#639[短編]琥珀色の間[28]──追いついた背中・I
澪と豊川が言うには、爽子が渡航するのはもうすぐだと言う。待つか、追うか。揺れる大翔。連載第33回。
1話、2話、番外編・大翔、3話 -I、3話 -II、3話 -III、4話、5話-I、5話-II、5話-III、5話-IV、5話-V、6話、7話、番外編・爽子、8話、9話、10話、11話、12話、13話、14話、15話、16話、17話-I、17話-II、18話-I、18話-II、19話、前半まとめ
※ 連載ですが、どのお話からも読めます。
彼女の気持ちを尊重するなら、追わない方がいい──
プロジェクターにはテロ事件の起きた空港の映像が流れていた。毎日どこかの国でこういうことがある。
爽子に自分が必要かなんて確かめようもない。それでも足が前に出そうになる。ただ、爽子の気配が遠くなるのが怖かった。
「澪さん。爽子さんはどちらへ?」大翔は息を整えようとして、思わず声が裏返りそうになった。
「中東?あれ、どこでしたっけ」澪は豊川を見る。
「ああ、国までは……」豊川は一瞬、戸惑うようにグラスをみて考え、ゆっくりと白い煙を吹き出した。
「そうですか……」爽子に迷惑をかけたくない──大翔の喉に炭酸が刺さる。
「大翔さん。まだ間に合いますよ」澪が穏やかに言う。豊川も静かに頷いた。
「まだ食事でもしてるんじゃないかな。タクシーなら出発ロビーまで直接行ってくれるけど……呼ぶ?」
「爽子ちゃん、いつも早いですからね」
澪の言葉に、大翔はハッとした。最後に会ったあの桜吹雪の日も出勤まで3時間以上もあった、爽子の姿が蘇る。
豊川はスマホを持ち上げて、大翔を横目でみる。酒も入っており、空港に不案内なら電車より確実だ──その判断に大翔は同感した。豊川はアプリでタクシーを予約すると、すぐに会計を済ませるよう勧めた。
◇
大翔は財布を確かめ、無造作にコートをつかんだ。
豊川の言葉通りに、会計を済ませて店の外に出ると、タクシーはもう来ていた。車内に滑り込み、ひと呼吸おいてから「国際線ターミナルまで」と告げた。
大翔は携帯を握りしめ、手にじわりと汗が滲む。ふいに画面が青白く光った。澪からだった。
[X航空 yyy便、22:05]
大翔は短く礼を返し、深く息をついた。
少し落ち着きを取り戻して、窓の外に目を向ける。
夜の街のあかりが流れていく。そのひとつひとつに誰かの暮らしがある──そんなあたり前のことを、いままで考えたこともなかった。
「ありがとうございました」
大翔は運転手に礼をして、出発ロビーへ向かった。
途中にあった電光掲示板で、澪の言った便は定刻通りに出発することがわかった。
◇
出発まで時間がない。もう保安検査を過ぎていたら、二度と会えないかもしれない。最後に話した日──あの教会のオルガンが聞こえた夜、いや、その前の、桜吹雪と讃美歌も、きっと兄のいたずらに違いない。
高い天井から降り注ぐ、少し青みがかった白い光。電光掲示板に明滅する世界中の都市の名前が交差する。大翔は目がくらんで足がもつれそうになり、思わず立ち止まる。指先がじっとりと湿っていく。
その時、大翔の胸に何かの角が強くぶつかった。
「Sorry ! My fault…」
大翔は反射的に一歩下がり、無礼を詫びた。
目の前の外国人女性がよろけて、バッグが肩から落ちそうになる。
── It's perfectly fine.
(ええ、大丈夫ですよ)
── I’m so sorry. Are you all right?
(本当にごめんなさい。お怪我はありませんか?)
── No worries. It happens in a rush.
(本当に大したことないの。急いでいる時はよくあることよ)
黒のゆったりとしたズボン。深い青のマントの下から生成りのチュニックが覗く。彼女は落としたスマートフォンを拾い上げて、画面のほこりを指でぬぐう。
大翔は彼女と同時に屈んだが、彼女の方が拾うのが早かった。その瞬間、凛とした英語の響きに、思わず彼女の顔をみた。
大判の黒いストールが、空港のやわらかい光の下で、彼女の輪郭をやわらかく包んでいた。
<了, 約 1,500 字>
こんばんは。タクシーのシーンを書くのに、
暗がりで推敲していたら、カクンと落ちてしまい。
明日、最後のところを中心に直します🙏
ごめんなさい🙏💦
おやすみなさい😣

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