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「青の姫 The Blue Princess」第一章 語りべ(創作大賞2026ファンタジー小説部門)

<あらすじ>
ある名もなき小さな国に生まれた、たぐいまれな青い瞳を持つ姫君。「青姫」と呼ばれた王女は故郷からひそかに抜け出し、はてしない旅に出る。その途上で出逢った忘れえぬ人々と体験。長い旅路のはてに最後の目的地へ辿りつく。「青」という色の神秘に惹かれるすべての人々に捧げる物語。
(作者自身によるイラストが追加される予定です。)

        ー今は忘れられたある作家の言葉ー

美しい言葉、真実の言葉に常にふれていなさい。
すると、新しい言葉にふれたときに、それが本物かどうか、すぐにわかるようになります。乾いた唇が清らかな水のような、心臓をふるわせる力強い太鼓のような、あなたの額にある「第三の眼」が突然開くような、そんな言葉。それはあなたの一部になり、一生を支えてくれます。心の奥底に沈んでいて、あなたが必要なときに甦ってきます。それはすでにあなたの心という書物に書きこまれたのですから。
そのような言葉が書かれた本は、無数にあります。異なる時代、文化によって、さまざまな書き手による物語。けれど実は同じ本なのです。豪華な作りだろうと、紙に鉛筆で走り書きされたものだろうと。外側の衣に関係なく、真の言葉は、決してほろびません。それを書いた人と読む人がそれを見出すならー
すなわち「真理」を。
それらの言葉は永遠にに語りつづけます。

あなたはそのような本に出逢いましたか?
はい、と答えるなら、さいわいな人よ、その本はずっと、あなたを待っていたのです。

青姫と青い花

第一章 語りべ ― 伝える人

その人と出会ったのは、砂漠の中にぽつんと生まれた小さなオアシスにあった宿でした。
どの国の何という場所だったのか、今となっては思い出せません。地図にものっていないので、探すすべもありません。あのオアシスも時とともに消えてしまったかもしれません。
私は一生の間、旅してきましたが、その中で見た一夜の夢だったのではないかと思うこともあります。(ええ、私は夢の中でもずいぶん旅をしました)
しかし、それは自分自身ではとうてい思いつきようがない、おどろくべき物語なのです。私の記憶がうすれる前に、書き残しておかなくてはと筆を走らせています。
あなたがこの物語を読んでくれたなら、私がこの世から消えても、きっとだれかに伝えてくれるはず― それが私の小さな星のような希望であり、願いなのです。そして信じています。

***

その晩、宿に泊まっていたのは、私とその人だけでした。
いつ建てられたのかわからない、砂漠の空気でからからに乾いた小屋には、泊るとて一部屋しかなく、質素な寝床がいくつかあるだけです。つかの間の休息と一夜の眠りのためだけの場所。
なれた旅人によくあるように、私たちは簡単なあいさつをして、寝床に入りました。しかし、その夜は不思議に眼がさえて眠れません。となりで寝ている人も同じようでした。
私が何度目かの寝がえりを打ったとき、低いおだやかな声が闇の中で聞こえました。
「眠ろうとすればするほど、眠れないものですね。」
「ええ、ほんとに。」私はほっとしてうなずきました。

「では私たちの眠りのために、ひとつ物語をさせていただきましょうか。かなり長くなりますが、あなたが起きているかぎり、お話しします。」

快い眠りにみちびくような静かな声が、語りはじめました。しかし、彼が語れば語るほど、物語にひきつけられて、ついには寝床から起き上がってしまいました。すると、相手も起き上がり、部屋のすみにあった小さなろうそくに火を灯しました。

ろうそくの光に浮かび上がったその人の顔が、今も忘れられません。長旅で日差しを浴びつづけた赤茶けた肌、瞳は星のように輝き、若いのか年取っているのかわかりません。どこか古い絵に描かれた天使に似ていました。軽やかで、かすかに哀しげなほほえみ。

どれだけの時がたったのでしょう。ろうそくはいつしか燃えつきて、窓から差し込む月明りだけが部屋を照らしていました。

彼が語り終えたとき、私はたずねました。
「あなたは、この物語を誰からきいたのですか?あるいは本で読んだのですか?」

月に照らされた顔は、はるか昔のどこか遠くを見つめているようでした。長い沈黙のあと、彼はこたえました。
「私も旅の途中、どこかの宿で、ある旅人からきいたのです。」

もうひとつ、私が彼にたずねたことがあります。

「あなたの名前は?」
「旅人。」

「それなら、私だってそうですよ。」と私が抗議するように言うと、あの静かなほほえみを浮かべて、

「そのとおり。私たちは、みな同じ名前なのです。たとえ自分の生まれ育った場所にいても、誰もが旅人なのです。」

翌朝起きると、となりの寝床は空っぽで、その姿はあとかたもなく消えていました。

私は時々考えるのです。
自分は本当にあの人に出会ったのだろうか?夢ではなかったか?
彼に出会ったあかしは、ただ私の記憶、彼からきいたこの物語だけなのです。

それでは語りましょう。



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