れ自体は同一ですが、各音のリズムに違いが見られます。

LA SOUPE _ Millescamps 1871

 ちなみに、「LA SOUPE _ Millescamps 1871」は、1867(慶応3)発行の『喇叭譜号』に収録された「夕飯」の号音と、ほぼ同一とみなすことができるのではないでしょうか。

夕飯 _ 喇叭譜号 1867
夕飯 _ 喇叭譜号 1867

 1875年に制定された「フランス歩兵操典(Règlement sur les manœuvres de l'infanterie)の号音は、三連符と八分音符の組み合わせのリズムがMillescamps 1871と逆になっています。このリズムは、1824年の 「LA SOUPE _ Buhl 1824」以来の型に回帰したものといえます。

LA SOUPE _ Règlement 1875

 1885年制定の「フランス歩兵操典(Règlement sur les manoeuvres de l'infanterie)の号音は、「Règlement 1875」と全く同一の内容です。

LA SOUPE _ Règlement 1885

さらに1902年に出版されたE. ランディ(E. Landy)著
「Méthode de clairon par E. Landy…」に収録された「LA SOUPE」の 号音も1875年制定のものと変化はなく、この型が現在にまで受け継がれていることが分かります。

LA SOUPE _ Landy1885

スペインの食事ラッパ Toque de ranchoトケ デ ランチョ

Toque de ranchoトケ デ ランチョとは

 Toque de rancho は、スペイン語圏の軍隊で使われる「食事号令」「炊事号令」 に相当するラッパ信号です。
• toque …「(楽器で)合図を鳴らすこと」「号令」
• rancho …軍隊用語で「兵士の食事」「配給」「炊事場」
 したがって Toque de rancho は、食事の準備・配給開始を知らせ、兵士を炊事場へ集合させる号令を意味します。

どんな場面で使われたのか

 スペイン軍・ラテンアメリカ諸国の軍隊では、「食事の配給開始」「兵士が炊事場(rancho)に集合する合図」「日課の中での食事時間の告知」として使われてきました。
 その機能は、日本の旧陸軍における「食事」「炊事」「飯炊き」といった号令に近い役割を果たしていました。

歴史的背景

 18〜19世紀には、スペイン軍の日課号令(toques de ordenanza)が体系化され、その中に Toque de rancho が含まれていました。
rancho は軍隊文化に深く根付き、この名称はラテンアメリカ諸国にも広まり、現在でも共通語として用いられています。

食事ラッパ譜 Toque de ranchoトケ デ ランチョ

 2006年に発効したスペイン陸軍(Ejército de Tierra)の公式なラッパ信号規則集(REGLAMENTO DE EMPLEO TOQUES MILITARES)には、Cornetaコルネタ(歩兵ラッパ)とClarínクラリン(騎兵ラッパ)の食事号音が記されています。

FAJINAファヒーナ (RANCHOランチョ Y PROVISIONESプロビシオネス)

 このCornetaコルネタ(歩兵ラッパ)の号音、FAJINAファヒーナは、スペイン軍において「雑役・労務・日課作業」を指す制度上の用語で、兵営生活を維持するための作業全般を意味します。正式な軍事規則では、ラッパ信号も音楽的名称ではなく行為の内容によって分類され、食事や配給はFAJINA(RANCHO Y PROVISIONES)という項目に含めて整理されています。なお、RANCHO Y PROVISIONESは、「食事と食糧配給」という意味です。
 この日課構成では、雑役の終了後に食事(rancho)が続くことが多かったため、兵士の生活感覚としては「FAJINA が鳴れば作業が終わり、食事が始まる」という認識が定着しました。なお、この号音は1899年には使われていました。

FAJINA _ REGLAMENTO 2006

RANCHOランチョ Y PROVISIONESプロビシオネス

 このClarínクラリン(騎兵ラッパ)のRANCHO Y PROVISIONES(食事と食糧配給)が鳴った場合、兵士たちは自分の食事の時間であるか、あるいは部隊の食糧や物資を受け取りに行くタイミングであることになります。なお、この号音も1899年には使われていました。

