「私が嫌いな町」第1話【全22話】


【あらすじ】

御影新町、そこは憧れていたマイホーム建設予定地。
しかし待ち受けていたのは、希望に満ちた未来ではなく、土地を覆う夥しい黒い靄と暗い結末。
時田智恵は、夫の隆文とお腹に宿る子どもを守ることを決意する。
二十数年後。
実家での新たな生活を始めるために、御影新町へと戻ってきた時田希実は、町や住民に対して抱く嫌悪感や不可思議な現象に苛まれていく。
母が頼った霊能者や幼馴染、さらには調査事務所の協力を得て抗うものの、忌まわしい過去はどこまでも追いかけてくる。
世代を超えて受け継がれる意志や想いが蝕まれていく。
ひとつの町を舞台にしたホラーミステリー。


 なんて静かなのだろう。
 夜半の秋とはいえ、本来ならば凛と響く虫の鳴き声や通行人の足音、走行する車のエンジン音など、日常にありふれた音が今はなにも聞こえてこない。
 もっと身近なものでいえば、家電——冷蔵庫の唸るようなモーターの音、ゆるんだ蛇口から水が滴り落ちる音すらもしない。音だけじゃない。聴覚はもちろん、嗅覚、味覚、触覚も初めから存在しておらず、唯一視覚のみが機能しているようだ。
 だけどそれすらも現実を映しているのではなく、夢や幻のたぐいじゃないのだろうか。そう思えてならない。
 それでもそばに置いてあるスマートフォンから、視線を逸らすことはできない。

「あなたのことは私が守ります」

 困惑する私に微笑んでくれたあの人は、いや、あの人だけではない。私を守ろうとしてくれた人は、みんないなくなってしまった。
 次は自分の番かもしれないのに取り乱すわけでもなく、途方に暮れて涙を流すわけでもない。妙に落ち着いている。
 心残りがあるとすれば早希のことだけだ。
 どうか無事でありますように。
 柄にもなく祈りを捧げていると、さらりとした風が吹き抜けて、閉じていた感覚が一気によみがえり、孤独な静寂に包まれていた時間がざわざわとした音に破られた。
 突如としてなにかが自宅の周囲にあらわれたかのように、音は玄関先や庭、あちらこちらから聞こえてくる。
 手に持ったスマートフォンの質量が、あたかも私の生命そのもののようで、胸に一抹の寂しさと空虚さが広がっていく。

『ごめんね』

 残された力を振り絞り、メッセージアプリで短い文章の送信をタップすると、すぐさま既読のマークがついた。

「よかった……」

 私がそうであるように早希も心配をしてくれているのだろう、彼女は昔からそうだ。
 玄関のほうから音がした。
 とうとう家の中に侵入してきたようだ。だけど逃げることも抗うこともしない、彼らには憐みしか浮かばないのだから。
 ダイニングテーブルに置いたスマートフォンが振動する。早希からの返信が届いたのだろう、だけどもう時間がない。

「ありがとう……さようなら」

時田智恵

 外出を控えてまだ二日目だ。仕方がないとはいえ、持て余した時間が連れてくるのはこれから先のことではなく、ましてや今のことではない。過去の、それも家族にも言わず秘密裏におこなってきたことばかりだ。
 それでも結局残ったのは、年老いた自分ともぬけの殻同然となったこの家だけ。

 何気なく押し入れから持ち出した数冊のアルバム。
 明確な目的や考えはないが、これまで見返すことのなかったアルバムを後ろから開いていく。
 私自身撮影をすることはともかく、被写体になるのは好きではない。そのためか写真一枚ごとに季節の移ろいを確認することができる。
 しかし冊子の年号が戻っていくほどに、アルバムに納められている枚数は増えていき、過去の記録を辿る旅路はゆるやかになっていく。
 過ぎ去りし日に思いを馳せて、感慨に耽るものだろうとは思っている。だけどこれまでの日々がそれらを許してはくれない。
 そしてもっとも古いアルバムの、記念すべき最初の一枚に視線が止まる。
 宅地の中心に『時田邸建設予定地』と書かれた、大きめの看板が立っている。そのすぐそばで孝文さんが胸を張って誇らしげに立ち、反対側には口角を上げただけの、お世辞にもいい表情とは言えない私が立っている。決して緊張していたからではない。
 この時から、もうはじまっていたのだ。

