7月のネイチャーポジティブサミット前に読む:“ネイチャーポジティブで稼ぐ”ための10の勝ち筋
2026年7月14日から16日まで、熊本で第2回 Global Nature Positive Summit を開催いたします。同サミットは、2022年に196か国が合意した昆明・モントリオール生物多様性枠組、いわゆるGBFの実装を加速する国際イベントであり、特にビジネス、金融、ガバナンスにおけるネイチャーポジティブの道筋を示す場と位置づけています。これは、日本企業にとって大きなタイミングです。
これから重要になるのは、「自然を回復させることで、企業はどのように価値を生み出すのか」という問い、そしてその先です。「ネイチャーポジティブで稼ぐ10の勝ち筋」を、今まで書いてきた記事とともに、業種別に整理してご紹介いたします。ご自身に関心のある産業だけを拾い読みいただければ幸いです。
今日も楽しんでいってくださいね!

ネイチャーポジティブは、イノベーションに始まり、「開示」でおわる
いま多くの企業では、ネイチャーポジティブという言葉が、TNFDや生物多様性開示や保護区(自然共生サイト)とセットで語られています。でも、これは出口であって、入口ではありません。技術と事業を変えるところが始まりで出口が開示と保護区設定で終わる会社と、技術と事業を変えない会社の間には、収益に大きな差が出てしまうと思われます。自然関連の移行計画とは、簡単に言えば「自然損失が止まり、回復に向かう社会に合わせて、自社の採用技術とビジネスモデル(事業、投資、調達、商品、組織)をどう変えるかを示す計画」です。多くの企業が入口としているTNFDでは、自然関連の移行計画について、GBFの目標に沿うための将来志向の戦略、行動、説明責任の仕組みを、組織の主要な事業戦略に組み込むものとして整理しています。つまり、ネイチャーポジティブは、今までとは異なる技術を採用し、事業戦略の中身を変えるイノベーションのIssueなのです。
世界経済フォーラムとOliver Wymanは2026年3月に、自然に関する50以上の投資可能な事業機会を整理したレポートを公表しました。同レポートは、精密農業、バッテリーリサイクル、バイオ素材など、自然への負荷を下げながら収益やコスト削減につながる機会が、すでに実体経済の中に存在すると示しています。
ここから見える結論はシンプルです。ネイチャーポジティブは、CSRではなく、次のイノベーションによる成長戦略です。
では、どのような産業にとっての勝ち筋でしょうか?今日は10の勝ち筋イノベーションを、ご紹介いたします。
1. Nature Tech企業:自然を、現代にデザインする
最初の勝ち筋は、Nature Tech企業です。ネイチャーポジティブの最大の壁の一つは、自然が制御できないこと、デザインしづらいことです。「自然の恵み」という言葉があるように私たちは自然を使ってきました。その際に、自然がどのように回復し、どのように関係しているかの知恵は、地域地域のローカルに収まってきていましたが、これらが集積してイノベーションになかなか至りませんでした。しかも自然は、場所によって意味が変わります。同じ1ヘクタールでも、都市の空き地、里山、湿地、熱帯林、農地、干潟では、生態系としての価値が違います。データとAIが担える部分が大きくな、衛星データ、地理情報、気象データ、土地利用データ、河川データ、種の分布データ、企業のサプライチェーンデータを組み合わせることで、企業は自然リスクと機会をより早く、より安く、より広く把握できるようになります。
例えば、どのようなテクノロジーがあるのかのコレクションは、Nature Tech Collective (NTC) が行っています。NTCでは、ネイチャーテックを「自然ポジティブへの移行を可能にし、加速させ、規模を拡大させるあらゆるテクノロジー」と定義し、この定義に基づき、NTCは市場を5つの主要カテゴリーに分類する「5Mフレームワーク」を提唱しています。
