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第百二十四回:【わわわ説明術】応用編その4:誤解の許容範囲を設計する


今日は2026年3月11日です。最近は週1回のペースで説明に関するコラムを投稿しています。このペースがいつまで続くかは分かりません。そろそろ飽きてきました。とはいえ、ある程度の数がないと格好がつきませんからね。もうちょっとだけチマチマ頑張ります。そんな与太話をしたところで、今回もゆるく行ってみましょう。超不定期連載「分かりそう」で「分からない」でも「分かった」気になれるITコラムでございまぁす。このコーナーでは、各用語の説明ページでは取り上げにくいIT関連のネタをテーマに、だらだらと思いついたことを書いていきます。みなさんが「あぁ、なんか役に立ちそうな気もするけど、役に立たないかなぁ。でも、もしかしたら役に立つかも」と思える情報を発信できるように頑張ります!


はじめに


栄えある百二十四回目のテーマは……ピヨピヨピヨピヨ(ぴよぴよ的ドラムロール)……じゃん!

【わわわ説明術】応用編その4:誤解の許容範囲を設計する

です。
今回もITと関係ないネタですが、どーんまい。

去年『「分かった!」と思わせる説明の技術 知識ゼロの相手にも伝わるようになる本』という本を出版させていただいたのですね。
その本の「はじめに」で、うんちゃらかんちゃら。
その1で書いた内容の繰り返しになるので、やめておきます。
気になる方は「【わわわ説明術】応用編その1:1文字削るな」を、ご覧ください。

コラムの体裁を取っていますが、今回は(も)私の「説明の技術」のご紹介です。
今回ご紹介するノウハウは

説明する内容を加工するときは「どう誤解するか」「誤解すると、どう困るか」「その誤解を訂正できるタイミングは、あるか」を考える

です。

応用編その3の内容は、私の文章術における基本技であり奥義でした。
今回ご紹介する内容は、私の説明術における禁忌技です。
見様見真似でやると大怪我しかねない諸刃の剣だったりします。
本音で言えば、できれば真似しないでほしいと思っています。
「こんなことも考えているのね」程度に読んでいただけると嬉しいです。


本に書いたこと


『「分かった!」と思わせる説明の技術』の中で

端折って情報量を減らす

というノウハウを、ご紹介しています。
「処理しなくちゃいけない情報の量が多過ぎると、相手の頭がパンクしちゃうよ。だから、相手が処理できるくらいまで情報量を減らしてあげようね」という話です。

その話題の中で、以下のように書きました。

どの情報を端折るか決めるときは"おもてなしの視点"が重要です。
「相手は何を知りたいのか?」を意識して、伝える情報を取捨選択してください。

※『「分かった!」と思わせる説明の技術』P88より引用

今回ご紹介するのは「伝える情報を取捨選択」する上でのノウハウです。
私が、伝える情報を取捨選択するときに考えていること(の一部)を、ご紹介します。


本に書いていないこと


端折って情報量を減らすことで起きる弊害、それは

誤解

です。

伝える情報の量を減らすほど、誤解される可能性は上がります。
相手の推測に委ねる部分が大きくなるからです。

それは仕方ありません。

だから私は考え方を変えました。

誤解されないのが無理なら、誤解されても実害が出ないようにすれば良いじゃない

と。

そのように考えて生み出したノウハウが

説明する内容を加工するときは「どう誤解するか」「誤解すると、どう困るか」「その誤解を訂正できるタイミングは、あるか」を考える

です。

そんなことを言われてもサッパリ分からないと思うので、事例を3つ挙げさせていただきますね。

まずは1つ目の事例です。

わわわIT用語辞典はITの専門家「以外」の人に向けて作っているIT用語辞典です。
そのため、見てくださる方への配慮の優先順位として

1.ITの専門家ではない人(非専門家)
2.ITの専門家予備軍(まだ専門家ではないけど専門家を目指している人)
3.ITの専門家


を絶対の基準として設定しています。

例えば「ここの情報を補足してあげると『2.ITの専門家予備軍』に対して親切だよね」と思ったとしましょう。
その補足を入れることで「1.ITの専門家ではない人」が「なんか難しいな」と思ったり「よく分からないな」と思う可能性が上がるのであれば、その補足は足しません。
配慮する優先順位は絶対的に

【配慮する】「1.ITの専門家ではない人」>「2.ITの専門家予備軍」>「3.ITの専門家」【配慮しない】

だからです。
※実際には用語ごとに細かい調整をしています。例えば「権威DNSサーバ」のような用語であれば「完全なITド素人は調べないよね」と考えて「2.ITの専門家予備軍」に向けて書いたりしています。