RANCHO Y ROVISIONES _ REGLAMENTO 2006

ブラジルの食事ラッパ Ranchoランショ

RANCHOランショ とは

 RANCHOは、ブラジル軍(陸軍・海軍・空軍)で用いられる「食事号令」「炊事・配給開始の合図」に相当するラッパ信号です。
語源はポルトガル語 rancho で、兵士の食事、食堂、炊事場、配給を包括的に意味します。

どんな場面で使われたのか

 ブラジル軍では RANCHO は主に、 「食事の配給開始」「兵士が炊事場・食堂に集合する合図」「野営・演習・訓練中の食事時間の告知」として用いられるなど、生活に密着した重要な日課号令でした。

歴史的背景

 ポルトガル軍の号令体系を継承し、帝政期ブラジル軍で日課号令として制度化されました。
共和制移行後も使用が続き、現在では主に儀礼や教育目的で演奏されます。

食事ラッパ譜 ranchoランショ

 1898年にブラジルの国立印刷局から出版された、A. M. セザール大佐(Cel. Antônio Moreira César)編纂の『Ordenança de Toques de Corneta e Clarins』には、当時の食事ラッパの号音が収録されています。項目名の「Rancho」はポルトガル語で「兵食・食事」を意味し、スペイン語の「Rancho」と語源・意味ともに共通しています。

Brasil_Ordenança 1898

 一方、それからちょうど100年後、1998年にブラジル陸軍参謀本部が発行した軍事マニュアル『Manual de Campanha C 20-5 - MANUAL DE TOQUES DO EXÉRCITO』にもこの号音が引き継がれています。しかし、こちらでは1898年版の3〜4小節目が省かれた短縮形へと改訂されていることがわかります。

Brasil_Ordenança 1998

イギリスの食事号令Meal Callミール コール

概略

 Meal Call は、イギリス陸軍で用いられた食事開始を知らせるラッパ信号で、「meal(食事)」と「call(号令)」から成ります。兵士の日課を管理する生活密着型の号令で、アメリカ軍の Mess Call に相当しますが、より一般的な語である「meal」を用いる点に英国的特徴があります。

使用場面

 朝食・昼食・夕食の開始時に吹奏され、兵士を食堂(mess)へ集合させる合図として用いられました。兵営内に限らず、野営や行軍中の食事休止の告知にも使われ、規律ある日常行動を維持するための重要な信号でした。

歴史的背景

 18〜19世紀、イギリス陸軍は軽歩兵・猟兵部隊の発展とともにラッパ号令体系を早期に整備し、Reveille、Last Post などと並んで Meal Call を日課号令として確立しました。大英帝国の拡大により、この体系はカナダ、オーストラリア、インドなど英連邦軍にも広く継承されています。
現代の扱い
 20世紀以降、実務的使用は減少しましたが、現在も儀礼演奏や軍楽教育、歴史的再現において、英国軍の伝統的号令として演奏されています。

食事ラッパ譜 Meal Callミール コール

 1914年に発行されたイギリス陸軍ラッパ号音集『TRUMPET AND BUGLE SOUNDS FOR THE ARMY』には、Men's Meal (1st Call)とMen's Meal (2nd Call)の2つの号音が収録されています。

British Army Bugle Calls 1914

 クイーンズ・ロイヤル・サリー連隊のウェブサイト(Band and Drums Music Bugle and Bugle Horns)には、イギリスのMeal Callにつけられた歌詞が紹介されています。 速度設定の表示が異なっています

Band and Drums Music Bugle and Bugle Horns

・1st Call
"Oh! Come to the cookhouse door, boys, Come to the cookhouse door"
(ああ!炊事場のドアまで来なさい、みんな、炊事場のドアまで来なさい)
・2ndCall
"Oh pick 'em up, pick 'em up hot potatoes oh, pick 'em up, pick 'em up hot potatoes oh!''Why should I draw rations when I'm not the Orderly Man"
(あぁ、拾え、拾え、熱いジャガイモを!私は衛生兵じゃないのに、なぜ配給を受けなければならないんだ?)