詳細は、上記の記事で十分ではないかと思いますが、今後増えてくると思われるのは、ネイチャポジティブ関連のビジネスプランコンテストあるいはベンチャーコンペです。まだ見ぬ技術こそ、新しい世界の地平を開くのは、この分野に限ったことではありません。そして、目利きや腕利きが集まって寄ってたかって成功させエコシステムを作り上げるモデルこそ、ネイチャポジティブ経済を成功させる要になります。例えば、TNFD、Conservation X Labs、UNDPによるNature Intelligence for Business Grand Challengeでは、自然に関する考慮を中小企業の中核的な事業活動に実装する実用的なソリューションを選定し、12のファイナリストが発表されています。
環境技術を創ることができたらば、それをブランディングして、B2BあるいはB2Gに売り込むマーケティング戦略を進めることによって、ビジネスとしてより幅広く価値に変えてゆくことができるようになるでしょう。
日本が強い技術分野には、水管理関連・水質浄化、バイオステュミラント、ネイチャポジティブ関連データセット、バイオテクノロジー、モニタリング、プラントエンジニアリング、さまざまなシードがあります。環境DNA技術も日本発の技術で急速に採用が広がり、発展している注目技術です。
日本は、生物多様性や自然が多様で豊かであるため、テストフィールドをたくさん保有しているという強みがあります。テクノロジーがどのように機能するのかを、把握するフィールドが多いということです。このフィールドを次々デジタルツイン化して、自然のシミュレーションを多数行うことで、ネイチャーポジティブとして成功するモデルをAIが導出し、ビジネスとして成功を速やかにすると考えられます。ネイチャーポジティブの実装には、現地の生態学的な知見が必要です。一方で、すべてを専門家の手作業で進めると、スピードも費用も限界があります。ここに、テクノロジー企業の大きな商機があります。
以上、この領域の勝ち筋は、次の3つです。
1つ目は、さまざまなネイチャポジティブ関連の需要と活用可能な技術を棚卸すと同時に、ネイチャーのデジタルツインツールをAIベースで用意すること。令和の里山資本主義ならぬ、今の時代に合った自然と人の共生モデルを探る。
2つ目は、建設、不動産、食品、金融、自治体がこれから3年、ネイチャーポジティブに向けてPoCを始めることに向けて適用すべきイノベーションを提案すること。その際、日本国内にとじず、世界に向けてマーケティングを行うこと。
3つ目は、ビジネスとして成立が始まったら、環境技術ブランディングを通して知名度を世界に、高め、ビジネスを広げること。
2. 食品・農業・水産業:食を「守り」から「健康価値」に変える
2つ目の勝ち筋は、食品、農業、水産業です。この業種は、自然資本への依存が非常に大きい業種です。水、土壌、花粉を運ぶ昆虫、森林、海、河川、生態系の安定がなければ、原材料は安定して供給されません。
本質的には、食べ物の摂取の仕方の全般を見直す必要があると提言されています。第一に自分にとっての健康な食とは何か?そして、第二にそれが続けられるような地球にも健全な食とは何か?これを考え、健康な体を維持すること、そんな食習慣にシフトできることが最大の食の価値です。
食に関するイノベーションは、続々と展開されています。食を考え直すためには、イノベーション起点からバリューチェーンを考えることが最大の成果につながります。
食品、商社、小売、外食、素材メーカーにとって、トレーサブルな調達、つまり「どこから来た原料かを追える仕組み」が競争力になるということです。森林破壊に関わらない。違法漁業に関わらない。児童労働を避ける。認証原料を使う。もちろん、これは必要です。しかし、これからの勝ち筋は、その一歩先です。自然に配慮した調達を、商品価値に変えることです。たとえば、再生型農業で育てた米、土壌の炭素や生物多様性を守る野菜、森林破壊ゼロのカカオ、藻場回復と結びついた水産物、流域保全に貢献する飲料などです。消費者にとって「環境によい」という言葉だけでは、まだ弱いかもしれません。しかし、「この商品を買うと、土壌が守られる」「この魚を選ぶと、海の生態系回復に資金が回る」「このブランドは水源地を守っている」と説明できれば、商品に物語と根拠が生まれます。特に注意すべき外部環境は、EU森林破壊防止規則、いわゆるEUDRです。EUDRでは、対象商品をEU市場に出す事業者やEUから輸出する事業者は、その商品が最近森林破壊された土地に由来しないこと、また森林劣化に関与していないことを示す必要があります。日本企業にとって、これは単なる欧州規制対応ではありません。