原則として、わわわIT用語辞典は、そのような方針で運営しています。
ただ、ですね。
わわわIT用語辞典を見てくださる「2.ITの専門家予備軍」の方が徐々に増えていったのです。
その結果「さすがに『2.ITの専門家予備軍』の存在を無視できないよね」と考えるようになりました。

そうなると困るのが

どこまで誤解を許容するか

です。

説明の仕方によっては誤解を生みます。
その誤解が

(1)理解度30%で十分な人(1.ITの専門家ではない人)は誤解したままでも困らない
(2)理解度80%を目指している人(2.ITの専門家予備軍)は誤解したままだと理解度50%くらいの段階で困る


みたいなことになり得るからです。


コラム125_1

配慮の優先順位に照らし合わせれば、優先すべきは(1)です。
しかし、読んでくださる方に「2.ITの専門家予備軍」が増えている以上、(2)も無視できません。

そこら辺をあれやこれや考えて、ウンウン唸って考えて、そのうち考えるのが面倒くさくなった私は

学習の流れを予測して、実害が出る前に誤解を訂正できるタイミングがありそうだったら、誤解されてもOKということにしよう

と考えました。

つまり

(1)理解度30%で十分な人(1.ITの専門家ではない人)は誤解したままでも困らない
(2)理解度80%を目指している人(2.ITの専門家予備軍)は誤解したままだと理解度50%くらいの段階で困る




(1)理解度30%で十分な人(1.ITの専門家ではない人)は誤解したままでも困らない
(2)理解度80%を目指している人(2.ITの専門家予備軍)は誤解したままだと理解度50%くらいの段階で困る
(3)理解度50%に至るまでに誤解を訂正できるタイミングがありそうだったら、その誤解を許容する


と結論付けたのです。


コラム125_2

例えばIPアドレスの説明をするときに「インターネットの世界の住所だよ」と説明したとしましょう。
その説明を受けた相手は「住所ということは固定なんだな(変わらないんだな)」と考えました。
IPアドレスは変えられます。
固定では、ありません。
よって「住所ということは固定なんだな(変わらないんだな)」というのは誤解です。

ただし、普通にインターネットを使う分には、そのように誤解していても困りません。
多くの場合「インターネットをするときに必要な情報なのね」くらいの理解で事足ります。


コラム125_3

「住所ということは固定なんだな(変わらないんだな)」と誤解して困るのは、IPアドレスを設定する立場になったときです。
「このパソコンのIPアドレスを〇〇から××に変えて」などと言われたときに「えっ!?IPアドレスって固定じゃないの?!」とビックリすることになります。


コラム125_4

……うん、大丈夫そうじゃね(--?
ちょっと自分で勉強すれば「IPアドレスは変更できる」という情報が見つかるだろうし、もし気付かなかったとしても、そこまで実害はないよね?多分。


コラム125_5

そのように考えて「この誤解は許容して『インターネットの世界の住所だよ』と説明しちゃえ!」と判断します。

一方「ファイルを消すときに使うコマンド」を「いらないファイルを消せるコマンド」と説明するのは、どうでしょう?
これはマズそうですよね。
実際には「いらないファイルを消せるコマンド」では、ありません。
どんなファイルでも消せるコマンド」です。
リスクを過小評価して使うと「必要なファイルを消しちゃう」という実害が発生しかねません。
そのように考えて「ファイルを消すときに使うコマンド」を「いらないファイルを消せるコマンド」と説明するのは却下します。

そんな感じで「こう説明すると、こう誤解しそうだな~」「こう誤解すると困ることがあるかな~?」「こんなときに困るか~。でも普通に勉強していたら、その前に誤解に気付けるよね」あるいは「実害が出る前に気付くのは難しいかもなぁ……」みたいに考えて、情報を取捨選択しています。

ちなみに「普通に勉強」しないで誤解を抱えたままでいて結果的に実害を被ったやつのことは気にしません。
私は「できない人」には優しいですが「やらない人」には厳しいのです。

わわわIT用語辞典は、あくまで「入口」を楽に通れることを目指した辞典です。
「奥に進む」必要がある人は、ちゃんと自分で「わわわIT用語辞典の先」を勉強してくださいね。

長くなりましたが、これが1つ目の事例です。
次に、2つ目の事例を、ご紹介します。

ITエンジニア本大賞2026の決勝プレゼン大会において、私は「ごまかしましょう」というフレーズを使いました。
ちなみに、プレゼンの内容は以下から確認できます。
気が向いたら、覗いてやってください(宣伝)