 私は初めて訪れた時から、この土地での生活には反対だった。
 そのことを伝えると、温厚な孝文さんはあからさまに顔を歪めた。

「そんなことを言ったってもう契約は済ませてしまっているしなあ。それにきみだってマイホームを持つのが夢だっただろう」

 反論はできない。確かに私は暇さえあれば、物件のチラシや住宅情報雑誌を眺めて、将来の生活や家族の姿を想像している。

「いい土地じゃないか。新しく開発も進んでいるし、きみも住んでみればきっと気に入るはずだよ」

 孝文さんのマイホームへの情熱やこだわりは、私よりも強く現実的だった。だからこそ任せたのだ。しかしそれは間違いだった。
 本来ならば一緒に建設予定地を訪れるはずだったのだが、その直前に私の妊娠が判明したのだ。
 戸惑いとわずかな不安を抱えて、新しい生命が宿ったことを伝えると、孝文さんは諸手を挙げて喜び私を抱きしめた。
 そしてなにかあってはいけないと、私に留守を託してひとりで御影新町へと赴き契約を決めてきた。そこがいかに素晴らしい土地であるか、どれほど心打たれたかを熱弁する彼に、驚くとともに期待で胸を膨らませた。
 少しは相談してほしかったのに。
 内心そう思ったが、一任すると事前に伝えていたので言葉を飲み込んだ。
 ともあれやがてはじまる新生活への思いが、私たち夫婦の日常に彩りを与えたのは間違いなく、ようやくふたりで新居を見学に行く日がやってきた。
 車で走ること一時間半、助手席から流れゆく田園風景を眺めていると、孝文さんが前方を指した。

「見えるかい、あの辺はもう御影新町なんだ。ぼくたちがお世話になる町だよ」

 奇妙な感覚を覚えたのは、彼がおどけてそう告げた直後からだった。
 車窓の外に広がっているのは都会の喧騒とは無縁の、どこにでもあるのどかな田舎の風景。
 私たちは田舎育ちであったため、いつかはと恋焦がれていたはず。そうだというのに進めば進むほど、肌が粟立ち、気分が沈んでいく。
 予想外のことに動揺していると、緊張をしているとでも勘違いされたのか、「大丈夫だよ」と肩に軽く手を乗せられた。
 そうね……気のせい。初めて訪れる場所だから緊張しているだけ。
 しかしいくら自分に言い聞かせても、不快さはますます募っていく。

「さあ、この坂をあがれば愛しいわが家だよ」

 車がゆっくりとした速度で坂をのぼっていく。S字にカーブをしているため、素早くハンドルをまわす。

「ちょっと生活には不便かもね」

 それすらも楽しげに話す孝文さんに、私は返事をしなかった。それどころではない、頭の隅に浮かんでいる疑惑は確信へと変わりつつある。
 幼いころから不思議な体験をすることが多かった。道端に佇む人らしきもの、徘徊する首のない動物、異様に長い人影などそれらは私にだけ視えていた。それに霊感や霊能力といった名称があることを知ったのは小学生の時だった。
 同時に人ならざるものが視える、そのことを他人には伝えてはいけないものだと、苦い経験とともに思い知った。

「大丈夫かい? 顔色がすぐれないようだけど」

 ようやく緊張などではないことに気がついたのか、孝文さんが心配そうな声をかけてくれた。だからといって、引き返したいなんて言えるわけがない。
「少し乗り物酔いしただけ」
「そう、さあ着いたよ」