そして、人の健康につながるのが、何より、土壌の健康。食品・農業・水産業にとって、ネイチャーポジティブは守りの規制対応であると同時に、ブランド戦略です。「農薬が少ないから、有機野菜は農薬を摂取する確率が低くて健康である」と言う心理的恐怖がないことに基づくブランドではなく、「野菜が健康だから、美味しくて長持ち」という素直な価値に基づくわかりやすいブランドづくりです。
すでに現場をお持ちの皆様にとっては、農林水産省は、みどりの食糧システム戦略に資する技術群を公開していますので、とても参考になります。
なお林業は「森業」に、漁業は「海業」あるいは「ブルーエコノミー」という言葉でそれぞれ、六次化とネイチャーポジティブに向けたキーワードが始まっています。
日本では、農林水産省が近く開始する、MIDORI BOOSTが、みどりの食料システム戦略を健全なバリューチェーンとした投資対象として積極的にゆこう!としている、こちらに該当する戦略になりそうです。
どんな形で展開が始まるかが楽しみですね。
この領域の勝ち筋は、次の3つです。
1つ目は、ワンヘルスの視点で、人の健康と地球の健康を同時達成する食文化をデザインすること。
2つ目は、農家、漁業者、加工業者、小売をつなぐ自然資本型サプライチェーンを作ること。
3つ目は、消費者に「自然を回復する商品」として伝えるブランド設計を行うことです。これを裏付ける、森林破壊ゼロ、海洋保全、土壌回復を組み込んだ高付加価値商品を作ること。
3. 建設・不動産・都市開発:生物多様性を「景観」から「資産価値」に変える
3つ目の勝ち筋は、建設、不動産、都市開発です。この業種では、これまで自然は「開発の制約」と見られがちでした。
緑地を残す。植栽を入れる。環境アセスメントに対応する。外構を整える。
しかし、これからは違います。自然は、制約ではなく、資産価値を上げる要素になります。都市の緑は、暑熱対策、防災、雨水管理、健康、ウェルビーイング、景観、入居者満足度、フードセキュリティに関わります。「安心で映えが良い」。さらに、これらを定量的に示せるようになれば、不動産価値や投資判断にも接続しやすくなります。古い不動産のネイチャーポジティブなリフォームにより価値を高めた、そんな事例もいくつも見受けられます。
どんな街を、街区をあなたの地域にはふさわしいのか?まずはデザインから始まります。
まちづくりや建設に、「生物多様性」を配慮することは生活や近所で、ハイキングやリゾートが共存するということでもあり、ここが価値のポイントです。実は遠くのリゾートに行かなくても近所に、まだ知らぬ自然を創りこむことができるのです。
ここで注目すべき動きが、生物多様性の測定です。例えば、大成建設のJapan Biodiversity Metricは、土地の「生物の生息場としての価値」に着目し、生物多様性を定量評価する手法です。土地被覆ごとの「量」と「質」から価値を算出し、開発前後の比較によって、生物多様性への影響、つまり増加か損失かを評価します。
こうした動向は、不動産・建設業界にとって大きな意味を持ちます。これまで「緑が多い」「自然に配慮している」という表現は、やや感覚的でした。しかし、これからは「開発前よりも価値がどれだけ増えたか」を数字で語る方向に進みます。また、不動産の観点からは、土地活用、土壌そのものも希少価値のある自然資本として見逃せません。
食べられる街をデザインした町もあります。
寺院の庭が観光スポットになるように、建材コストが高騰する中、建材を使わない緑による価値の創出方法を新めて考える機会かもしれません。建設・不動産業界では、これからは、「自然を増やす開発」が競争力になりそうです。この領域の勝ち筋は、次の3つです。
1つ目は、緑地をコストではなく、賃料、入居率、防災力、快適、ブランド価値に効く投資として設計すること。逆言えば、価値に効く緑地を投資するのです。
2つ目は、建物単体ではなく、街区、流域、周辺生態系まで含めて景観やアイコニックな価値が高まるデザインで設計すること。
3つ目は、開発後の維持管理、発展、物語創造まで含めて、生物多様性の効果や土壌や水などの自然資本が回復し増すよう設計し、測定し続けることです。
なお、建設・土木・不動産分野でのTech/イノベーションについては、来年の国際園芸博覧会で勢ぞろいすると思われます。こちらも楽しみですね!