Australian Army Bugle Calls 1916
 1916年に発行されたオーストラリアの公式規則『Trumpet and bugle calls for the Australian army』にも歌詞が表示された二つの食事号音が掲載されています。なお、2nd Callにつけられた歌詞には以下のような差異が見られます。
"Oh, pick 'em up, pick 'em up, hot potatoes, hot potatoes, pick 'em up, 'em up, hot potatoes all."
(おい、拾え、拾え、熱いジャガイモだ、熱いジャガイモだ、 拾え、拾え、全部熱いジャガイモだ。)

Australian army Bugle Calls 1916

ドイツの食事ラッパZUM ESSENツム エッセン

 
ドイツ語圏の食事号音は、軍楽教本や教練規則に必ず収録される基本信号の一つと考えられます。しかし、実際の資料を精査すると、「戦術行動を指示する号令」や「部隊識別用の号音」は数多く記載されている一方で、生活に密着した「営内・勤務用号令(Signale zum innern Dienste)」の中に、独立した「食事ラッパ」という項目をいまだ見出すことができていません。
 その一方で、軍隊のラッパ信号と歴史的に密接に関係がある狩猟信号(Deutsche Jagdsignale)の中には、「Zum Essen」(食事ラッパ)という信号が存在します。

Deutsche Jagd signale

 この信号に付けられた歌詞には、狩猟における食事の喜びが生き生きと表現されています。
Kommt doch herbei, kommt doch herbei, Jäger, Treiber, kommt doch herbei, kommt doch herbei! Essen gibt’s jetzt!
Erbsensuppe mit fettem Schweinebauch, Erbsensuppe, Schnaps gibt es auch.
(さあ集まれ、さあ集まれ、狩人よ、追い込み人よ。さあ、さあ集まれ!食事の時間だ! 脂ののった豚バラ肉入りのエンドウ豆スープ、エンドウ豆のスープ、それにシュナップス(酒)もあるぞ!)

ロシアの食事ラッパНа обедナ アビェート

На обедナ アビェートとは

 ロシア語の обедアビェート は一日の主要な食事(昼食)を指します。「На」は~へ」「~のために」という方向や目的を示す前置詞であり、На обедナ アビェートは「昼食へ(食事の時間だ)」という意味になります。

どんな場面で使われたのか

 確認した号音集に「На обед (завтрак, ужин)」という表題が見られることから本信号はобедアビェート(昼食)のみならず、завтракザフトゥラク(朝食)やужинウージン(夕食)を含む、食事全般の告知信号として機能しています。

歴史的背景


 18〜19世紀の帝政ロシア軍において、軍隊の日課を管理する「信号音楽(Сигнальная музыкаシグナーリナヤ ムーズィカ)」の一つとして体系化されました。この伝統はソ連軍にも継承され、現在でも儀礼や訓練の場で演奏されています。

食事ラッパ譜 На обедナ アビェート

ロシア海軍の公式信号(СИГНАЛЫ ГОРНА ВМФ полная версияシグナールィ ゴールナ ヴェー エム エフ ポールナヤ ヴェールスィヤ)より

СИГНАЛЫ ГОРНА ВМФ полная версия z`_ На обед

一般的なラッパ信号集(Сигналы на горнеシグナールィ ナ ゴールニェ)より

Сигналы на горне _ На обед

青少年組織(ピオネール)の信号(Сигнальная музыкаシグナーリナヤ ムーズィカ)より

 ロシアのピオネール(ボーイスカウトに似た青少年組織)の活動紹介ページに掲載されているもの。海軍の信号とは旋律が異なる「На обед (завтрак, ужин)」が使用されています。

СИГНАЛЫ _ На обед

*指定速度 : Умеренноウミェーリェンナ「中くらいの速さで(モデラート)」

アメリカの食事ラッパMess Callメス コール

Mess Callメス コールとは

 Mess Call は、アメリカ軍(陸軍・海軍・空軍・海兵隊)で用いられる「食事号令」に相当するラッパ信号です。「mess」は軍隊における共同飲食や食堂(会食所)を、「call」は招集・呼び出しを意味します。