 区切りされたなにもない宅地の中心に看板が立っている。
 冬日和の下、私は凍えるような思いでそれを見つめている。

『時田邸建設予定地』

 完成したマイホームの幻、その幻に黒い靄がかかっている。
 ここだけじゃないのね。
 周囲をぐるりと見渡す。
 これから夢や希望の象徴が建ち並ぶであろう広大な土地、その全体に地面から立ち昇る黒い靄が広がっている。

「見えるかな、あっちに商店街があってね。買い物とかはそこまで行かなきゃいけないんだ。車もあるし大丈夫だよ。少し話をしたけど町の人はいい人たちばかりだよ」

 はじまってしまう、ここでの新生活が。

「この場所に住むんですって伝えたら、みんな大歓迎してくれてさ」

 憑かれたように普段は口数の少ない孝文さんが、饒舌に町のよさを語り続けている。
 なんとかしなければならない、孝文さんとこの子は私が守るしかないのだから。
 それからは事態を好転させる手立てがないかを、模索する日々だ。神社仏閣への訪問やご祈祷、お札や魔除けのお守りの収集など、考えられることをひとつずつ重ねていく。だけど数ヶ月後に出産を控えた身重には限界がある。日毎に心身が削られていき、弱気になりつつある。

「なあ、智恵。心配なのはわかるけど、そんなにあちらこちらを参拝していたら身体に負担がかかるよ」
「うん、わかってる」
「本当かい? なんだか最近のきみには鬼気迫るものを感じることがあるよ。それにお守りとかだって安産祈願ならともかく魔除けやら関係なさそうなものが多いし」

 孝文さんはリビングの棚に並べてあるお守りなどを、ひとつずつ手に取っていく。

「もしかして、赤ちゃんのこと以外で心配しなきゃいけないようなことでもあるのかい」
 彼の手前、平静を装っているが鼓動は早鐘を打っている。いっそのこと正直にすべてを話してしまおうかと、気持ちが揺れる。だけど邪魔をするように過去の記憶がまぶたの裏に浮かぶ。
 私に向けられる異物を排除するかのように冷たく、汚物を見るように蔑んだ悪意を含んだ視線の数々。
 でも、もしかしたら孝文さんなら。
 愛する人がすべてを曝け出した自分を受け入れてくれる、そんなものドラマや映画だけの話だ。そんな都合のいいことは現実には起こらない、わかっている。わかってはいるが幻想を抱いてしまう、消し炭にならずに残った、紙片のようなわずかな幻想を。

「……ねえ、孝文さん」
「なんだい?」

 ソファに寝転がり、住宅雑誌を広げている彼は、視線を雑誌へ向けたまま言葉だけを返してきた。

「もし、もしもよ。私にほかの人にはないところがあったらどうする?」
「そうだなあ、それも智恵の一部なんだからぼくは歓迎するよ」

 雑誌を読みながらの返答であるため、どこまで真剣に答えているのか判断しにくい。

「たとえばどんなこと?」

 あえて遠まわしな表現をするか、それとも小細工などせずに直接的に伝えるか。いまだけではない。下手をすると、これまでのことやこれから先の家族のことも、関係性や意味合いががらりと変わってしまうかもしれない。考えれば考えるほど、選択肢は狭くなり軽々しく言葉にすることができない。
 するとなにかを察したのか、彼は身体を起こしてその場に座り、真剣な眼差しを私へと向けて微笑んだ。

「大丈夫。きちんと話してほしい」

 ああ、そうだった。孝文さんの優しさは私がよく知っているじゃない、きっと生まれてくるこの子も優しい子に決まっているわ。そうよね、これは私たち家族の問題なんだから。
 あらためて覚悟を決める。

「ううん、なんでもないの。変なこと言ってごめんね、少し疲れているみたい」

 この選択が正しいのかなんてわからない。孝文さんもこの子もなくてはならない大切な存在、大切だからこそ巻き込みたくはない。不審がられている以上、これまでのように表立っては動かないほうがいいだろう。できることはしている、それでも不安が拭えない。
 意味がない——そう思えてならない。効果がないとかあるとかの意味ではない。こんなものでは太刀打ちできないと感じてしまうのだ。