4. 観光・宿泊・交通業:国立公園を「消費する場所」から「再投資する場所」に変える
4つ目の勝ち筋は、観光、宿泊、交通業です。
日本には、世界に誇れる自然があります。国立公園、里山、海岸、湿原、温泉地、山岳、島しょ地域。これらは、観光資源であると同時に、地域の自然資本です。しかし、観光客が増えれば、自動的に地域が豊かになるわけではありません。利用者が増えると、登山道やトイレ、駐車場、案内施設の維持管理費が増えます。ごみ、踏み荒らし、外来種、混雑、騒音などの環境負荷も高まります。地域の人手不足も深刻になります。つまり、自然観光は「人が来るほど収益が増える」だけではなく、「人が来るほど維持費も増える」ビジネスです。
ここで重要になるのが、利用者負担です。環境省が策定した「国立公園における利用者負担制度導入のためのガイドライン」は、国立公園における自然環境の保全と適正利用を持続的に進めるため、制度導入から実施、改善までのステップを体系化したものです。2025年の国立公園の訪日外国人実利用者数は推計988万人で、2019年の1.48倍になったとされています。ユーザーベースが増えている=税金支払い対象外からの利用価値も高まっていることから、メンテナンスコストを利用者広く負担することは自然なことです。
これは、観光業にとって大きな転換点です。これまでの観光は、「自然を見せて収益を得る」モデルでした。これからの観光は、「自然を守る費用を観光体験の中に組み込む」モデルになります。実際、人気の観光地は混雑やゴミ問題、そうでない観光地は施設や自然の破損や劣化が、「がっかり」につながります。「良い自然」への出会いの期待値が上回る体験であることが、「また行きたい」につながります。
入域料、利用料、宿泊料の一部寄付、任意寄付、ふるさと納税、体験料、ガイド料、交通利用料。これらを組み合わせることで、自然保全の財源を作ることができます。そして、その価値をユーザーの認識を通して、ユーザーがさらに楽しみに繋げる連鎖ができるデザインが大切です。
この領域の勝ち筋は、次の3つです。
1つ目は、利用者負担を単なる値上げではなく、自然への再投資としてしっかりわかりやすくコミュニケーション設計すること。
2つ目は、宿泊、交通、ガイド、飲食、土産、寄付を一体で体験として設計すること。
3つ目は、保全の成果を来訪者に見える形で伝え、リピートをくすぐることです。
観光業にとって、ネイチャーポジティブは「自然を守るための負担」ではありません。質の高い自然体験を間口広く、長く提供するための戦略でもあり、顧客とのエンゲージメントの要にもなります。
自然から切り離されて、都市に住んでばかりいると、自分が生物であること、自然の中で暮らしてきたという霊性を失ってしまうことがあります。
改めて、自然の中を旅をすることで、人生と魂を取り戻す機会につながるはずです。これが、観光ではなく、ネイチャーポジティブツーリズムだからこそ提供ができる真の価値のはずです。
5. 金融・保険業:自然を「リスクチェックリスト」から、本業の「投融資テーマ」に変える
5つ目の勝ち筋は、金融・保険業です。金融機関にとって、自然資本はこれまで、一般論は理解できても、個別案件の具体がどうしたらいいものかわからないものでした。気候変動であれば、CO2排出量、エネルギー使用量、移行リスク、物理的リスクという整理が比較的進んできました。一方で、自然は複雑です。水、土壌、森林、海、生物種、地域社会、土地利用が絡み合います。しかし、だからこそ金融機関の役割が大きくなります。
ネイチャーポジティブの事業は、単発の保全活動だけでは広がりません。
資金が必要です。融資が必要です。保険が必要です。パートナーシップが必要です。投資家が評価できる指標が必要です。