■番外編:ITエンジニア本大賞のプレゼン大会でやったプレゼンの内容です。
https://wa3.i-3-i.info/column122.html

この「ごまかしましょう」というフレーズは結構リスクの大きい言葉選びです。
後の方で

もちろん「嘘をつく」という意味ではありませんけどね。あなたの脳みその中にある知識を全部くれてやる必要はありません。



彼ら・彼女らが必要としている情報を必要としている分だけ渡してあげましょう。

とフォローしてはいますが、真意が伝わるかは微妙だと思いました。

でも、賞レースのプレゼン大会ですからね。
強い言葉でフックを作って聴衆の記憶に残らないと大賞を狙えません。

そう考えて、賛否が分かれる&誤解する人が出てくるのは織り込み済みで「ごまかしましょう」というフレーズを採用しました。

ただし、この時点で後始末も考えています。

まず賛否が分かれるのは確定でしょう。
「『ごまかせ』なんて不誠実だ!」と考える人が出るのは想像できます。
私が今まで頑張って猫を被って作り上げてきた良い人イメージが崩れてしまいますが、まぁ、しゃーない。
必要経費と割り切りましょう(-ε-)

問題は誤解する人が出てくる点です。
「ごまかしましょう」というのは(嘘ではないけど)ちょっと誇張しています。
この言葉を額面通りに受け取られてしまうと私としては困るわけです。

この問題に対しては「本を読んでいただければ誤解は解けるかな」と考えました。
本の中では「ごまかしの技術」なんて書いていません。
「おもてなしの技術」を書いています。
だから、本を読んでいただければ誤解は解けるだろうと判断しました。

そのような思考の流れで「賛否」が「賛」で「ごまかしましょう」の意図を誤解した人は大丈夫だ(誤解が解ける)と考えました。
それでは「賛否」が「否」で「ごまかしましょう」の意図を誤解した人は、どうしましょうか?
彼ら・彼女らは、おそらく本を読んでくれません。
誤解を訂正できるタイミングがないのです。

これは、しゃーない。
諦める\(--)/

「賛否」が「否」の人は、私に対して良い印象は持っていないでしょう。
本は読んでくれません。
多分わわわIT用語辞典も使ってくれません。

そんな人のご機嫌を取っても、私にメリットはない!

……と思うことにして割り切りました。

まとめると

1.「ごまかしましょう」の意図を誤解する人が出てきそう
2.本を読んでいただければ誤解は解けるはず
3.本を読んでくれない人は誤解したままでもドンマイ


と考えて「ごまかしましょう」というフレーズを選んだわけです。
「読者の誤解は解く(解ける)」「読者ではない人の誤解は放置する」という設計です。

これが2つ目の事例です。
次に、3つ目の事例を、ご紹介します。

『「分かった!」と思わせる説明の技術』は、分かりやすい説明を目指す人のための本です。
そのため、基本的には「分かりやすい説明は最高だよ!」「君も分かりやすい説明ができるようになりたいよね!」「分かりやすい説明ができるようになろうよ!」みたいなノリで話が進みます。

ただ、本音で言えば、私は分かりやすい説明が最高だとは思っていません。
私は

正確な説明が、ちゃんと伝わること

が最高だと思っています。
可能であれば情報の正確性は担保された方が良いでしょう。

とはいえ、現実は厳しいのです。
「正確な説明」が伝われば最高ですが、伝わらないときも多々あります。

そんな現実を前にして、それでも情報を伝えたいときは

1.「正確な説明」を聞き手が頑張って理解する
2.「正確な説明」を「聞き手が分かる説明」に加工して届ける


のどちらかしか選択肢はありません。
この2つのうち「2」で出てくる「聞き手が分かる説明」が「分かりやすい説明」です。

つまり「正確な説明」が伝わらないときに登場する「分かりやすい説明」は次善策なのですね。
最高では、ありません。

とはいえ「分かりやすい説明を目指そう!」な本ですからね。
「分かりやすい説明は最高!」と誤解させるような論調で話が進みます。

そんな誤解を訂正するために用意されているのが第7章です。
第7章の目次は以下の内容です。
ここで「分かりやすい説明は最高!」という誤解を解いています。

第7章 分かりやすい説明で生じる(かもしれない)問題

最後はリスクの話です
問題(1)理解したと勘違いさせる
問題(2)同業者と喧嘩になる
問題(3)目的を達成できなくなる
問題(4)調子に乗って信用を失う


ということで、最後まで読み通していただければ「分かりやすい説明が最高!」という誤解が解ける構成になっています。

……えっ?最後まで読まなかったやつのフォロー?
知らんよ、そんなの。
私は「できない人」には優しいですが「やらない人」には厳しいのです。

ちなみに、この事例3は後付けです。
実際には担当編集者さんと「せっかくなのでリスクの話も入れますか?」みたいな相談をした結果、第7章を入れることが決まりました。
書いているときは「第7章で『分かりやすい説明が最高!』という誤解を解くぞ!」みたいなことは考えていません。
このコラムを書くときに事例を探していて「あっ、これも事例に使えるな」と気付いたので使ってみた、という経緯です。