 困り果てた私は、書店に赴きこれまで意識的に避けていた雑誌を購入することにした。

『月刊オカルト』

 全国津々浦々の怪奇現象や心霊現象を扱う雑誌だ。『M県M市にある廃病院の怪』『F県で目撃!? 人面犬か!』など、私ですら眉をひそめる記事がつらつらと書いてある。
 ページを捲るたびに失望感に苛まれていく、それでも藁にもすがる思いで読み進める。
『実録・私は浄霊に密着した』そんな見出しが広告に混じって掲載されていた。
 一ページにも満たない記事、だけど食い入るように読んでいく。

『私はとうとう本物の霊能者と接触することができたのだ。詳細は伏せるがO町の人里離れた山林、そのなかに霊能者の家はあった。〈中略〉そしてKさんの長年に及ぶ因縁は断ち切られたのだ。その後Kさんの身に恐ろしいことは起こってはいない』

 記事はこれだけだ。詳細どころか肝心なことがまったく書かれていない。こんなものを真に受ける人はいないだろう、一笑に付されるのがいいところだ。
 それでも私は急いで受話器を手に取った。
 残された時間は少なく、いい方法が浮かばない。もうこれしかない。
 一文字ずつ慎重に記載されている数字を押していく。
 何度も断られたが粘りに粘った末に、記事を書いた和束宗一と連絡を取ることができた。

「初めてですよ。私の記事に興味を持ってくれた人は」

 電話越しで彼は喜びを含んだ声色で応対をしてくれた。よほど珍しいことだったのか、「別の記事も読んだことはあるか」「どのような内容がよかったのか」など感想を求められたほどだ。
 それを曖昧に受け流して、私は記事に登場していた霊能者と会いたいことを伝えた。

「そうは言ってもねえ、どうして会いたいんですか」

 和束さんは難色を示していたが、御影新町で視たものや感じたことを包み隠さずに話すと、一転して関心をみせた。

「なるほど。失礼ですがあなたは霊感があるんですか」
「和束さんが仰っているものと同じかはわかりませんが、幼少期から不思議な体験は何度もしています」

 一例を挙げると叫びにも似た声が聞こえた。

「そりゃあすごい。いいですよ、くだんの霊能者に連絡をしてみます。その代わり記事にさせてもらうかもしれませんけど」

 どうやら格好の餌食になってしまったようだ。それでも構わない。
 和束さんからの連絡があったのは、焦りからこちらから再度電話をしようと考えていた時だった。

「お会いしてくれるそうですよ、それで合流する場所ですが」

 驚いたことに彼が口にした地名は御影新町だった。
 孝文さんには友人たちと食事をしてくると嘘をついた。少し胸が痛んだが家族を守るためだと自分を奮い立たせた。
 約束の当日。最寄り駅に到着した私は、教えてもらっていた和束さんのポケットベルへ、メッセージを送るために近くの公衆電話へ向かった。メッセージを送り終えるとほどなくして、一台の車が電話ボックスの横で停車した。そして運転席から三十代半ばの男性がこちらに向かって手を振る。

「時田さんですか、時田智恵さん」

 返事の代わりに頷いた。

「どうぞ遠慮なく乗ってください」

 促されるまま灰色の乗用車の後部座席へと乗りこみ、お腹に注意を払いながらシートベルトを装着した。一連の動作を見ていたのか、彼は一度お腹へ視線を向けると「何ヶ月ですか」と聞いてきた。
 妊娠してからまだそれほど経っていないことを伝えると、彼は「安心してください、慎重な運転には自信があるんです」と笑顔を浮かべてくれた。
 車内での会話はほとんどが彼自身の話だった。まだ小さい子どもがいること、その子どもが健治という名前だということ、どうしてこんな仕事をしているのかなどを聞かせてくれた。
 会うまでは記者という職業柄、胡散臭い風貌を想像していた私は、自分の偏見を悔いあらためた。家族のことを中心に話をしてくれているのは、私を安心させようと気遣ってくれているのだと感じたからだ。