実際、金融機関もグリーン経済がリターン面で競争可能であることを認識し始めています。まずは、国際的な先行事例が報告されはじました。
特に開発銀行や世界銀行などは、具体的に方式や事例をまとめて公表しています。例えば、ADBはアジアのNbSへの投資、世界銀行はブルーファイナンスに関するレポート等を出しており、その後も続々と出ています。
ネイチャー分野は基本公共財であり、この上で、私的なサービスが乗る形になります。このため、金融もブレンデットファイナンスが主流になると思われます。
「お天気任せ」「自然にはかなわない」という言葉があるように、ネイチャーになると、こうしたリスクをヘッジするためにパラメトリクス保険などが、重要になります。
また、環境省は、こうした背景から、グリーンファイナンス(ローン)に向けた、ガイドラインを出しています。グリーンリストを、自然を対象に改訂しています。具体的に案件判断に使える水準で、整理されています。
まず、金融機関にとって、大きな商談は、グリーンインフラになるように思われます。顧客企業の将来リスクを見抜き、新しい投資先を作るためのテーマです。特にグリーンインフラや流域などは検討が進んでいます。
特に国内では、流域単位で、森林と水と土壌と漁場と親水空間などを連携させてみてゆく流域グリーンインフラの領域は関心が高く、取り組みが進められており、ファイナンスも期待が進むと思われます。部局横断的なこうした活動は、従来の縦割り型の行政の予算をコスパ良く使う方法として注目されています。
こうした新しい金融を技術的に支えるのがリモートセンシングや環境DNAなどの進化です。特に幅広くファイナンスを行う際に、衛星データは必須ともいえる存在です。
金融・保険業の勝ち筋は、次の3つです。
1つ目は、自然リスクを融資審査や投資判断に組み込むことです。
たとえば、水リスクの高い工場、森林破壊リスクの高い調達、土壌劣化に依存する農業、沿岸災害に弱い不動産などを評価することです。
2つ目は、自然回復型プロジェクトに資金を流すことです。
たとえば、流域保全、藻場再生、湿地回復、森林再生、再生型農業、自然を活用した防災などです。
3つ目は、自然関連KPIを使った融資商品や保険商品を作ることです。
KPIとは、成果を測る指標のことです。自然関連KPIであれば、水使用量、化学肥料の削減、森林破壊ゼロ調達、自然回復面積、生物多様性スコアなどが候補になります。そして、それを適切な技術でMRVを実施することです。
なお、町のインフラは1件1件マネジメントするより、まとめて管理することにより、コスパの良い管理につながります。公共予算は人が慢性的に不足する現場では重要なTipsになります。
6. 製造業・素材・化学業:自然負荷を「原価」から「競争力」に変える
6つ目の勝ち筋は、製造業、素材、化学業です。製造業は、自然から遠いように見えて、実は深く依存しています。
水を使います。鉱物資源を使います。木材、紙、繊維、ゴム、植物由来原料を使います。工場の立地は、洪水、渇水、土砂災害、熱波の影響を受けます。排水、廃棄物、化学物質は、生態系に影響を与える可能性があります。
この業種のポイントは、自然負荷を「避けるべきコスト」と見るのではなく、「製品競争力の源泉」に変えることです。たとえば、バイオ素材、リサイクル素材、低水リスク素材、土壌や水質への負荷が少ない化学品、循環型パッケージ、自然由来の機能性素材などです。ここで重要なのは、製造業が単独で自然を回復できるわけではないという点です。サプライヤー、物流、小売、自治体、金融機関と組む必要があります。製造業にとって、ネイチャーポジティブは、環境対応ではなく、次世代の製品開発テーマです。