どんな場面で使われたのか

 この信号は、朝・昼・夕食の開始を全隊員に知らせる際に吹奏されます。兵舎での食堂への集合合図としてだけでなく、野営地や訓練地において視覚的な伝達が困難な状況下でも、一斉に食事時間を告知する重要な役割を担っています。

歴史的背景


 19世紀、アメリカ軍がヨーロッパの軍制の影響を取り入れて体系化され、南北戦争期に標準的な号音として定着しました。20世紀以降は、サマーキャンプやボーイスカウトなどの民間文化にも広く浸透し、アメリカで最も親しまれているラッパ信号の一つとなっています。

食事ラッパ譜Mess Callメス コール

 元アメリカ軍楽隊員であり号音研究者でもあるJari Villanuevaジャリ・ビジャヌエバは、「Twenty Bugle Calls As sounded in the U.S. Armed Forces(アメリカ合衆国軍隊の二十のラッパ信号)」の中で、Mess Call について次のように述べています。
「 This call is similiar to the French call “Le Rappel.”
(この号音は、フランスの「ル・ラペル」に似ている。)」

フランスの「Le Rappel」との比較検討

Méthode pour le clairon 1857 LE RAPPEL
Méthode pour le clairon 1857 APPEL AUX CLAORONS
Sonneries générales du clairon 1869 _ LE RAPPEL AUX CLAIROS
Règlement 1877 _ Le RAPPEL Aix tambours et aux clairons
Méthode de clairon par E. Landy 1902 Le RAPPEL

 フランスの歴史的な教本に見られる Le Rappel(「再招集」「集合」の意)の譜面を比較すると、年代によって旋律に差異が認められます。
• 1857年版 / 1902年版(E. Landy 著など): リズムや音形の点で、現行のアメリカ軍 Mess Call とはやや異なる印象を受けます。
• 1857年版 / 1869年版 / 1877年版(陸軍規則など)のLE RAPPEL AUX CLAIROS(ラッパ手招集): 旋律の骨格において、現代のアメリカ軍で用いられている Mess Call との類似性が確認できます。

 これらの点から、アメリカの Mess Call は、19世紀中頃のフランス軍の信号体系から強い影響を受けつつ、独自の変遷を経て現在の形に成立したものと考えられます。

国際的な軍事文化としての食事号音

 本稿では、フランス、スペイン、ポルトガル、イギリス、ドイツ、ロシア、アメリカなど、各国の食事ラッパ信号を整理してきました。国によって名称や旋律には違いがありますが、食事の時間を音で一斉に知らせる」という考え方は、近代軍隊に共通するものであることが確認できます。

 とくにフランスの La Soupe、スペイン語圏の Rancho や Fajina、英語圏の Mess Call などは、単に「食べ始める合図」ではなく、炊事や配給、集合といった一連の行動をまとめて動かすための信号でした。戦闘とは直接関係しないものの、兵士の日常生活を円滑に進めるうえで欠かせない号令として、各国の軍事規則や教本にきちんと組み込まれていました。

 このような共通点を踏まえると、日本の食事号音も、明治期に導入された西洋式軍制の流れの中で理解することが自然です。『陸海軍喇叭譜』に収められた食事号音は、日本独自の運用のもとで定着しましたが、その音の構成や簡潔な反復には、欧米諸国の食事号令と共通する特徴が見られます。

 つまり、日本の食事ラッパは、近代軍隊に広く見られる生活管理の方法を参考にしつつ、日本の軍制や兵営生活に合わせて整えられていったものと考えられます。

 本稿で触れてきた各国の事例は、日本の食事号音を何か例外的なものとして扱うためのものではありません。近代の軍隊が、日々の生活をどのように整え、管理してきたのかという大きな流れの中に、日本の食事号音も自然に位置づけてみるための材料といえるでしょう。こうした見方を手がかりに、次章では、日本の食事号音がどのような経緯で形づくられ、どのように運用されていったのかを、具体的に見ていきます。

