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行方知れず 第一話 河合あかり

あらすじ

人々が無作為に行方をくらましていく。国はGPSを配布し、なんとか防ごうとするがその甲斐むなしく行方不明者は12人に。行方不明になるたびに残された絵が示すものとはーー。


「女の子の忘れ物なんて初めて聞きましたよ。今頃お母さんが探してるんじゃないですか」

 警官は眉間に皺を寄せた。

 僕の脚にしがみつきながら、女の子が顔を出した。

「お嬢ちゃん、お母さんは?」

「いない」

「お父さんは?」

「いないよ」

「公園には誰と来たの?」

 女の子は首を横に振った。

「1人で公園に来たの?」

「うん」

 クリクリとした黒い瞳に嘘はなさそうだった。

「おうちは近くなの?」

「あかりちゃん、おうち、ない」

「ない? そっかあ、困ったな。あかりちゃん、だね。苗字わかるかな?」

「うん。かわい、河合あかり」

「何歳かな」

 あかりは右手をパーにした。

「5歳だね。ちょっと待ってて」

 警官はため息をつきながら立ち上がった。190はありそうな長身で、体格が良かった。

 奥の部屋に一旦入り、折り畳みのパイプ椅子を持って戻ってきた。

「ま、ここに座って」

 あかりはおずおずと椅子の横までいったが座ろうとしない。

 まるで椅子を見るのが初めてのようだった。

 僕が隣の椅子に座って見せると、あかりもちょこんとお尻を乗せて座った。

「で、最初から、時系列に沿って話してもらえますか」

 さも面倒くさそうにペンを持ってメモを取る体勢をした。

 僕は、今日の午前10時に家を出た時のことから話し始めた。


 今日は10時に近所の長山公園に散歩に出かけました。僕は自宅でグラフィックデザイナーの仕事をしています。煮詰まると頭をクールダウンさせるために散歩に出るんです。

 長山公園の中に、遊具があるわんぱく広場の駐輪場に自転車が一台止まっていました。公園に誰もいないのに自転車が置いてあることはたまに見るのですが、雨でしたので、おかしいなと思いました。

 子供乗せ用の自転車で、後ろのチャイルドシートには雨用ですかね?カバーがかかっていました。

 そのカバーが揺れた気がしたんです。風もないし、僕はジョギングコーズを横切って自転車に近づきました。

 そこで、ギョッとしました。

 女の子がぐったりしていたんです。


 警官がペンを止めて、初めて僕の顔をまじまじとみた。


 僕は、「大丈夫?」と声をかけました。

 女の子は、


「わたしのなまえは、あかりちゃんだよ」


 そうだったね。あかりちゃんは、ゆっくりと目を覚ましました。

「おじさん、誰?」と聞かれて、

「長山わたる、この近くに住んでいるよ。お母さんやお父さんは?」

 あかりちゃんは首を横に振りました。


 隣であかりが再現するかのように首を横に振っている。


「どっちもいないよ。おじさん、寒い」

 パーカーをかけてやりました。

「いつからここにいるの?」と聞くと、

「ずっと」とあかりちゃんはこたえたので、冗談だろうと思いました。

「あかりちゃんはね、ここに住んでるの。晴れてる日は、この公園で遊んで、雨の日はあのトンネルでゴロゴロしてるんだよ。雨の日は友達もいなくてつまんない。友達がよくお母さんの自転車の後ろに乗ってくるのみてて、気になったから乗ってみたら、あったかくて寝ちゃった」と話してくれました。


「あかりちゃん、本当なの?」

 あかりは「そうだよ」と答えた。

 警官はさらに大きなため息をつき、近くに積んであった書類の束の角がひらひらと揺れた。

 それをみて、あかりが「ふぅー」と息を吹きかけて笑った。


 あかりちゃんは自転車を降りて、僕の手を引いて公園に行きました。

「ほら、おもちゃいっぱいあるでしょ」と言って指差した先には砂場で、スコップやバケツがたくさんありました。

「これ全部、あかりちゃんの?」

「うーん」あかりちゃんは顎に指を当てて考えてから、「お友達が置いてったの」と教えてくれました。

「お友達いっぱいいるんだね」というと、両手いっぱい広げて、「いっぱいいるよ」って。


 あかりは「ふぅー」と吹いて、まだ遊んでいた。


「どうやら、公園にくる子とすぐ友達になって遊んでいたみたいです」


「だって、そうすると、食べ物くれるんだもん」

「食べ物?」

「うん、お菓子とか、飲み物とか、この前は武くん達と一緒にランチってもの食べたよ。ランチって知ってる?こんな形してるんだよ」

 あかりは小さな手で三角形を作った。

「おにぎりのことかな」

「おにぎり?ランチだよ。おじさんは何にも知らないんだね。すっごくおいしかったよ」

「でも、雨の日はもらえないからお腹空くよね」


「ちょっといいですか」

 警官が僕に手招きし、小声で、「この街で、こういった事例がこれで3件目なんですよ」と言った。

「そうなんですか。他の子はどうしてるんですか?」

「身内の引き取りがあるまで児童施設で預かってもらっています」


 僕はあかりを見つめた。

 目があって、あかりはにっこりと笑った。


 僕はその後書類に連絡先などを書いて、交番を後にした。

 あかりは「バイバイ、おじさん、また明日も来てね」と無邪気に笑っていた。

 僕は「もちろん」と言って自宅へ向かった。




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