そして、資源の有効活用できるかを上流でデザインする、ビジネスモデル変革のイシューです。世界経済フォーラムのレポートでも、バイオベース素材やバッテリーリサイクルなどは、自然への負荷を下げながら収益やコスト削減につながる機会として示されています。
加えて、これらが、きちんと顧客に伝わり、取引先が理解できるようにフットプリントでコミュニケーションすることが、取引先が、官公庁や大手企業の場合、とても効果的です。ネイチャーフットプリントが最先端のLCAになります。
製造業の勝ち筋は、次の3つです。製造業については、モノは越境して販売されますから、製品視点での開示コミュニケーションが重要になります。
1つ目は、まず最初に「自然負荷が低い製品」を顧客企業の調達要件に合わせて(特に欧州向け)、データとともに提案することです。原材料調達の自然リスクを見える化すること。
2つ目は、製品設計の段階で、廃棄、汚染、水使用、生態系影響を減らすこと。循環型対応することで大きな効果を出せるはずです。この活動をTNFDで発信する。
3つ目は、ネイチャーポジティブなビジネスモデルを学び、改めて自社に適用して、小さく試してみる。
なお、製造業の直近の革新は、AI活用への全振りになると思われます。すなわち、サービス化へのシフト、AI化・自動化・デジタル化が今後のイノベーション領域になると思われます。これは一見、環境負荷が下がるように思えますが、実際は、デジタルは立地するデータセンターで自然資本の上に成り立っており、地域とコンフリクトが発生していることは理解しておく必要があります。
7. 小売・商社・物流業:サプライチェーンを「見えないリスク」から「見える信頼」に変える
7つ目の勝ち筋は、小売、商社、物流業です。
この業種は、自社で自然を直接壊していなくても、サプライチェーンを通じて自然に大きな影響を持ちます。コーヒー、カカオ、パーム油、牛肉、大豆、木材、ゴム、紙、衣料品、化粧品原料。これらの多くは、森林、水、土壌、生物多様性と深く関係しています。消費者は、商品棚に並んだ商品だけを見ます。しかし、その商品がどこで作られ、どの森や農地や水域に関係しているかは、ほとんど見えません。
これからの勝ち筋は、その見えない部分を信頼に変えることです。EUDRのような規制は、小売や商社にとって負担です。しかし同時に、トレーサビリティ、つまり原料や商品の由来を追跡できる力を高める機会でもあります。日本においては、特にアジアと日本のサプライチェーンが重要になります。
また、安全保障の視点からは、食糧のバリューチェーンが重要になります。重要になる、すなわち、商機でもあります。
この領域の勝ち筋は、次の3つです。
1つ目は、調達先の自然リスクをデータで把握すること。
2つ目は、森林破壊ゼロ、海洋保全、土壌回復などを商品政策に組み込むこと。
3つ目は、消費者に対して「安いから買う」だけでなく、「信頼できるから買う」理由を提供することです。
小売・商社・物流業は、自然と消費者をつなぐ接点です。だからこそ、この業種が変わると、市場全体が変わります。この際の説得ポイントは、買い手側にとってこの「投資」はどんな良いものであるのか?のストーリーを構築することです。信頼は、自然へのアカウンタビリティではなく、最初に、買い手にとっての価値としての信頼であり、それを裏付けるのが、自然へのアカウンタビリティです。
ここの本末が転倒すると、消費者の信頼にはつながりません。
8. エネルギー・インフラ業:自然を「守る対象」から「快適で安全な暮らしのインフラ」に変える
8つ目の勝ち筋は、エネルギー、インフラ、公共施設、上下水道です。この業種では、自然はしばしば「保全すべき周辺環境」として扱われてきました。しかし、これからは自然そのものをインフラとして活用する発想が重要になります。
まず、最初は、火のインフラ、エネルギー業界におけるネイチャーポジティブの潮流を見てまいりましょう。