HIRAIDE HISASHI


【日本のラッパの起源と進化】シリーズ 1〜30

日本のラッパの起源と進化】 - その1
 
― フランス軍事顧問団とギュティグの役割 ―
日本のラッパの起源と進化】 - その2
 
― 二度来日したラッパ伍長ギュティグ ―
日本のラッパの起源と進化】 - その3
 
― 喇叭譜号 全 (一般信号) ―
日本のラッパの起源と進化】 - その4
 
― 喇叭譜号 全 (運動合図信号) ―
日本のラッパの起源と進化】 - その5
 ― 喇叭譜号 全 (三重奏と部隊信号) ―
日本のラッパの起源と進化】- その6
 
― 『英国歩兵練法』慶応2年の喇叭合圖 ―
日本のラッパの起源と進化】- その7
 ― 『英国歩兵練法』とフェントン ―
日本のラッパの起源と進化】- その7 - 2
 
― 『英国歩兵練法』とフェントン (改訂版) ―
日本のラッパの起源と進化】- その8
 ― 『英国尾栓銃練兵新式』と『英国銃隊練法』 ―
日本のラッパの起源と進化】- その9
 
― 『旭川と佐呂間でラッパ隊を聞く』 ―
日本のラッパの起源と進化】- その10
 
― 『陸海軍喇叭譜 (1885)』その1 ―
日本のラッパの起源と進化】- その11
 
― 『陸海軍喇叭譜 (1885)』その2 ―
日本のラッパの起源と進化】- その12
 ― 『陸海軍喇叭譜 (1885)』その3 ―
日本のラッパの起源と進化】- その13
 
― 『諸外国の「食事ラッパ譜」』 ―
日本のラッパの起源と進化】- その14
 
― 『日本の「食事ラッパ譜」』 ―
日本のラッパの起源と進化】- その15
 
― 『駆歩行進』 ―
日本のラッパの起源と進化】- その16
 ― 『北海道のラッパ』 ―
日本のラッパの起源と進化】- その17
 ― 『浜松まつりのラッパ』 ―
日本のラッパの起源と進化】- その18
 ― 『おかえり祭りは二種類ラッパが交互に響く』 ―
日本のラッパの起源と進化】- その19
 ― 『美川で最初に吹き鳴らされたラッパ譜』 ―
日本のラッパの起源と進化】- その20
 ― 『音商標への登録』 ―
日本のラッパの起源と進化】- 番外編
 ― 『ビューグル』 ― 《BandLifeWorld版》
日本のラッパの起源と進化】- その21
 ― 偕行文庫の『陸海軍喇叭譜』―
日本のラッパの起源と進化】- 番外編
 ― 『ビューグル─音が伝えるもの、形が残すもの』 ―
日本のラッパの起源と進化】- その22
 ― 『イタリア・トリノの消灯ラッパ』―
日本のラッパの起源と進化】- その22 改訂版
 ― 『夜空のトランペットのルーツ』―
日本のラッパの起源と進化】- その23
 ― 『朝はラッパで始まる ― 起床ラッパ二百年の歴史 』―
日本のラッパの起源と進化】- その24
 ― 『いまさらですが「らっぱ」って何ですか』―
日本のラッパの起源と進化】- その25
 ― 『消えゆくラッパの響き ― 佐呂間消防団ラッパ隊の記録』―
日本のラッパの起源と進化】- その26
 ― 『ながのってすごいぞ/御柱』―
日本のラッパの起源と進化】- その27
 ― 『ながのってすごいぞ―消防:基礎編』―
日本のラッパの起源と進化】- その28
 ― 『ながのってすごいぞ―消防:応用編』―
日本のラッパの起源と進化】- その29
 ― 『戦後ラッパ譜の成立 ― 須摩洋朔と自衛隊音楽隊の出発』―
日本のラッパの起源と進化】- その30
 ― 『現代音楽作曲家のラッパ譜 ― 黛敏郎と自衛隊儀礼音楽』―
【日本のラッパの起源と進化】- その31
 ― 『(仮)日本のラッパ文化の構造』―

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