……という感じで、自分自身で「誤解を訂正する」をやる場合もあります。
今回は「狙ってやっていたよ!」→「ごめん、別に狙ってなかったわ」な訂正をやってみました。

最後に、おまけです。
『「分かった!」と思わせる説明の技術』の「おわりに」で「誤解を訂正する」を実践しています。気付きました?
これは後付けではなく狙ってやっています。
どの部分が該当するかは、ここでは書きません。
気になる方はXとかメールとかでコッソリ私に聞いてください。

これが3つ目の事例です。

これで事例紹介は終わりですが、いかがでしょう。
なんとなく雰囲気をつかめましたかね?

このノウハウを禁忌技に設定している理由ですが、

1.やるのが大変だから
2.失敗したときの被害が大きいから
3.効果を検証できないから


です。

「理想的に運用できたらメッチャ効果ありそうだけど、どれくらい上手くやれているか検証できないし、失敗したときはメッチャ被害が大きそうだよね」なので「やろうとしない方が無難っぽいなぁ(--ゞ」と思っています。まぁ、私は、やりますけど。


まとめ


今回は

【わわわ説明術】応用編その4:誤解の許容範囲を設計する

というテーマで好き勝手に語ってみました。

今回のコラムで、ご紹介したノウハウは

説明する内容を加工するときは「どう誤解するか」「誤解すると、どう困るか」「その誤解を訂正できるタイミングは、あるか」を考える

です。

知識差が大きくなるほど、正確な情報を伝えるのは難しくなります。
端折って情報量を減らす必要が生じます。

端折って情報量を減らすと誤解されるリスクが上がります。
相手の推測に委ねる部分が大きくなるからです。

この状態で「誤解をなくそう」と考えるのは現実的ではないと私は判断しました。
そのため「誤解を管理する」方向性で対策しています。

注意点として、このノウハウには

1.やるのが大変
2.失敗したときの被害が大きい
3.効果を検証できない


という圧倒的なデメリットがあります。
やってみる方は、自己責任を前提として試してください。

やってみたい人に向けて少しアドバイスしておくと

安全側に倒すのが基本

です。

誤解は、させないに越したことはありません。
それが大前提です。

それを前提として「誤解させた方が相手に利益がある」と確信できるときに、ちょっとだけ誤解を許容するのです。

このノウハウを私が実践するときは「誤解させたことにより相手が不利益を被って、それが原因で私が責められるのは仕方ない」と割り切っています。
その割り切りができないなら、やらない方が無難ですよ。


【わわわ説明術】応用編シリーズ


応用編その1:1文字削るな
応用編その2:認知負荷を上げる
応用編その3:視覚効果を考える
応用編その4:誤解の許容範囲を設計する【このページ】
応用編その5:正対しない
応用編その6:相手を憑依させる
応用編その7:説得の技術
応用編その8:その文字、いる?
応用編その9:「1文字削る」の実践例
応用編その10:優先順位を付ける
応用編その11:理解が大事
応用編その12:サンクコストを無視する
応用編その13:誰にとっての良い説明?
応用編その14:肩書で殴る
応用編その15:「体験」をデザインする
応用編その16:語らないで語る
応用編その17:説明は毒の沼
応用編その18:「正確な説明」は諦めるVer.2.0
応用編その19:たとえ話について語るよ(1)
応用編その20:たとえ話について語るよ(2)
応用編その21:たとえ話について語るよ(3)
応用編その22:繰り返すVer.1.1
応用編その23:質問に答える
応用編その24:アイを叫べ
応用編その25:補足の入れ方がメッセージになる
応用編その26:前提を決める
応用編その27:予備知識は「薄める」
応用編その28:点を丸に変える



思いつきで始めて惰性で続けている「分かりそう」で「分からない」でも「分かった」気になれるITコラムですが、いかがでしたでしょうか。また何かネタがあったら、ちまちまと更新していきます。コンゴトモヨロシク。

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