ネイチャーの観点で、日本は地熱の活用のポテンシャルも少なくないと指摘されています。
続いて、水のインフラ、流域や水管理に関するネイチャーポジティブの潮流を見てまいりましょう。
これらは、流域全体を管理する「スマート流域マネジメント」として今後の勝ち筋として注目されています。水は上下水、汚染、毒性、温度帯レベル別で違う水の種類であり、水の利用の需要はそれぞれに違いがあります。流域の上流には森があり田んぼがあり水を涵養し、中流には農村があり水を使用し排水し、下流には都市がある。また、湿地は洪水をやわらげます。雨庭やグリーンインフラは、都市の雨水管理に役立ちます。これらの需給や保水を全体でデジタルで管理をするのが、スマート流域マネジメントです。
またテクノロジーとしては、増水・渇水を見てゆくために本質的にはどのように今後なるかを予測できるリモートセンシングやAI活用も重要なイノベーションです。
また、人々が使い終わったものを処理するインフラも重要です。近年では、ごみ焼却プラントは、発電や熱エネルギーを提供するプレイヤーのひとつになっています。エネルギー事業者の脱酸素戦略のひとつにもなっています。
また、汚染された土壌を回復することも重要です。その前に、土壌が重要なインフラであることの理解が最も重要かもしれません。
国内では、土壌の劣化対策としては東京都のベストプラクティスがあります。官民一体となった、土壌汚染対策がポイントです。
エネルギー・インフラ業の勝ち筋は、次の3つです。
1つ目は、インフラ計画に自然とのかかわりを整理して、回復計画を組み込むこと。エネルギー事業においては、リーズナブルかつ自然への影響が緩和された再生可能発電に置き換えたり、ごみ焼却発電所なども、活用すること。
2つ目は、インフラ導入にあたって、災害対策、暑熱対策、水管理、地域景観などの生態系サービスを一体で設計すること。
3つ目は、地熱やグリーンインフラのように「自然を活用する」ことで、自然資本や都市インフラ等の維持管理費や災害被害を抑える事業モデルを作ることです。
自然を壊さないインフラから、自然の力を使うインフラへ。この転換に、大きな事業機会があります。
9. 自治体・地域金融・地域企業:自然資本を「地域の宝」から「地域経営の資産」に変える
9つ目の勝ち筋は、自治体、地域金融機関、地域企業です。
日本各地には、自然資本があります。森林、河川、農地、海、温泉、湿地、里山、棚田、湧水、国立公園、国定公園、自然共生サイト。しかし、多くの地域では、それらが「地域の宝」と言われるだけで、十分に経営資源として扱われていません。ここに大きな機会があります。自然資本を地域経営の資産として捉え直すことです。具体的には、観光、農業、教育、健康、防災、移住、企業誘致、再生可能エネルギー、地域金融をつなげることです。たとえば、ある地域で森林を守るとします。それを単なる保全活動にせず、水源保全、企業研修、環境教育、カーボン、木材、観光、防災、ふるさと納税、地域金融の融資商品につなげる。こうすると、自然保全は「支出」ではなく、地域経営の中核になります。地域にとって、ネイチャーポジティブは「環境政策」ではありません。人口減少時代の地域経営戦略です。
地域の宝を経済(マネタイズ)に生かすためには、まずは、需要圏となるより大きな都市経済圏からの物理的な距離を考えてみると良いでしょう。
この上で、地域にコミットしながら、ビジネスも広げてゆく、「ローカルゼブラ」を中心にエコシステムを創ってゆく、そのような流れになるかと思われます。
もしも、あなたが地方銀行や自治体の方であれば、ネイチャーベンチャースタジオを立ち上げて、こうしたローカルゼブラの誕生と育成を支援するのはいかがでしょうか?