「息子がね、私の影響かオカルトや妖怪といったものに興味を示してしまって。嫁さんによく怒られますよ」
「和束さんは霊感や霊能力といったものはあるんですか?」
「残念ながら」

 和束さんは視線を前に向けたままで、首を横に振る。

「だけど信じてはいますよ。鼻で笑われることだってあるけど、科学が進歩している現代においてもいまだ不可解な現象は起こり続けている。まあ、だからこんな仕事をしているんですけどね」

 わかる気がした。幼いころに比べて、さまざまな現象が科学によって解き明かされている。それに伴って目に映らないものへの関心や興味、恐怖や危機感は薄れてきている。だけど一方で私のように苦しんでいる人々は確実に存在している。

「おっと、対向車だ」

 会話をしている間に、車は一方通行かと勘違いしてしまうような細い道を走っている。私有地の敷地に侵入して対向車を避ける。

「もう少し進んだ先で車を止めて歩きます。なにせ山林の中にあるのでそこから歩くしかないんですよ」

 その言葉どおり、風景に山へと続く道があらわれた。暖房が効きすぎていた車から降りると、山からそよぐ風がなんとも心地よい。道は真っすぐに伸びており、その先に山林がある。

「そこまで歩きにくいわけではないんですが足元には注意をしてください。それから疲れた時や体調が悪くなった時はすぐに教えてください」

 私はお腹を撫でながら頷いた。
 山道は舗装されておらず、大人がひとり歩ける程度の道幅しかないため、道を知っている和束さんが先を行き、そのあとを私がついていく。冬枯れの寂しい景色が続き、徐々に会話がなくなりつつある。
 普段あまり歩かない私は、すでに肩で息をしている。
 こんなところに人が住んでいるのかしら。
 見渡す限り木々しかない、もし道を外れたなら遭難してしまうだろう。あまりの静けさに落ち葉を踏みしめる音でさえ木霊するようだ。

「もう少し進むと巨木を中心に道が二又になっています。いったんそこで休みましょう」

 願ってもない申し出だ。
 まさか山道を歩くとは思ってもいなかったため、靴擦れを起こしている。
 少しして二又の場所へたどり着き、すぐさま乾いた空気にさらされた喉を鞄から取り出した水分で潤す。
 お腹を冷やしてはいけないと厚着をしてきたが、汗を大量にかいてしまい休んでいるうちに身体を冷やしてしまった。

「これ、よかったらどうぞ」

 和束さんは汗を拭いながら、ポケットのカイロを渡してくれた。
 礼を告げて、カイロを上着のポケットに入れて靴を脱いだ。靴下のかかと部分に血が滲んでいる。
 なにかあった時のために、と準備をしておいた絆創膏が役に立った。

「すみません。事前に山道を歩くことになると伝えておけばよかった」

 頭を下げて詫びる和束さんに、「とんでもない」と言葉を返す。

「私、靴らしい靴ってこれしか持っていないんですよ。だから和束さんが謝る必要はないですよ」

 気を遣ったわけではなく、まぎれもない事実なのだ。妊娠してからというもの簡単な家事をする程度で、買い物など大半のことは孝文さんがしてくれている。それに甘えているため、新しい靴を購入する必要がなかったのだ。
 きっと今ごろ、生活のために身を削り仕事をしてくれているだろう。やましいことをしているわけではないが、それでも罪悪感がのしかかってくる。

「あと少しです、行けますか?」

 彼のことを胸にしまい込み、また歩き出す。再び背中が汗で濡れ出したころに一件の家が視界に映りはじめた。円を描くようにぐるりと木々がそびえる中で、拓けた土地の中心に日本家屋がぽつんとあった。



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