具体的にどのような事例があるか?については、以下の環境省の中間取りまとめが参考になります。
いずれにせよ、マネタイズのIssueであれば、地域資源の前に、需要先とそのニーズを先に理解すること、自分たちは何者であるかを先に決めてしまわないことです。
自治体・地域金融・地域企業の勝ち筋は、次の3つです。
1つ目は、地域にコネクトができる需要地のニーズを探ること。この上で、自然資本を棚卸ししてマッチング仮説を持つこと。
2つ目は、この需要地の初期ニーズ仮説に基づいて、自然資本を観光、農業、防災、教育、企業誘致に接続すること。この際、産業育成などという言葉を使わず、「人」や「ローカルゼブラ」などなるべく顔が見える形で進めること。
3つ目は、自然を守る財源は、利用者負担、寄付、投資、融資、企業版ふるさと納税などで組み合わせることです。公的資金や補助金は最後の最後に考えること(なるべく使わないこと)。
10. イネーブラー業:ネイチャーポジティブナビゲーター
10個目の勝ち筋は、イネーブラー事業者です。ネイチャーポジティブが広がると、企業には多くの課題が出てきます。
何から始めればよいのか。どの技術が良いのか?お金が借りられるのか?どの部署が担当するのか。どのようにデータを集めるのか。どうやって国際標準戦略で勝ち残るのか?サプライヤーとどのように協調するのか。自然関連の目標をどう置くのか。
ここに、専門サービス業/イネーブラーの大きな機会があります。ただし、単なるお勉強会や開示支援だけでは、すぐに差別化が難しくなります。これから必要とされるのは、理解を促すイネーブラーではなく、経営を変える支援です。TNFDの自然関連移行計画は、将来志向の戦略、行動、説明責任の仕組みを、組織の主要な事業戦略に組み込む考え方を示しています。本件の1~9を具体的にいち早く実現して、当該領域のベストプラクティスになること、世界に発信し、需要されることです。たとえば、自然回復型サプライチェーン高付加価値商品、調達リスク低減、ブランド価値、生物多様性を高める開発賃料、入居率、資産価値、ESG投資対応、自然への再投資型観光入域料、体験料、寄付、地域消費、自然リスク評価と自然投資融資、保険、投資商品、リスク管理製造・素材・化学低自然負荷製品製品差別化、調達要件対応、コスト削減、トレーサブル調達、規制対応商品政策、サプライチェーン管理、ネイチャーインテリジェンスSaaS、データ基盤、リスク評価ツール、自然を活用した防災・水管理インフラ投資、維持管理費削減、地域レジリエンス、自然資本型地域経営観光、農業、教育、防災、企業誘致、財源化、経営変革としての自然資本支援移行計画、研修、戦略策定、実装支援・・・。
つまり、支援者側に求められる能力は、生物多様性やサステナビリティ開示などの「知識」だけではなく、事業戦略/財務調達/サプライチェーン確保/地域政策/データ/組織変革をつなぐ「力」が必要になります。これからの自然資本イネーブラーは、パソコンでパワーポイントを創る人ではありません。自然資本に現場で取り組む人です。知識面は人工知能が、実行力はロボティクスや完全自動システムの構築が担う時代がすぐきます。イネーブラーのプロフェッショナルの緩いエコシステムは、この観点で自然や環境にとどまることがないということです。ネイチャーポジティブ専業の投資ファンドやベンチャーキャピタルはこうした役回りを果たすかもしれません。
まずは、イネーブラーとしては、ビジネスチャンスを把握することが最初に一手かもしれません。
この領域の勝ち筋は、次の3つです。
1つ目は、自然関連の開示や法規制や国際合意を、業種別の自然リスクと事業機会を翻訳し、経営、事業、サステナビリティをつないで、経営計画、投資計画、調達方針、現場、製品・サービス・ソリューションに接続・変換する支援です。
2つ目は、これから3年、ネイチャーポジティブ経済の立ち上がりの構図を想定しながら、イノベーションをパッケージ化して、プラットフォームとして提供できる事業者をネットワーキングしつつ、産業としてのケイパビリティを整えてゆくこと。
3つ目は、経営層、事業部、サステナビリティ部門をつなぐ人材育成を行い、人材を提供してゆくことです。
普通の産業育成と同じですよね。ネイチャポジティブ関連も2030年に向けてこれから3年半をかけて、急速に産業化が進むと思われます。イネーブラーの腕の見せ所です!
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